碧は染まった

□不思議な人
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三次試験、多数決の道の途中、試練官5人との戦いで試験時間の50時間を支払うことになったゴン達は指定された部屋にて時間を消費していた。

それほど大きくない部屋だ。見るところは直ぐに無くなる。やがてそれぞれがそれぞれの行動をしはじめる。

「………」

オレは自分の頭に触れていた。…そうすると、感覚が戻ってきたように感じるから。

「……なぁゴン」
「なに?」

頭に手は置いたまま呼ばれた方を向く。キルアは少し不機嫌な顔でゴンを見ていた。

「"マナ"ってやつのことそんなに気に入ったのかよ」
「気に入ったっていうか……うーん」

キルアに言われてゴンは考える。

気に入った……とは違う気がする。でも確かにオレはマナさんのことが気になってるし…好きか嫌いかなら多分好きだ。

「"マナ"ってゴンが話してた奴か?」
「うん!」

レオリオの問いに頷く。

「そういやあの人すげぇ美人だったな」
「美人って、マナは男だろ」
「うそだろ!?」

キルアの言葉でだらしない顔だったレオリオが一転。信じられないものを見たような顔になる。
あの顔で男はねーよ!と続けて叫ぶ。クラピカの眉間に皺が寄った。

確かにマナさんは凄く綺麗な人だ。美人っていうのも間違ってない。

「オレはあいつ、あんまり信用しない方がいいと思うぜ」
「なんで?いい人だよ」

何故かむっとした感情が湧いてくる。
キルアの言葉にゴンはあからさまに不機嫌を表した。

「怒んなよ。大体な、いいやつってのは実は悪いやつなんだって」
「それはキルアがひねくれてるからでしょ」
「ひでーな!まぁ、間違ってねーけど」

だって、マナさんは本当にいい人だと思う。オレを見る目がミトさんと似ていたから。

「…"好い人"か"悪い人"かは私にも分からないが、確かに警戒すべき人物ではあるな」
「え、クラピカまで!?」

思ってなかった人からの言葉にゴンは驚く。

…マナさんと直接話したキルアならまだしも、まさかクラピカが言うとは思わなかった。

「トンパ。お前なら何か知ってるんじゃないか?受験者は全員調べているんだろう?」

クラピカの言葉に、確かに、と全員の視線がトンパに移る。トンパは分かりやすく顔を歪めた。

「……まぁな」
「何か知ってるの!?」

ゴンは身を乗り出す。

知りたかった。マナさんがどんな人なのか。それが分かればこの不思議な感覚も理解できるかもしれない。

「………、あぁ分かったよ!」

ゴンにじっとみられて無視出来るわけもない。トンパは諦めたように…半ば投げやりに…言葉を吐いた。

「と言っても、オレが知ってるのはひとつだけだが……マナは」

…ごくり、と誰かが息をのむ。いつの間にかその場にいた全員が耳を傾けていた。

「お前たちと同じ、ルーキーだ」
「やっぱりそうだったんだ」
「…………」
「……………」
「……おい、まさかそれだけじゃねーだろーな」

納得したのはゴンだけで、後の三人は何とも言えない表情。それもそうだろう。欲しいのはそういう情報ではない。

「それだけだぜ?なにせルーキーだからな。おまけに試験が始まる前に情報収集がてら話しかけても、うまくかわされちまった」

下剤入りジュースも"気遣いは有り難いけど遠慮しておくよ"とあっさり断られたしな、とトンパは心の中で続ける。

「後は知りたきゃ自分で聞くんだな。見た感じ、オレよりもお前らの方が答えてくれると思うぜ。同じルーキー同士だしな」

ま、無事にこのトリックタワーを突破できればの話だが。とトンパが続けると一気に空気が悪くなった。

「絶対降りれるよ!というか、絶対降りる!」

だが、ゴンはその空気をものともしない。

…約束したんだ。それこそマナさんと。

撫でられた部分がまた、温かくなった気がした。

「ああ。過ぎたことを言っても仕方ない」
「…ま、これくらいのハンデがあったほうが丁度いいし」
「っああ、そうだな!」

最後、レオリオが言った時だけ全員の視線が向いたが、険悪な重い空気は随分と晴れていた。険しくなるのはトンパただ一人。

「……で、どうしてお前はそんなにマナを気にしてんの」

てっきりこれで話は終わるかと思いきやキルアがゴンに尋ねる。まだ時間はそれほど消費していない。このまま沈黙に戻るのは耐えられなかったのだろう。

「…マナさんは不思議な感じがするんだ。話してるともっと話したいって思えてくる」
「は、なんだそれ」
「本当だよ」

