碧は染まった
□選考会
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「皆さんお待たせいたしました。それではこれより[G・I]プレイヤー選考会を始めたいと思います」
舞台上に現れたのは黒いスーツに黒いサングラスをかけた厳つい男。この男が進行役なのだろう。
9月10日。サザンピースで開催される選考会には、会場のほぼ全ての椅子が埋まるほどの人間が集まっていた。
皆いかにも腕に自信がありそうな強面の男たちであり、私のような女やキルアやゴンのような子供はやはり珍しかった。…それにしてもここまでの応募者がいるとは思ってなかった。
「すでに皆さんはふるいにかけられた方々…サザンピースのオークション入場料の1200万Jという金額をものともしない強者ぞろい。このゲームに参加するには念能力が不可欠!!…という情報もすでに御承知のはず…!
そこで審査の方法は各々の念を見せていただき、我々が独断で合否を決定するという方法をとらせていただきます!」
ぴり、とした空気が会場内に流れた。…だれも進行役の言葉に怖じ気づくことはないようだった。
「審査を担当いたしますのはプロハンター、ツェズゲラ氏です!!」
そう、言葉を続けると周囲がどよめき立つ。全員がステージに注目し、袖から男が現れた。
この男がツェズゲラだろう。短い顎髭を生やした、そこまで若くは見えない男だった。なにより、"プロハンター"と紹介されただけはある風格を発している。…ツェズゲラが舞台中央に立っただけで、周囲の数人が息を飲んでいた。
…纏を見てみるが、確かに念の修練度は高い。ただ、強いかは分からない。…私はヒソカのように相手を見ただけで大体の強さを計ることはできない。……強いなら戦ってみるのも良いと思ったんだけど。
「1人ずつ、ステージの上で"練"を見せてもらう。ステージはシャッターとカーテンで仕切り、他の者には様子がわからないよう配慮する。32名!!合格者が出た時点で審査は終了とする」
ツェズゲラが言い終わるとステージの上からシャッターが降りてくる。そのままツェズゲラの姿はシャッターに隠れて見えなくなった。
進行役がこちらに振り返る。
「では、審査を受ける方はこちらからどうぞ」
そう言い終わった途端、前の方の席から人が立ち上がり始めた。
その人数はどんどん増え…直ぐにステージ脇には行列ができた。合格者が出た時点で終了だと言ったからだろう。受験者は200人はいる。その内の35人しか合格出来ないのだから急ぐのは当然だった。
…完全に出遅れてしまったけれど今から並ぶべきか。
隣にいるキルアを見てみるがなにやら考え込んでいた。その奥のゴンを見ても…拳を握って動く気配がない。…これ、私も動かない方がいいんだろうか。
"どうする?並ぶ?"そう聞こうとして背後の気配に口を閉じた。
「くくく…あいつらダメだな…てんで話にならない」
「え?」
後の席から顔を出したのは眉毛の濃い男だった。…私の知り合いではないし、二人の知り合いでもなさそうだ。
「今並んでる連中とその周りを取り囲んでる連中さ。特に行列の周りでうろうろしている連中…一体何を伺っているのやら」
ステージと客席の間にはシャッターとカーテンしかないが、中からは軽い物音しか聞こえない。だからこそ気になるのだろう。それに、既に数人がステージに上がっていっているが戻ってくる者はいない。全員合格した、と考えられなくもない。
「ゲームについてちゃんと下調べが済んでいて頭を普通に働かせれば、順番を競って並ぶ意味などないことに気付きそうなもんだが」
男は呆れたように言う。その言葉にキルアが反応した。
「この選考会で32名も合格者は出ない…!」
「その通り」
男はキルアの言葉に頷く。
男が言うには、今回新しくバッテラが手に入れた[G・I]の本数でプレイできる最大の人数が32人。その32人一杯まで合格者を出すことは考えられない。なぜなら、[G・I]は10年以上誰にもクリアされていないゲームであり、しかも前のプレイヤーがゲーム内で生きている限り後の者は同じメモリーカードで参加ができない。
なら、今後より有望な者が現れたときの為にもいくつか空席は残しておくはず。だからあくまで実力が優先であり早さを競う必要はないのだと。
「見込みがあるのは開始と同時に迷わず席を立った数人と、カラクリを理解して席に残り集中してるオレ達…なァ、そっちのボウズ」
男の視線はゴンに向いていた。…ゴンの拳を凝で見る。オーラが集められていた。ゴンはずっと練に集中していた。
「ゴン、お前気付いてたのか」
キルアが尋ねるとゴンは拳はそのままで顔をこちらにむける。
「いや、オレはそこまで考えてたわけじゃないよ。なんとなく審査は厳しそうだから32人も選ばれないんじゃないかとは思ったけど…。それよりも主催者の側から考えたら…早い者勝ちとは言ってはいるけど、せっかく集めた人達の実力は全員確かめておきたいって思うのが人情かなって」
「ガッハッハそりゃそーだ!!」
ゴンの言葉に男は大笑いする。…私は少し眉をひそめた。
「そっちのお嬢ちゃんは?」
"お嬢ちゃん"という言葉に肩をぴくりとさせる。…そんな年ではないため少し恥ずかしい。…顔が見えないのが幸いだった。
男は私に尋ねながら伺うような視線を向ける。…私を怪しんでいるのは十分に感じ取れた。
私は今、黒髪のウィッグに白いお面をつけていた。お面はそこら辺に売っていたものを適当に買ったのだが…自分でも正直不気味だ。男が警戒するのも無理はない。
『私は…二人が動かなかったので座ってただけです』
考えて、当たり障りのない言葉を選ぶ。
選考基準が実力重視なら合格者が32人出たとしても後で直談判すればいい。それに、そういうことがないようにゴンの言う通りとりあえず全員確かめる気はしていた。
「へぇ…そうかい。…あんたの実力は見れば分かる。一体このボウズらとどんな関係だか聞きたいもんだが……教えてくれそうもねェな」
私の視線を感じたのか男は真剣な顔を崩す。
「次の方どうぞ」
「よっと」
それから進行役の言葉を聞くと席から通路へと飛び出した。
「オレの名前はプーハット。ま、よろしくな」
男…プーハットは片手を上げて応えるとステージへと歩いていく。
「あーゆーウンチクたれんのに限って受からなかったりするんだよな」
キルアの言葉に私とゴンは苦笑いをした。
プーハットの背中がカーテンの向こうへと消えていったのを眺め、私はやっと口を開く。
『私たちも行こうか?』
「ああ」
「!」
キルアは席を飛び越えて通路に出る。
「先に行くぜ」
『うん』
「がんばって!」
私とゴンに見送られてキルアはステージに上がっていった。
『並んでようか』
「うん」
私が立ち上がるとゴンが前に出た。
「そういえばノアはどうやって練を見せるの?」
『え?』
ゴンに聞かれて考える。…ゴンはきっと、さっきの拳を見せるのだろう。あれはウボォーの右手と良く似ていた。私にもできるだろうが、同じことをするのもよくない。それにゴンよりも見劣りしてしまうだろう。
『実は少し悩んでるんだ。だから、ツェズゲラさんを見て決めるよ』
「?」
私の言葉にゴンははてなを浮かべる。私はその姿にくすりと笑った。
『それじゃ、がんばってね』
「うん!ノアも!」
キルアが終わったのか進行役がこちらに振り返ったのを見て、ゴンがステージへと上がっていく。
…そして少しして
『!』
__ドオン と地響きのような大きな音がした。
音はステージから…ゴンが何をしようとしていたのかは分かっていたけど、すさまじいな…。やっぱり私は力勝負でいくわけにはいかない。