鬼と小鬼

□ゴリラはいつでも本能のままに
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先日、局長と銀がバトりそのことが屯所内では噂になっていた。

というのも、局長が女にフラれ決闘に卑劣な手で負けた。というものだ

…まぁ、そうなんだけどさ

『局長、動かないでください』
「そう言われたって……痛っ!いたたた…!」

ああ、私は何をしているかって?
局長の腫れた頬に張ったシップを、張り替えているんですよ。

『にしても、見事に腫れましたね』

たんこぶとかよりもはるかに大きく腫れてる

「いやーほんとなぁ!!よく腫れたよな!」

となぜか嬉しそうに笑う局長

誰もほめてないんですけど…

『よし…これで大丈夫です。安静にしてください』
「ああ!すまないなぁ至恩」

と言って頭をわしゃわしゃと撫でられる

………。

『局長、セクハラですよ』
「何!?俺にはお妙さんという人が……」

局長には皮肉めいた言葉も通用しない

お人好しなのである。

だが、そんな局長を隊士たちは心から信頼し尊敬しているのである。

「それじゃ、会議に行ってくる!」
『はい。お気をつけて』

局長は医務室を去っていった


ん?

『あれこれ、局長の』

局長が座っていたところにはお妙さんの写真が落ちていた

はぁ…本格的なストーカーだなこりゃ

『とりあえず…渡しにいかないと』

私は直ぐに立ち上がり、局長の後を追う

「よ〜〜し、じゃあみんな。今日も元気に市中見廻りにいこうか」
『局ちょ!…う?』

なぜかそこにいた隊士全員がこちらを見ている

「ん?どーしたの?」

局長の問いに副長は大きなため息をついた











私は副長と沖田隊長と共に絶賛見廻り中である。
といってもただの見廻りではない。

『つまり、先日の出来事のお陰で隊士たちが殺気立っていると』
「ああ」
『それで副長は、局長に卑劣な手を使って勝った白髪男を倒すことで、落とし前をつけると』
「ああ、でけー事になる前に俺で始末する」

副長は当たり前というように私の問いに答える。

そう、朝の隊士たちの様子はどーやら局長の頬を見てああなっていたらしい。

「土方さんは二言目には"斬る"で困りまさァ。古来暗殺で大事を成した人はいませんぜ」
「暗殺じゃねェ、堂々と行って斬ってくる」
『副長、さすがに行き過ぎな気が』

というか、相手は銀だし

「そーですぜ。適当に白髪頭の侍見繕って連れて帰りゃ、隊士達も納得しますぜ」
『あ、丁度いいところに。副長、この方なんてどうです?』

その人とは、汚れたジャージを上半身だけにまとい、グルグル眼鏡をかけた白髪のおじさんだ。

「ホラ、ちゃんと木刀もちな」

木刀を持たせれば侍に見えなくも……無いわけはない。見えねーよ。

「ジーさん。その木刀でそいつらの頭かち割ってくれ」
「パッと見さえないですが、眼鏡とったらホラ、武蔵じゃん」
「『何その無駄なカッコよさ!!』」

思わず突っ込まずにはいられないほど、白髪おじさんは良い目をしていた。




白髪おじさんと別れ、白髪の侍探しに戻る。

「てかお前、昨日あそこにいたんだろ?白髪野郎知ってんじゃねぇのか?」

ふと副長が尋ねる

『知ってますよ』
「はぁ!?だったら先に言『言う気はありませんけど』

副長の眉間の皺が深くなる

「何でだ。…もしかして知り合いか?」
『知り合い…そうですね。てか、副長も知ってますよ』
「俺の知ってる奴?」

副長が考える

「おーい兄ちゃん、危ないよ」

そこに、言葉とは反対に、危ない要素をまったく含んでない声がかかる

「うぉわァアアアァ!!」

副長が上を見上げ避ける

ガシャン!!

上から木材の塊が落ちてきた

「あっ…危ねーだろーがァァ!!」
「だから危ねーっつったろ」

作業着の男が梯子を降りてくる

「もっとテンションあげて言えや!わかるか!」
「うるせーな。他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」

男はヘルメットを外す

『あ』

今回の標的である銀であった

「あ"あ"あ"あ"あ"!!てめーは…池田屋の時の…」
『ね。知り合いだったでしょう?』
「そぉか…てめーも銀髪だったな」

副長が銀に話しかけるが、銀の表情は至って変わらない

「…えーと君、誰?至恩ちゃんは分かるけど…。
あ…もしかして大串君か?アララすっかり立派になっちゃって。
なに?まだあの金魚デカくなってんの?」
『銀、大串君じゃないですよ』
「そーなの?てか至恩ちゃん、こんな所で何やってんの?
あ、銀さんに会いたくなってここまできちゃった?」

銀の顔がにやける。少しだけイラッとした。

『それはない』
「即答!?」
「オーーイ!!銀さん早くこっち頼むって」

上から声が聞こえる

『仕事中すみません』

一応謝ってはおく

「ん?あーいや、至恩ちゃんと会えたし謝る必要はねーよ。
じゃ、至恩ちゃんに大串くん。俺仕事だから」

と言い、銀は梯子を登っていく

「いっちゃいましたよどーしやす大串君」
「誰が大串君だ」

副長が沖田隊長の髪をガッと掴む

「あの野郎…至恩は覚えてんのに俺のこと忘れやがって。
総悟ちょっと刀貸せ」

総悟が刀を渡すと、副長は梯子を登っていってしまった

『本当に斬るつもりなんですね副長』
「そのようでさァ。…にしても、近くで見るとよけいによく似てますねィ…」

沖田隊長が呟くが聞こえない

『え?』
「何でもないでさァ。それより、俺たちは高みの見物といきやせんか?」

沖田隊長の視線は、近くの家屋を示していた

『そうですね…二人の戦いには興味があります』

銀の実力は初めてあったときに分かっているし、副長は言わずもがな鬼の副長だ。
あの二人の戦いはどーなるんだろう…

少しだけ頬が楽しみで緩む

「じゃ、いきやしょう」

私は沖田隊長の後を付いていった

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