碧は染まった

□天空闘技場 前半
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結果はヒソカの勝ちに終わった。

前半はカストロがヒソカを押していた。キルアの言っていた瞬間移動のトリック………それはダブル、カストロが念によって作ったもう一人の自分によるものだった。

ダブルにヒソカを攻撃させ、その隙にカストロ自身は死角に潜む。そしてダブルを消し、攻撃することであたかも瞬間移動したように見える。その能力を駆使し、カストロはヒソカから4Pと右腕を奪った。

だが、ヒソカがその仕組みに気づいてからは早かった。

ヒソカは言葉巧みにカストロを動揺させ、その隙に自身の能力伸縮自在の愛(バンジーガム)を仕掛けカストロを敗北…死亡に持ち込んだ。

「…ノアの言った通りだったな」
『うん?』

試合は終わり、会場を出てゴンがいる部屋に向かっている途中。

「"念は使い用。その念をどう使うかによっては弱点にもなりうる"。カストロは自分の念のせいでヒソカに負けた」

ヒソカはカストロを"メモリの無駄使い"と称していた。ダブル、自身の分身体を作るのは容易ではない。ましてやそのダブルを動かし戦闘させるなどどれだけの集中力がいるのか。

『どうすれば勝てたと思う?』

私が問いかけるとキルアは少し悩んで答えを出す。

「…ダブルがバレた時点で戦い方を変えるべきだったと思う。流れが変わったのはそこからだから」
『そうだね。私もそう思う。でも、だからといって攻撃や防御にオーラを割いてもヒソカには及ばない。…カストロはヒソカの強さを計り間違えていた』
「……じゃあ、どうやっても勝てなかったってことかよ」
『それが闘技場の肝だと思うよ。外で戦う分にはいくらでもやりようがある。けれどここでの戦いは力の差に依存しがちだ。キルアも前来たときは仕事でする殺しとの違いに苦労したでしょう?…まぁ、勿論。カストロの念がダブルでなく別のものだったなら話は変わってくる。それを言ってしまえばなんでもありになってしまうけど』

その点、ヒソカの念は良くできている。私も全てを知っているわけではないがヒソカの念は単純。単純ゆえに使いやすい。ダブルはオーラを大量に使うことに加え制約と誓約、条件もあるだろう。

そのリスクがヒソカ一人を倒すためならばダブルももっと違ったのだろうが、そうではないだろう。となると基礎の戦闘能力に依存せざるおえない。

むしろそれが分かっていたからこそカストロはダブルという手段を選んだのかもしれない。…もう死んでしまっているから気になったところで聞く宛はないが。

『相性が悪かったのだろうね』
「………」
『?どうかした』

キルアが止まったので振り替えって首を傾げる。

「…いや、なんでもない」

そう?ノアは疑問に思いながらも歩みを再開させる。

キルアはノアの横に並びながら再確認していた。

ノアをわざわざ呼んだのはノアのオーラを見たかったからだった。ノアの強さは知ってる。…そしてあいつと仲がいい。ノアからあいつのような嫌な感覚を覚えた記憶はないけど、念を習得しているのは間違いなかった。

会って分かった。ウイングさんもそれなりの使い手だっていうのはわかるけど…ノアは次元が違う。

ノアの纏は薄い。なのに少しも破れる気がしない。隙がない、乱れがない。なによりオレと会ってから一度も解いていなかった。…念を知って1ヶ月でもそれがどれほど凄いことなのか分かる。

それに加えて念の知識。オレはカストロの能力には気づけたがそれをどうやって作ったのか、ヒソカに至っては何をしたのか分からなかった。…ノアはそれも分かっている。あの場で起きたすべてのことを理解している。

これがノアのいる世界。

……オレは今その世界に指先だけでも触れることができている。

キルアはその実感に拳を握った。










「キルア!」

キルアが扉を開けると中から元気な声が飛び出す。ゴンはベッドの上に胡座をかいていた。…負傷した、というわりに元気そうだ。

「勝敗を伝えるだけならウイングさんも許してくれると思ってさ。それにその様子じゃ気になって仕方ないんだろ」
「えへへ…」

ゴンは困ったように笑った。それを見てキルアは仕方ないなぁという具合で表情を和らげる。

「それで…その人は?」

気になるのだろう。ゴンは私を見る。

「ノア。オレの昔からの知り合い」
「昔…?」

ゴンは首を傾げる。…昔、というにはキルアはまだ子供だ。

『ゾルディック家と縁があるんだ。でもここにはキルアを連れ戻しにきた訳じゃないよ。キルアが念を教わってるって聞いて、気になってね。君も教わってるんだって?』

補足して説明すればゴンは傾げた首を戻す。

「うん。ノアさんも念が使えるの?」
『使えるよ。…なにか見せようか?』
「え!いいの!?」

試しに言えばゴンの瞳が輝いた。彼らは念を教わったばかり。それもまだ行えるのは纏…キルアは絶もか…のみ。念についての興味は高いだろう。

「おい、ゴン!」
「う………分かってるよ」

見せるなら鎖が分かりやすいか、と思っていればキルアがゴンを咎めた。

「こいつ今ウイングさん…師範に念について調べたり修行することを禁止されてるんだ」
『どうして?』
「ウイングさんの言葉を無視して試合をした結果全治2ヶ月(本当は4ヶ月だけど…)の傷を負って怒られたんだよ。怪我自体は1ヶ月で治ってるけど、ウイングさんには言ってないからあと1ヶ月は念に触れられない」
『そんなことが…』

