SECOND TIMES 番外編
□干し柿
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着いたのはある林。なんだ、鬼ごっこか?かくれんぼか?はたまた木登りか…。なんでもカムヒヤーなんだけどさ。
『で、何して遊ぶっ!』
キン 金属音が響く。
『ちょ、いきなり何すんの』
「流石は隊長さんやわ。簡単にいきそにない」
ギンはいきなり刀を抜いて向かってきた。とっさに受け止めたから良かったが…今のは割と本気だったな。
『…で、何すんのよ』
「遊びや。別に殺そうとは思とらん」
『私もなめられたもんで』
打ち込んでくる刀を全て受け流す。まともに張り合う気はない。
「やる気ないやろ」
『あるわけないだろ。元々サボってたんだし』
「僕もなめられたもんやね」
さっきの台詞をそのまま使われるとは。少しだけイラッときたぜ。
「ちょこまかと…」
『そちらこそ』
流石に新米席官に負けるほど私は落ちちゃいない。こっちは隊長なんだぞ。
『……つーかこれ、頼まれたの?』
「?」
『あいや、違うか』
予想が違うのはありがたい。誰かに頼まれた…もしくは命令されたのであれば、それ相応の対応をしないといけないからな。
「………なら、勝ったほうが残りの干し柿食べれるいうのはどうや?」
『え?マジで?』
「決まりやね」
食べ物で釣られたら乗るしかないだろう。
少しだけ霊圧をあげた。
『っと』
「!…隙あり」
『はっはっはー!甘いな少年』
攻防一千。私が霊圧をあげたのを感じて、ギンも少しだけ本気を出している。
たまにはこうやって体を動かすのも悪くないもんだな。
「よそみしてるなんて余裕やねっ」
『っとと。死角はずるいだろ死角は』
「軽々よけといてよく言うわ」
にやりと、互いに笑いあった瞬間。
ドクン と心臓が波打つ。この経験は慣れているもので原因も直ぐに分かる。
『!…ちょ、タイム』
「は?」
私は自身の口を抑える。…今日は割りと調子良いと思ったんだけどなぁ…。
紅牙に文句も言えないから仕方ないけど。
「どした、!?」
喉を競り上がってきた血が私の手を、地面を赤く染める。うげぇ、鉄の味。血は美味しくない。
『ごほっ、』
ギンは驚いていた。……年相応の顔もできんじゃないか。
『………っ、はぁ。……あー、喉がやける』
水が飲みたい。口ゆすぎたい。
ギンは…私の隣に来ていた。いつのまに。
「……病気なん?」
『まね。たまに発作が起きる。浮竹隊長ほどじゃないけれど』
「………」
『ん?どーした?もう大丈夫だけど』
「………止めや、止め」
『はぁ?』
ギンは刀を鞘に納める。病気だと知って気を使ったのだろうか。それはそれでありがたいけど。手が血だらけなのは気持ちわるい。
『えー、じゃあ干し柿は?』
「……一緒に食べればええやろ」
顔を背けてしまうギン。髪から覗けた耳が少しだけ赤い。照れてるのか。
『……にしても。君のことだから血だらけでも容赦なく刀振ってくると思ってたわ』
「病人相手に本気だしたかない。それに」
『それに?』
「……守りたい人がいるんや」
守りたい人…?流れ的に、その人も病気なのだろうか。なんとも意外。この少年は結構いい子なのかもしれない。糸目と狂気を感じるだけで。
『どんな子?』
「………秘密や」
『へぇ、ふーん。あそう。秘密ねえ』
「…………なにニヤニヤしてはるの」
『いーや別に』
ギンはその子の為に死神になったんだろうか。守りたい人の為か。少年のくせに格好いい理由だな。うらやま。
『んじゃ、その子は絶対大切にしなきゃあね』
「………そやね」
私の問いにギンは複雑な顔をする。もう既に、大切とは程遠いことをしたように。
隊舎に戻ると、万が一血だらけをみられたら面倒なので、五番隊隊舎の水道を借りる。
ギン曰く、ここの水道は使われていないらいしい。なんでかと聞いたら、皆、水が止まっていると思っているみたい。実際は普通に流れるのだが。
若干のボロさはあるが、人が使わないのは好都合。遠慮なく洗わせてもらう。
「椎名」
『んー?』
「椎名には守りたい人、おらんの?」
水音と混じって後ろからギンの声が聞こえる。
『守りたい人ねぇ。ひよりちゃんとかかなー。遊びたいし。あでも、そうなると副隊長とかもかな。いないと仕事たまるし』
羽織に血の赤は目立つ。…水じゃここまでが限界か。あとは部屋でやろう。そう決め、羽織を畳む。それから口をもう一度ゆすぐ。うん、すっきり。
「そういうんじゃなくてなぁ…」
『私は、周りが傷つくのがなんか嫌なんだ。原因は分かってるんだけど…。だから、もしギンが傷ついてたなら私は君を助ける』
後ろを振り向くとギンは干し柿を食べていた。おい、私の分あるよな。
「…それは嬉しいなぁ」
『だろ』
ギンの腕から最後の干し柿を奪い、食べる。
ギンは…最後の一個やったのに、など言っているが少しも残念さは出ていない。つか、一緒に食べる約束だろ。と言えば、そうやったっけ?と知らんぷり。平気で嘘を吐くなよ。
『うん、やっぱ旨いわ』
ずっとこうやって干し柿を食べながらぼーっとしてたい。
でも現実はそうはいかない。
ひらひらと飛んできて私に止まった地獄蝶が伝える。
現世で虚発生。それも大虚まで。
ああ……まったく。
世界も干し柿みたいに甘くなれよ。
口の中の干し柿を飲み込んだ。