ヒソカの時と少し似ていた。変な緊張感。だけど嫌な感じがしない。ワクワクするけど、ミトさんみたいな安心感もあった。

マナさんと話しているとなんだかふわふわする。初めての感覚だった。

「キルアは感じなかった?ふわふわしてワクワクするんだ」

ふわふわ、という単語にキルアは耳をピクリと反応させる。

「ほら、やっぱりキルアもそうなんだ!」
「ばっ!!これはっ……ちげーよ」

キルアは焦ったように声をあげると顔を背ける。キルアの表情は照れている訳ではなく真剣だった。

「…キルア?」

変化を感じ取ったゴンはキルアに尋ねる。

「……なんでもねー。とにかくオレはマナに"ふわふわ"も"ワクワク"も感じない」
「そうなんだ…」

ゴンはしゅん、と眉を下げる。

「……………」

やべ……流石にはっきり言い過ぎた。自分にとって、ゴンが言う感情を覚える人物は別にいる。…だから対抗心のような感情が生まれてしまった。

キルアは考え、それからレオリオを見る。

「オッサンなら何か感じたんじゃねーの?鼻の下伸ばしてたし」
「だからオレはオッサンじゃねー!つーか鼻の下も伸ばしてねーよ!」

思った通りの反応にキルアはほっと息を吐く。

「そ、そりゃあ……確かに最初はドキドキしたけどよぉ………男だって分かってからはしてねぇ!てか、しねー!!ぜったい!!」

…あぁ、するんだ。と誰もが思う。

その空気にいたたまれなくなったレオリオはクラピカへと矛先を変えた。

「っおいクラピカ!てめーはどうなんだよ!」
「私か?…先ほども言ったが、彼に抱いたのは警戒だ。それ以外の感情を抱くことはない」
「…じゃあ、結局オレだけってことだね!」

ゴンはどこか嬉しそうに言う。……次に聞かれると思い、静かに言葉を準備していたトンパは気まずさからお茶を飲んだ。

「……おまえ、自分だけそう感じるのが嫌だったんじゃねーの?」
「?なんで?」
「…気を使ったオレが間違ってた」

きょとんとするゴンにキルアはため息を吐いた。

そしてまた沈黙が部屋を包む。

「…………」
(マナさんと何を話そう)

ゴンは押さえきれない楽しみで頬を緩める。

「…」
(…もうオレが家出したことは知ってるだろうけど……刺したこと怒ってるかな)

キルアはどこか痛むものを感じて唇を結ぶ。

「……」
(……終わってからではなく試験中も連絡する、と言えば良かったかもしれない。…いや、いつまでも甘えるわけにはいかないが……あの人は放っておくと生活習慣が)

クラピカは表には出さず静かに葛藤していた。

「………」
(………男でもあの顔ならいけ…っいやいやいや!何考えてんだよオレ!!)

レオリオは誤魔化すように頭を振るった。

「…………」

トンパはまたお茶をすする。

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_______
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「大人気だな」
「…………」

ここの他にもいくつか彼を話題に話しているモニターがある。内容は多種多様だ。

「……そんなに目立つ行動してますかね、オレ」

彼は困ったように眉を下げる。…その表情に不覚にもどきりと胸が鳴った。……行動、じゃなくてそもそも目立つのだが…本人は皆目検討がつかないらしい。

鈍感と言うべきなのか、カリスマと言うべきなのか。目立つことは彼にとっては厄介なこと。

「いや行動は至って問題ない。ただ、こればかりは仕方ないだろう」
「仕方ないって……」

はぁ、とため息を吐く彼。憂いを帯びた顔に数秒意識を持っていかれる。

「………」

……いつまでも彼をここに置いておくわけにはいかない。

「次の試験、お前を狩るものはいない。気づかれるなよ」
「ああ。有り難うございます。…8人目を過ぎたので行きますね」

彼は言うと、この部屋の出口へと向かう。

「あー……マナ」
「はい、?」

呼びとめて……呼びとめたはいいが思ったように言葉は出てこない。

「…いや、なんでもない」
「そうですか。…なら、"なにかあったら"呼んでください」
「ああ」

ちょっとした冗談のつもりたんだろう。どこか悪戯に彼は言う。それから部屋を去った。

「………」

……ヒソカとはまた違った意味で危険だな。

リッポーは不覚にも抱いてしまった感情にため息をついた。


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