碧は染まった
□最悪の想像
1ページ/1ページ
旅団が死に、オークションが再開されたと知ると面白いほどにマフィアは大人しくなった。
セメタリービル周辺の街は被害の沈静の為に警官と黒服がうろついていたが、この状況下で盗んだオークション品を抱えてアジトに帰るのはわけない。
全員でアジトに着き扉を開けようとして内側から開かれた。
「……!!」
勢いよく出てきたのはノブナガ。ノブナガがアジトに一人残ったことは聞いている。だが、様子が可笑しい。
息が荒く、表情は緊迫している。明らかに興奮状態であることは見てとれた。
「どうしたノブナガ」
「……止めても無駄だぜ団長」
そうオレを見開いた瞳で見るとそのまま駆け出そうとする。
「待て。何があったか知らねーが、少し落ち着け」
ノブナガの前にフランクリンが立ちふさがる。だが大人しく言うことを聞く耳は今のノブナガにはない。
「落ち着いてられるか!!、くそ…」
フランクリンに怒鳴ると何故か腹を押さえる。それは痛みを耐えるようだった。
…殴られた、のか。オレたちがいない間に何者かの襲撃を受けた。……鎖野郎か?
「鎖野郎か?」
ノブナガに聞く。するとノブナガはオレの答えに何故か少し笑った。そして腹部を押さえながら恨めしそうに言った。
「…ノアだ」
ノブナガの言葉にその場にいた全員が息を飲む。そして直ぐに数人が口を開く。
「…ノアですって?」
「はっ、だとしたらいい気味ね」
「間違いないのか?」
オレはノブナガに訪ねる。…ノブナガが嘘をつくとは思えない。というか現状嘘をつく理由がない。それに、
「………」
ついさっき、ノアには違和感を覚えていた。もしかしたらそれと関係があるかもしれない。
「ああ。…お前らがなんと言おうが、ノアはオレたちを裏切った」
裏切った…か。
オレは団員の空気が変わったのを感じて口を開く。
「なら、尚更お前を行かせるわけにはいかないな」
「!!なん」
「本当にノアだとしてどうやって捜す気なんだ?」
「…っ…それは」
「お前が追ってくるのをノアは十中八九予想している。闇雲にまだ街にいるかも分からない中捜すより、説明してオレたちの力を借りる方が利口じゃないのか?」
「…………」
「それに、ノアの様子についてはオレにも心当たりがある」
「!」
ノブナガは驚いた顔をして、それからゆっくりと気を鎮めていく。
「中に戻れノブナガ。そして最初から全部話せ」
「……………わかった」
ノブナガは重く頷くと扉を再び開けた。
ひとまず商品を一通り置き、それぞれが思い思いの場所に座る。…今、この場には全団員が揃っている。勿論、ヒソカも。
…ヒソカを見てみるがどこか面白そうに頬をあげているだけだった。こんなあからさまな反応はヒソカも知らなかったということか。
ヒソカとノアの関係については再会したときにノアから聞いている。
人身売買の船に乗せられた時の看守が"ヒソカ"という名の子供で、ヨークシンシティでの事件以来暫く暮らしていたと。
旅団に入ってきた際に名前を聞いて察しがついた。向こうはノアの話題が出るまでオレのことは知らなかったみたいだが。
ヒソカ、そして一部を除いて空気はひりついていた。ノブナガがまたノアについて言えば誰かがすかさず言葉を入れてくるだろう。
「状況から聞こう」
「……オレが一人で寝てたらノアが入ってきたんだ。少し話してノアがアジトから出ようとしたんで"団長は待たないのか"って聞いたんだよ。そしたら"それはできない"って言い始めた」
ノブナガは思い出しているのか顔を歪ませる。…ノブナガがここまで怒りを露にするのは鎖野郎に対して以来。それも相手はあのノア。…普段挑発することはあっても冗談のようなもの。
「それから訳のわからないことを言い始めた」
_ノブナガ…私ね。本当は全部知っていたんだ
_鎖使いも、ウボォーギンの場所も、こうなる未来、全て
「聞いてもノアは何も答えなかった…それと、」
_鎖使いは私の元弟子なんだ。だから場所なら私が知っている。捕まえたら教えてあげるよ
_鬼ごっこをしよう。ノブナガ
「……」
「…団長。これが裏切りじゃなかったらなんだっていうんだよ…!」
ノブナガは声を荒げる。
「……嘘じゃないのよね」
「嘘だと思うなら見てみりゃいい。そうすりゃオレが言ってることが本当だってわかる」
「………」
パクノダの答えにノブナガは挑発するように答える。パクノダに嘘は通用しない。…ノブナガの言っていることに間違いはない。
「ここまで聞いてまだノアを信じるかよ」
「信じる信じないは別として確かにノアらしい行動ではないな」
あからさまな挑発。相手がノブナガでなければ疑問に思うほど。ノアは間違いなくノブナガを意図的に怒らせた。
本当に鎖野郎がノアの元弟子だったとして、ノブナガを生かしておくのには疑問が残る。鎖野郎の仲間ならばオレたちをわざわざ生かして追わせるような真似はしない。それにこういったやり方は確実性を重視する彼女らしくない。
まず間違いなくノアはオレたちを裏切ってはいない。
となると疑問は一つ。動機だ。
何故ノアはこの行動に至った。
「鎖野郎が弟子って…つい数時間前にパクが調べたばっかだよね」
沈黙を見かねてマチが口を開く。
「そうなのか?」
「ええ。鎖野郎について質問して調べたけどノアにその記憶はなかったわ。だから…弟子っていうのは多分嘘ね」
嘘。…ノアが?
