碧は染まった
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虫の知らせか。
『…………』
私は起きて心臓に手を当てる。…嫌な鼓動だった。
ホテルを出て一直線に走る。息があがる筈もないのに息があがった。
アジトに駆け込むと視界に入った数名が私をみて驚いた顔をしていた。
「!どうしたんだノア。そんなに急いで………ノア?」
シャルナークが近寄ってきて私の顔を伺う。私はシャルナークを見て、それから周囲を見渡す。…フェイタン、ボノレノフ、フランクリン、シズク…、!
『…ヒソカ?どうしてここにいるの』
シズクの側に昨日別れたばかりのヒソカが座っていた。ヒソカは私を見てにっこりと笑う。
「やぁノア、昨日ぶり」
『…待って、ヒソカ、旅団だったの?いや、それより』
ヒソカのことは問いたいところだがそれよりも確認しなければならないことがある。
ヒソカの他にはコルトピ…。
私はシャルナークに視線を戻す。
『シャルナーク。ウボォーギンは?』
私が尋ねるとシャルナークの顔が歪んだ。
…答えを聞くまでもない。拳に力が入った。
「まだ、帰ってない。今ここに居ないメンバーがウボーとウボーを拐ったであろう鎖野郎を捜しに出てる」
『クロロは?』
「団長は別行動だけど、鎖野郎を捕まえるために動いてることは確かだよ」
『そう…』
動いているのは全員ウボォーギンと親しい彼ら。…特にノブナガはウボォーと仲がいい。
帰ってない、ということはウボォーギンの姿を確認したわけではない。でも1日経って帰ってこないのは…帰ってこれないから。…良くて捕らえられた。悪くて、
「ノア、」
『ごめん。大丈夫。ちょっと昔の夢を見て嫌な感じがしたんだ』
普段夢は見ない。見るとしたらそれはなにかの暗示。警告。今までがそうだった。それも狙ったようにウボォーギンの夢だった。
心配そうな顔をしたシャルナークに笑いかける。
『それで、ヒソカ。どうしてそこに君がいるんだい?』
シャルナークから視線を外しヒソカへと向ける。…ヒソカがここにいることは本当に予想外、というか予想さえしていない。…確かにあとひとり旅団員がいることは知っていた。けれどヒソカがそのあとひとりだとは思いもしない。それに、だとするなら………昨日の嫉妬うんぬんの話は嘘だったのか。
「ノア、ヒソカと知り合いなのか」
フランクリンの問いに私は頷く。
『うん。…一体いつから旅団に入ったの?言ってくれれば良かったのに』
「言ったらつまらないだろう?ボクはノアの驚いた顔をみたいんだ」
ヒソカはにこにことしていた。…旅団員であることは嘘ではないらしい。けれど、なにか引っ掛かる。そもそも、ヒソカは私と彼らの付き合いを知っていたということになる。隠してはいないし、ヒソカ自身にも何回か彼らの話はしたことあるけど。
…またなにか企んでいるのだろうか。それこそ私を驚かせる何か。
『そういうことにしておくよ。それで、シャルナーク。犯人の目星はどれくらいついてるの?』
シャルナークはまだ難しい顔をしていたが、やがて数枚の紙束を持ってくる。
「ウボーを捕らえた鎖野郎はおそらくノストラードファミリーの構成員」
『ノストラードファミリー…』
渡された紙には人名が連なっていた。これがノストラードファミリーの全構成員ということだろう。…この中に鎖使いが。…、占い?
ノストラードファミリーの説明文に占いという文字を見つけた。
ノストラードファミリーは組長ライト=ノストラードが一代で築き上げた新興マフィア。娘のネオン=ノストラードは占いの腕に秀でており、その占いは百発百中…
百発百中というと、どうにも胡散臭いが…これが本当なら何かしらの念能力だろう。
『占い…あるいは予知能力者』
「!流石ノア。理解がはやい」
『そうでもないよ。でも、ありがとう』
私はシャルナークに資料を返す。
「もういいの?」
『構成員を一人一人当たってもあまり意味はなさそうだ。そのネオン=ノストラードかライト=ノストラードを当たろうかな』
ノストラードファミリーは新興マフィア。旅団を捕らえたという絶好のネタを吹聴することはあっても隠す意味はない。それなのにこの資料ではそんな動きはない。
…慎重、という印象。旅団を相手にするならそれは正しいが、マフィアらしくはない。マフィアならば首でも晒してこちらを焚き付けようとする。…誰かの入れ知恵。"占い"というのが何かを暗示したのか。とにかく、末端の構成員がなんの情報も持っていないことは明らかだった。ウボォーを捕らえたこと自体伝わってなさそうだ。となると当たるべきは重役。組長か娘。側近のボディガードは口を割らないだろうがパクノダに調べてもらうのもいい手だ。
私が言うとシャルナークは目を開いて驚いた。
『どうかした?』
「いや、団長も娘のネオン=ノストラードを当たるって言ってたから」
私は目を丸くする。それから頬を緩めた。
『流石クロロ。先を越されてしまった。クロロはその娘の能力を盗りに行ったんだろうね。予知能力なら使えるから。…となると、やはり父親の方は念が使えないか』
恐らくライト=ノストラードは娘の念能力でマフィア界をのしあがってきたのだろう。…もしかしたら旅団がオークションを襲うことも占ってたのかもしれないな。
『とにかく当たってみるよ。何かは得られる筈だ。私の動きはクロロに伝えてほしい』
「わかった。こっちも進展したら教える」
『ありがとう。シャルナーク』
「!!うわ、ちょ」
私はシャルナークの頭を撫でてそれから引き寄せる。額にキスを落とした。
「、〜!!」
『…本当にありがとう』
赤面しているシャルナークにもう一度お礼をしてから私は背を向ける。
「ノア」
ヒソカに呼ばれ振り返る。
「手伝おうか?」
ヒソカの表情は至っていつものものだった。
私は首を振る。
『駄目だよヒソカ。団長の指示には従わなくちゃ。今はここで待機だ。またあとでね』
ヒソカの瞳が薄められたのを見て私は歩みを再開させる。
約束したのだ。これが終わったら戦おうと。
約束は破るものではない。守らなければならないもの。
ウボォーギンの声や表情を脳内で再生する。…こんなにも身近なのに、ここには居ないなんて。
また鼓動が鳴った。
私の予測していない出来事が起こっている気がした。