碧は染まった

□半年
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こういう時私の自動翻訳は便利だ。本を読むときに辞書を引っ張ってくる必要がない。

いつものように仕事に出向けばマチと出会った。マチは私のターゲットが持っていた宝石を盗りに来たらしい。そしてその流れで仮のアジトに出向いていた。

アジトにはクロロだけだった。他の皆は各地に散らばっているらしい。この場にはクロロとマチと先ほど知り合ったばかりのシズク、そして私。

シズクは黒髪に眼鏡。首には逆十字を下げていた。…私のそれも逆なら親しみが持てたんだけど。私の十字架は常に服の下にしまっている。何かに引っ掛かって勝手にとれても困るしな。

一通り読み終わり本を閉じる。見上げればクロロと目があった。

『あれ、マチたちは』
「数時間前に出ていった」
『え。…うわ、気づかなかった』

せっかく会えたんだから話でもしようかと思っていたのに…マチは本に集中する私に気を使ってくれたんだろう。

連絡を取れば会えるが、偶然ばったり会うのはなかなかない。

『ごめん。クロロも私がここにいたら移動しずらいよね』
「オレは好きでいるだけだよ。気にしなくていい」

その言葉にほっと息をつく。

「それより、読み終わったのか」
『うん。内容自体は他の複製版と変わらないかな。言葉の選び方が違うくらい。でも、最後の方が次に続く形で終わったんだ。もしかしたら2冊目があるのかもしれない』

この本は北東民族の伝説をまとめたもの。ただ、伝説というには事実に当てはまることが多い。そのためこの本にでてくる財宝や土地が本当にあるのではないかと、数々の研究家や探検家が目を向けている。…1gで何億もの価値になるであろう希少金属やどんな病や傷をも癒す湧水……とまぁ、夢のような話だがあながち夢とも言い切れないのだ。

…この世界には不思議なものや場所で溢れている。そして人類はまだほんの一部しか把握していない。

「流石だな」
『?クロロも私と読むスピード変わらないと思うけど』

意味の分かっていない様子のノアは首を傾げる。…北東の言語はまだ完全な翻訳が確立されていない。研究者たちがこの本を全て解読するのにどれだけの年月がかかるか。…ノアはたった数時間でそれを成してしまう。

クロロはノアから受け取った本の表紙を捲る。この文字が北東民族で用いられるものだとは分かるが、意味まではわからないな。クロロは本を閉じるとこちらを伺っているノアを見る。

「続き、か……ノアも来るか?」
『どこに?』

唐突な誘いに私はさらに首を傾げる。

「ヨークシンシティのオークションならこれの続きもあるかもしれない」

ヨークシンシティのオークション。と言われてやけに反応してしまうのは仕方ない。…あれからヨークシンシティにはなんとなく近寄っていない。オークションは毎年開催されているみたいだが、もちろん参加していない。

しかし、確かに世界中から価値あるものや珍品が集まってくるオークションならばこの本の続きがある可能性は高い。それにこの本に限らずとも珍しい書籍はところせましと並ぶだろう。……興味がないわけではない。

『確かにその可能性は高いね。…"ノアも"ってことはクロロは参加するんだ』
「ああ。今年は団員全員を集合させるつもりだ」
『全員を集合………そんなに高価なものが?』

団員を集合させるのだから何かを盗むのだろう。…全員でかかるほどの大物…。もしくはその護衛が固いのか。

「いや、オークションに出品される宝を全て頂く」

予想していない答えに驚く。高価なものではなく高価なもの全て、ときたか。それは確かに全員を集合させる訳だ。

『……それはまた大がかりだね』
「ノアも来るなら盗った中にそれらしい本があればとっておく。それに、ノアが来ればあいつらのやる気もあがる」

全員集合…ということは久しぶりに彼らに会えるのだ。クロロやマチとは連絡が取れやすいが…一部の人たちは連絡手段がなかった。…クロロ経由で連絡はとれなくはないけど…フェイタンなんかは頑なに教えてくれなかった為少し(結構)落ち込んだのを覚えている。…私が落ち込んだのを見てフェイタンはさぞ嬉しそうだった。…複雑だ。

そんな彼らに会えるのだ。…避けている場合ではない。過去はどうにもならない。それに、街に出たところで私が死神であると気づくものは誰もいない。

『…そうだね。今年は行こうかな。皆にも会いたいし、本も気になる。…そもそもオークション自体あまり知らないからそこも気になる』
「なら、近くなったら連絡する。…それとノアが心配する必要はなにもない」

クロロは私を見る。その瞳は私の心中などわかっているようだった。クロロは私がヨークシンで何をしたのか知っている。

『ありがとう。それもそうだね。もう何年も経つのに気にしても仕方ない』

それよりも単純に世界最大のオークションというものを楽しむことに目を向けよう。使う宛のないお金を消費するいい機会かもしれない。あ、でもほとんどはクロロたちが盗むのか。

『オークションが待ち遠しいな…』

オークションは毎年9月に行われる。…まだ半年もある。どうにかその日だけは仕事を入れないようにしよう。

「ああ…オレも楽しみだ」

クロロの頬が緩んだのを見て私も微笑んだ。


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