碧は染まった

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ヨークシンシティ
ドリームオークション

ヨークシンシティで年に1度、9月1日から10日間もの間開催される世界最大規模のオークション。

街全体で大小様々な競売が行われる。

そのなかでも目玉はセメタリービル地下にて行われる競売。
"お宝"と検索すれば真っ先にでてくるような品々が競りに出される。それも、路上や広場で出されている品物のように贋作ということはほぼない。鑑定書つきで本物。

その分警備は厳しいだろう。競売の運営はマフィアンコミュニティーが行っている。裏社会の腕利きは勿論、マフィアに雇われた傭兵も多数。ハンターもいるだろう。……実際こうして歩いていてもそれらしい人をもう10人は見た。

クロロは「出品される宝を全て頂く」と言っていた。全てとは言ったが、盗む宝は恐らく地下競売のものだろう。それでも相当な量だし、価値は億を軽く超える。……一体どうやって運ぶのだろう。まぁ旅団全員がいれば人手は十分か。

「ねぇちゃんどうだい?ねぇちゃん美人だからおまけしてやるよ」
『いえ、とりあえず見てるだけなので』

朝方というのに競売がところせましと開催されている中、私は路上に展開していた古本屋を覗いていた。競売がメインではあるがこれだけ人の集まるところなのだ。この気を逃すまいと商人や個人店なども多く出ている。ここはその一つ。

正直、どれも見たことのある本ばかりだ。珍しいものがあっても、その道のファンでなければ惹かれないもの。それに、まともな品ならいいが……知ってる本なのに出版社や発行年数が異なっているものもある。…つまり贋作。

「なんだ。買わないのか」
『本には少し詳しいので』
「!そ、そうかい」
『咎めはしませんよ。そういった所がオークションの売りでもある。そうでしょう』

私は本を棚に戻す。店主はほっとしたような苦笑いを浮かべていた。

掘り出し物もあるのかもしれないが…埒があかないな。私は客のいない店を出た。






…しかし、本当に人が多いな。
人は路上にところせましといて、両手を広げることは叶わない。先も見通せない。音も呼子の張り上げた声と人々の会話と環境音と、混ざりあっていた。

お祭りのような感じだ。実質そうではある。

クロロからのメールでは昨日の夜の時点で旅団は全員集合しているらしい。私もついたことを知らせれば「基本的にオレはアジトにいる」と返事を貰った。アジトの場所は聞いていないが、聞けば直ぐに会えるだろう。

今すぐ会ってもいいが…地下競売が始まるのは午後9時。それまでは一人で回ってみるのもいい。彼らが盗み終わった後、お宝の話をするのも悪くない。なにかと準備もあるだろうし。邪魔は出来ないからな。

それに私としても彼らの仕事には興味がある。普段どうやって盗んでいるのかこっそりと見学するのも楽しそうだ。そして種明かしして、そのままアジトに連れていってくれれば丁度いい。

……さて。

彼らが盗めばオークションの運営は崩れる。マフィアンコミュニティーはオークションを続けることよりも、犯人捜しに躍起になるだろう。

なら地下競売が始まるまでのこの時間が何事もない例年通りの競売。

『存分に回らせてもらおう』

私は時計を確認し、これからの予定を構築しながら歩いた。

「…………」
「レオリオ?」
「どうしたんだよ」

立ち止まり、遠くを見つめ唖然とする男に少し先を歩いていた少年二人が振り返る。

男、レオリオは寄ってきた二人には目もくれずどこか先を見ていた。ゴンとキルアは伺うように顔を覗き込む。

「今……すげー綺麗な…いや、あれは」
「知り合いでもいたのか?」
「女神だ」
「……は?」

キルアはレオリオの言葉に呆れたような顔をする。

「はぁ…オッサン、いくらなんでもそれは言い過ぎだろ」
「いや、あれは女神だった。女神じゃなかったとしたら天使だ」

レオリオは確信をもった目で答える。キルアは更に疑うような目を向けた。

「幻覚だな」
「あのな、オレはそこまで飢えてねーっつーの!」
「どんな人だったの?」

キルアに突っかかるレオリオに割ってゴンが尋ねる。レオリオは先ほどの方面を見つめる。それに習って二人も見るが、見る限りではそんな人物はいない。

「長い金髪でよ…色白で…ここからでもわかるくらい美人だったぜ」
「金髪…女神……」

キルアは考えてハッとする。それからゴンと顔を見合わせた。

「オレちょっと見てくる!」
「おい、ゴン!?」
「………」

まさか、な。

金髪で色白……女神のような人がいるとしたら彼女しかあり得ない。

…ノアがここに来ている…?でもなんのために。仕事か…?

「キルア、とりあえず近くには見当たらなかった」

ゴンは数分で戻ってくるとキルアに報告する。

「さっき見てからじゃそれなりに離れてるだろうしこの人混みだからな」
「…おいおいどうしたんだよ二人して、まさか心当たりがあるとか言うんじゃねーだろーな」

レオリオは状況がわからず二人に疑問の目を向ける。キルアは少し考えて、それからふっと力を抜いた。

「…ま、おっさんの幻覚って線は消えてないし。…もしノアならそれこそ気にする必要はないしな」
「だから"おっさん"でも"幻覚"でもねーっての!絶対あれは女神だったんだ!」

レオリオの言葉にゴンは笑う。キルアもつられて笑みを浮かべレオリオをからかいながら考える。

…そうだ。本当にノアがここにいるとしても気にすることはなにもない。むしろ溜まっている疑問をぶつけるいい機会だ。…ノアは金持ってるから事情を説明すればいくらか貸してくれるだろうし。

「本当にノアだといいね」
「あ、ああ」

ゴンの言う通り、そうであったほうが自分にとっても都合がいいというのになぜか言葉に詰まった。


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