教わった念を試したかったのだろう。話の流れからしてゴンの相手は念能力者。…全治2ヶ月で済んで良かったとも取れるが、"ウイングさん"からしたらとんでもない行為だったのだろう。

『それじゃあ仕方ないね。またの機会に見せてあげよう』
「うん!」

ゴンは嬉しそうに頷いた。

「それで…どっちが勝ったの?」

それからキルアに尋ねる。その表情はなにかを耐えるようだった。…期待感。ゴンはヒソカと戦うため修行の為に天空闘技場へ来た。本来ならここで修行をしてからヒソカを見つけて戦う算段だったらしいが、ヒソカはここにいた。ゴンからしたら今すぐにでも戦いたいのだろう。

「ヒソカだよ」

キルアが答えてもゴンの表情は変わらない。ヒソカが勝つと予想していたのだろう。

「やっぱヒソカは異常だ。そして強い」
「…うん」

ゴンは頷いて拳を固くした。

ヒソカは決して本気ではなかった。…途中途中、身を削ってまで挑発していたのはヒソカの余裕の表れ。………切れた腕をくっつけたのは見せかけだった。大丈夫かな。流石に治す方法もなしにあんなことをしたとは思わないけど。

『キルアからある程度聞いたけど、ゴンくんはヒソカと戦うつもりなんだよね』
「うん」

ゴンの瞳に揺るぎはない。…勝つ目的、というわけではなさそうだ。戦うことに意味があるらしい。

…ヒソカがゴンをカストロのように殺すことはないだろう。ハンター試験でのことを見る限り、ヒソカはゴンを気に入っている。だからこれは心配というよりも、興味。…勿論キルアの折角の友達が心配だというのもあるが。

『…キルア、少し滞在して離れるつもりだったけどこれから君たちがいる間何度か来てもいいかい?修行の邪魔はしないようにするから』
「!ああ。それはもちろんいいけど」
『よかった。やることがなくて暇してたんだ』

9月のオークションまで予定がなかった。クラピカと離れたことによって仕事かゾルディック家かしかやることがない。

『なら早速、宿でもさがしてこようかな』

長期となるとホテルよりも宿の方がいいだろう。その方が借りやすいし、安い。

「…ノア」
『?なに』
「ひとつ提案があるんだけど」

キルアを見る。キルアは私を見てにやり、と広角をあげた。…あれ、なんだろうこの感じ。

「ノアも天空闘技場に参加しなよ。ノアなら1日か2日で個室が貰えると思うぜ。そしたらタダで滞在できる」

キルアは面白そうに語る。…実に楽しそうだな。ゴンはキルアの言葉に驚いて私を見る。…期待感たっぷりだった。

「金も稼げるし、200階で10勝してフロアマスターにも勝てば最上階に部屋がもてる。それにオレたちが修行してる間ノア、暇になるだろ」
「オレもノアさんの戦ってるとこ見たい…!」

これは気づかってるようで面白がってるな。……お金には困っていないし、フロアマスターになりたい気もないが…キルアの期待、ゴンの瞳。いや遠慮するよ、といえばキルアは不貞腐れたように…けれど本当に残念そうな顔をするだろう。

……確かにずっとふたりにくっついているのもあれだ…その間本でも読もうかと思っていたが、それも限度がある。

『…分かったよ。明日登録してみる。でも君たちが居る間だけね。それとあまり期待はしないこと』

諦めたように言えば二人の顔が明るくなる。

「出るとき言えよ!」
『うん、言うから。……よければ録画して後でキルアに渡すよ』
「うん!ありがとう!」

ゴンの頭を撫でて言う。念能力者との戦いであれば参考になるだろう。まず、1ヶ月の間に200階までこられればの話だが。……二人がいけたなら多分大丈夫だとは思うけど。…なにせ闘技場なんて初体験だからな。それもここまで期待を寄せられると萎縮せざるおえない。

『今日の宿だけ探してくるよ。また明日ね二人とも』
「ああ!」

…参加するとなっては訪ねないわけにもいかないだろう。

私はゴンの部屋を後にしてエレベーターではなく反対を歩く。

なんと説明したものか、と考えながら目指した。

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