碧は染まった
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2度目のセメタリービル。
周囲は先日のように黒い車で溢れ、黒服が彷徨いている。今のところ騒ぎが起きている様子はない。
しかし、明らかに警備が強化されていた。先日はあまり見なかった警察も動いているらしい。警戒範囲は…周囲1kmといったところか。入場するにも参加証が必要らしい。検問も所々引かれている。まぁお陰様で気配さえ消していれば入りやすい。車に注意が向いていた。
ライト=ノストラードがいるのはセメタリービル内。まだオークション開始の時間ではないが中にはいるだろう。…どうやって入ったものかな。
絶をしても監視カメラに映ればアウト。正面、裏口、両方とも警備は厳しい。人に紛れて…とはいかなそうだ、となると。
私は上を見上げる。それから拾った小さな石を三階の窓めがけて投げた。
_コツン、と音がして少しすると誰かが窓から私を見下ろす。
『すみませーん』
「?…」
聞こえなかったのだろう見下ろす男は窓を開ける。不用心なものだ。
「誰だ。そんなとこでなにや」
『失礼』
私は男の顎に膝げりを入れる。…暫くは脳震盪で動けないだろう。
『一応仲間が呼ばれると困るか』
ピクピクと痙攣する男を引きずる。…物陰…。一瞬窓から外に放ってしまおうかと考えてやめる。意味のない殺しは避けたほうがいい。しかし周囲に都合の良い物陰はない。…せいぜい観葉植物くらいか。
仕方ないので観葉植物の隣に座らせる。持っていた銃や触って分かる凶器は取り上げる。…持っていても仕方ない。それらは窓から捨てた。
『……さて』
ノストラードはどこにいるだろうか。会ったことはないため円で捜すのは意味がない。それに噂ではマフィアの中のトップの集まり、十老頭が旅団の始末をプロに依頼したとか。…プロがただの賞金首ハンターとかならいいのだけど。……これシルバさんとか来てないよね。
とにかく念に長けた者がいるのだとしたら円はあまり使うべきではない。私の円は普通相手に気づかれることはないが、相手が円をしていた場合は別。
円と円が触れあえば流石にバレる。…私の目的はライト=ノストラードのみ。わざわざ呼び寄せる必要はない。ライト=ノストラードは無能力者だろうし。
…おい!…はやく。
……__!!
『…………』
何となく進みながら聞き耳を立てる。…騒がしいな。警備員たちが上の階から降りてきては外へと向かっていた。…確かに外も騒がしい。その対応というところだろう。私としては好都合。これなら多少動いても問題ない。
『お仕事ご苦労様です』
「!!、誰………だ」
エレベーターの前の警備は一人だった。私は男に笑う。
『実はライト=ノストラードに用があって場所を教えてもらっても?』
「!…っお前は何者だ」
男ははっとして私に銃口を向ける。…あれ、逆に警戒されてしまうとは。色仕掛けとはいかなくとも、自分の容姿は理解しているつもりだったんだけど。
「…ち、近づくな!!」
『君はノストラードの知り合い?』
「…!!、な」
私は男の喉にナイフを突きつける。警戒されているのなら脅すしかない。時間は限られている。
『そうでないのなら教えたところで君に不利益はないよ。それともよく知らないノストラードの為に君は命を捨てる?愛するものを残して』
男の目線に指輪を掲げると男は眼を見開く。男の指についていたものだった。どうみても婚約指輪だ。それも男の歳は若い。新婚か、でなくとも子供はまだ小さいだろう。一番楽しい時期だ。
「……何をすればいい」
『最初の質問を忘れてしまったかな』
聞こえていた筈だ。この男と言葉遊びをする意味はない。…男はノアの笑みに全てを把握する。自分は彼女に殺される。生き残る可能性があるとしたら彼女に従うことだけ。
「………………わかった」
男が頷いたのでナイフを外して胸ポケットに指輪を入れてやる。解放したというのに男の顔はますます青ざめていた。
エレベーターが降りる場所はすぐだった。5階で男が降りそれに続く。…オークション会場にはいないということか。
「…実はさっきノストラードの娘が倒れて部屋に運ばれたんです」
『倒れた?…ああ、だから場所を知っているのか』
案内を頼んだものの、そもそも知り合いでもないこの男がノストラードの居場所を知っている可能性は半々だった。
倒れた、か。誰かの襲撃でそうなったのならクロロだろうか。
「ノストラード…殿も恐らくそこに…娘は501号室に運ばれたと聞いてます」
『そう』
「……俺を、殺さないのか?」
男の声に私は足を止める。男の顔は覚悟したような顔で、私にはその心当たりがない。
『殺してほしいなら殺し屋に依頼でもしてください』
私が言うと男は崩れ落ちるようにしゃがむ。……私、そんなに殺人鬼に見えてたのだろうか。心外だな。基本仕事以外では殺しはしていないのだが。…殺してる時点で違うのかもしれない。
……ライト=ノストラードにも今みたいに怖がられるのは困るな。覚悟を決めた人間はどうやっても情報を吐かない。…そしたらパクノダまで持っていけばいいか。