碧は染まった
□天空闘技場 前半
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ここに来るのはあのとき以来。それも、また同じ用件で来ることになるとは。
飛行船を降りてその方角を向けば直ぐに見つかる恐ろしく高い塔。
高さ991m。251階。この塔丸々闘技場なのだから驚きである。
「ノア!こっち」
天空闘技場前は人で賑わっていた。この中から捜すのは少し大変だ。と思っていれば声は横からした。
『キルア。こないだぶり』
銀色を煌めかせて歩いてくるキルア。キルアからの連絡は1週間前。登録のない番号からかかってきた着信に出ればキルアだった。
まず無事にゾルディック家を出られたことを報告された。そして今、ハンター試験で知り合ったゴンと修行とお金稼ぎのために天空闘技場に来ているんだと教えてくれた。連絡は嬉しいがどうしてわざわざ?と疑問に思っていれば、そのゴンが200階クラスの相手と戦って負傷したお陰で一時中断になってしまったらしい。
だから暇になって私に連絡をしたのだろうか、と予想して外れた。「それもあるけどノアに聞きたいことがある」キルアはそう言った。「"念"って知ってるだろ」そう続けた。
まさかキルアからその言葉が出るとは思わなかった。キルアは念についてゾルディック家で習っていない。習う前に家出したのだ。どうして知っているのか尋ねれば、たまたま念の師範に会ったのだと言っていた。
『…本当に使えるようだね』
「ああ。やっぱわかんの?」
『分かるよ。そう纏をされればね』
私が言うとキルアは纏を解いた。
「まぁ、まだ纏しか出来ないんだけど」
『四大行については?』
「話だけ教わった。でもゴンが治るまでオレも修行はしないことにしたんだ。なんかぬけがけみたいでいやだろ」
私は目を丸くして思わずキルアの頭を撫でていた。
「!な、んだよ」
『…ううん。その"ゴンくん"に挨拶させてもらってもいい?』
「ああ、もちろんいいぜ。あいつきっと驚くだろうな」
キルアはゴンの顔を思い浮かべているのか楽しそうに言った。……キルアにとって初めての友達。それも偽りではない、キルアを家まで迎えに来てくれるような友達。キルアのこんなに明るい表情はゾルディック家では見られなかった。
「でもその前に、これみに行こーぜ」
そう言って、キルアがチケットを差し出したのと耳に聞き覚えのある言葉が入ってきたのは同時だった。
「ほんとはゴンの分で買ったんだけど師範がゆるしてくれなくてさ。ノアの到着が今日でよかった………て、ノア?」
_まもなくヒソカ対カストロの試合が始まります。チケットをお持ちのかたは受付まで…
『…ヒソカ』
「そうだけど、知ってんの?」
『いやまぁ…うん』
「ふーん。ま、ここじゃ有名っぽいしな」
ヒソカはオレたちと同じハンター試験に参加していて、そこでゴンと色々あったんだ。と教えてくれる。……うん、それは知ってる。4次試験のゴンとヒソカの出来事は見ていた為知っている。
…ヒソカが天空闘技場の選手だったなんて知らなかった。確かにわざわざ言うことでもないけれど……ヒソカ対キルアじゃなくてよかった。
『このカストロっていう人は?』
「前にもヒソカと戦ったことがあるらしい。つまりリベンジマッチ。その時はヒソカが勝ったけど、ヒソカはカストロから唯一のダウンを奪われてる。他にもヒソカは今まで4Pしか取られてないけど、その内の3Pがカストロ」
ヒソカをダウンさせるなんて。ヒソカが本気だったかはわからないが、並の実力では難しい。……カストロを殺していないのを考えると…ヒソカもそれなりに感じるところがあったのだろう。
「ノア。ぼーっとしてるとはぐれる」
『ああ、ごめん』
会場に入ると人で溢れかえっていた。観客席は満員。キルアの言う通りここではヒソカは有名人のようだ。
…ヒソカの性格を考えれば天空闘技場ほど合っているものはないのかもしれない。ここでは合法的に強者と戦える。それも邪魔の入らない一対一の戦闘。
「ノアはどっちが勝つと思う?」
席につくとキルアが聞いてくる。…会場中心の闘技場には既にヒソカと髪の長い男が向き合っている。あの男がカストロか。みた限りでは普通の優男という印象。となると念が厄介なのだろう。
『ヒソカ』
答えると少しキルアは驚く。
「オレもヒソカが負けるとは思えないけど。…実はさっきノアを迎えに行く前にカストロの部屋に行ったんだけど」
『!え、そうだったの』
私は驚いてキルアを見る。キルアは闘技場のカストロを見ていた。
「ちょっと実力を確かめようと思ってさ、絶をして部屋の中にいるカストロを見てみたんだ。そしたら後ろから声をかけられた。部屋の中に確かにいたはずなのに気づいたら一瞬で移動してた」
『念、だろうね』
「オレもそうだと思う。目では見えなかったから。ヒソカがその能力を知らないならカストロが勝つ可能性もオレはあると思う」
カストロの念が瞬間移動ならば確かに使いみちは色々ある。でも逆にただの瞬間移動ならそこまで脅威でもない。ここは闘技場。範囲が決まっている。瞬間移動の強みはあまり生かされない。
『確かにそれは彼の切り札のようだ。でも、念は使い用。カストロがその念をどう使うかによっては弱点にもなりうる』
「弱点?」
〈さぁー、いよいよです!!ヒソカ選手VSカストロ選手の大決戦!!〉
大きなアナウンスに口を閉じた。…始まる。
『とにかく見てみよう。それで分かる筈だ』
「ああ。そうだな」
多分勝つのはヒソカだろう。けれどカストロという選手にも興味が湧いた。念というのはその人の本質がよくでる。
「始め!!」
審判の声が響くと仕掛けたのはカストロだった。