「…いや、多分鎖野郎が弟子なのは本当だろう」
「!」
パクノダの驚いた顔がオレに向く。
「パクノダが記憶を調べたのは当然ノアも知ってる。そんな聞けば直ぐに分かるような嘘をつくとは思えない。ノアがノブナガを挑発したなら尚更だ」
ノアはノブナガに自分を追わせるように仕向けた。嘘だと分かればノブナガはノアを追わなくなる。
「前にパクノダが調べてもわからなかったことあったよな」
フィンクスが口を開く。言っているのは彼女の中のもう一人が記憶を消した件についてだろう。
「でも、あれはもう大丈夫だって」
「こうなりゃ本人の言ってることが本当かはわかんねぇだろ。つか、あん時も団長以外あんま理解してなかったし」
「それについては問題ない。ことは済んでいる」
オレが言うとフィンクスは口を結ぶ。…その件についてこれ以上話すは避けたい。ヒソカは彼女の中の存在を知らない筈だ。このことはオレしかしらない。
「じゃあパクノダが調べても分かんなかった理由でもあんのか」
「分からなかった訳じゃない。パクノダが言った通りノアには鎖野郎の記憶はなかった」
「…言ってることオレと一緒じゃねぇか」
「鎖野郎だと認識してなかったのね」
パクノダに視線が集まる。オレはその言葉に頷く。
「恐らくな。そもそもノアはセメタリービルになんのために行った」
「それは…あ!」
シャルナークが気づいたように声をあげる。
「ライト=ノーストラードに会いに行ったのなら、鎖野郎と会う確率は高い。そこでノアは鎖野郎が自分の弟子、知り合いだと気づいたんだろう」
外れてはいない。それまでのノアは鎖野郎に明確な敵意を持っていた。ウボォーギンの敵をとろうとしていた。
鎖野郎が弟子だと分かって、ノアはオレたちと鎖野郎がぶつかることを避けようとする。そう考えるのが自然。
…だが、やはり分からない。
ノブナガを挑発したことで鎖野郎からノアへと矛先を向けさせる、というのはなんとなくわかった。だが、それなら鎖野郎を隠してしまった方が早い。
オークション品を手に入れたオレたちに留まる選択肢はない。だがノアの行動は矛盾している。………死体の偽装はノアにとって予想外だったのかもしれない。しかしそう考えても鎖野郎をどうにかした方が明らかに早い。
オレたち13人を動かすより単独である鎖野郎1人を動かす方が確実。
「………」
クロロは頭を少し下げ長考する。
「……団長、あれ楽しんでるよね」
「…そうね。こんなこと初めてだもの」
マチの言葉に視線がクロロへ向く。確かにクロロの頬はどこか緩み、真剣ではあるもののどこか楽しそうに見えた。
「そういえばノブナガ。あの子供はどうしたの」
マチがノブナガに聞く。ノブナガはうっ、と言葉を詰まらせた。
「聞かなくてもわかるよ。きと逃がしたね」
「っ!いやあれは仕方なく」
「あんな子供に逃げられるなら、ノアに殴られるのもなとくね」
フェイタンはにやりと笑ってノブナガを挑発する。それに黙っていられるわけもない。
「フェイ!!そこに直れ!!ぶった斬ってやる!!」
「今のノブナガなんでも切れるね」
「ちょっと、団員同士のマジギレご法度だよ」
面白そうに笑うフェイタンに斬りかかるノブナガ。それに気づいていながら自分の思考を優先させるクロロ。
「………」
ここにノアがいたら多分笑いながらフェイタン側についてノブナガとじゃれ合うんだろう、と考える。
今のノブナガにはさっきまであった殺意のような感情は感じられない。
扉から飛び出してきたノブナガはノアを殺してしまうような勢いだった。
「………」
…嫌な予想は当たった。鎖野郎は彼女の知り合いだった。ならノアは私たちの敵……?
ノア、あなたは一体何をしようとしているの。
「パク?」
パクノダは最悪の想像をしてそれからマチを見る。
「………なんでもないわ」
もし、ノアが敵だったら彼女を殺せるか…そう聞くことはかなわなかった。