SECOND TIMES 番外編
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『………どうしてこんなことに』
そう嘆く椎名は、魔女のコスプレをして首から"おいしいケーキはこちら"とかかれた看板を首から下げていた。
話によると、店長さんが椎名が俺の友達だと知るや否や、椎名にも手伝って欲しいとお願いしたらしい。
隣の思いっきり嫌な顔をして猫背な姿に苦笑する。
「ケーキに釣られた椎名が悪いだろ」
『だって普通タダって言われたら食いつくだろ。しかもカボチャケーキだぞ!それもホール!』
椎名は悔しげに…あの策士め…などと呟いている。
『…くそ。これじゃあ一護を笑えないじゃないか』
「いや笑うなよ!」
『はぁ………周りの視線が痛い…絶対皆、心の中で私たちを嘲笑ってるんだ』
椎名は嘆く。
確かに通りを歩く人は皆、椎名を見ていた。
原因は…椎名自身だろう。
短めのワンピースからは細い手足がすらりと伸び、少し癖のある髪の毛は高めに結ばれていた。そして頭には小さい帽子が可愛らしく乗っている。
それでいて、服の紫が大人びな印象を与えていた。
元々椎名は…美人だ。高校でも密かにファンが居たくらい。
そんな椎名のコスプレなのだ。
さっきから感じる視線も、全て好奇なもの。
『…つか、寒いなこの格好…』
…本人は自覚してないみたいだけどな。
『……』
「…なんだよ」
『いんや』
また椎名がこっちを見ていたので聞いたら、目を反らされた。
…反抗期かよ。
『はぁ…まさか、ハロウィンに一護とバイトすることになるとは』
「嫌かよ」
『別に楽しいよ』
そういって少しだけ微笑む椎名。魔女の格好だからかどこか妖艶で、思わずドキリと胸が高鳴る。
「…そ、そもそも、椎名はなんでこの通りに居たんだよ?」
誤魔化すように椎名に聞く。
『あぁ、喜助さんのとこ行った時に教えてもらった』
「…浦原さん?」
『うん。浦原商店で義魂丸とかの補充とかね。その時にハロウィンだから商店街が賑やかだって、教えてもらって』
「…そうかよ」
『一護?』
不思議そうな顔に頭が冷えていくのを感じた。
ああ…聞かなきゃ良かった。
椎名は、浦原さんに言われてここに来たんだ。
胸のなかに黒いものが渦巻く気がした。
『あ、そうだ一護』
思い付いたように椎名が言う。
『喜助さんがこの通りはクリスマスも凄いんだって』
椎名は俺の心境に気づくことはなく、話を続ける。
喜助さん、喜助さんって…
『だから一護、その』
「浦原さんはもういいだろ」
『え?』
椎名の顔がこちらを向く。驚いた顔をしていた。強く言ったつもりはないが、その顔になんとなく罪悪感を覚える。
「…いや、悪い。なんでもねえ」
『そう。なら、いいけど』
椎名は顔を正面に戻す。横顔が少しだけ残念そうに見えた。
それが、そんなに浦原さんのことを話したかったのかと錯覚する。そしてまた、黒い何かが胸の内で渦巻く。
ああ…俺、嫉妬してんだ。浦原さんに。
椎名に俺の勝手な嫉妬を押し付けてしまった。
微妙な空気が流れ込む。
何か話題はないかと、さっきの会話を思い出す。