碧は染まった

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デイロード公園は昨日の喧騒が嘘のように穏やかだった。街の修繕もほとんどが終了している。

砂場では子供たちが遊び、緑の繁った丘の斜面では夫婦、またはカップルらしき男女が緩やかな時を楽しんでいる。

さて、二人を付けてきてここまではバレていない。

二人は公園に着き、目的の人物がいないことを見ると近くのお店に入っていき大量の食料を抱えて戻ってくる。

お肉にジュースにハンバーガーにケーキのようなものも見える。…今の時間、まだ昼には早い。

そして二人は何かを話したあと同時に大量の食料を勢いよく食べ始める。大食い競争でもしているのかもしれない。

思わず笑ってしまった。

「!」

そのせいで急に絶が解けることになりキルアが勢いよくこちらを見る。

…まぁ予定より早いがいいか。

私は笑みを浮かべながら二人、キルア、ゴンの元に歩いていく。

するとゴンも私を認識したのか表情が驚きに変わる。


「マナさん!?」

「やぁ二人とも、久しぶり」


奇遇だね。と私が言うとゴンは嬉しそうな顔を浮かべ、キルアはあからさまに怪しむようにこちらを見た。

「こんなとこでなにしてんだよ」
「そうあからさまな敵意は傷つくな。俺は仕事で来たんだ」

キルアに苦笑いで返す。キルアはゴンと違ってマナをあまり好んでいないみたいだからな。

「仕事?」
「ああ」
「そういえばマナさんって何の仕事してるの?」
「そうか。そういえば言ってなかったな」

私は二人を見て息を吸う。色々と設定は考えたが、これが自然だろう。私はハンターなのだから。

「俺は賞金首(ブラックリスト)ハンターなんだ。だからここで"暴れまわってる"っていう賞金首を捕らえに来た」

私の発言に二人は顔を見合わせる。キルアも筋は通っていると感じたのか一旦は不振顔を納めてくれた。

「それって幻影旅団のこと?」
「なんだ、知ってたんだ。ああ、そのつもりだったんだけど…」

私は公園を見渡す素振りをする。

「ヨークシンシティに着いた瞬間に"既に死んだ"って聞かされて動画まで見せられて…公園もこんなに穏やかだから、どうしようかと思ってたんだ」

そんなときに君たちを見つけたんだ、と続ける。

動画、というのはあるサイト上にアップされた死体の解体映像のこと。こんなの載せても大丈夫なのか、と思うがこれはマフィアンコミュニティが行ったことである筈なので規制しようにも仕方ないのだろう。警察はマフィアよりも立場は下だ。

私も動画を見たが……いくら偽物だと分かっていても彼らの姿が解体される様は見ていていい気がしなかった。…正直に言うとコミュニティを破壊しようかとも思った。まぁ偽物なのでそれは耐えることにしたが。……これが終わったらあの解体を行った人たちだけでもどうにかしようかな。

「君たちはオークション目当てかな?」
「うん。元々はグリードアイランドってゲームを落としに来たんだ」
「ああ。あの高額ゲーム…?元々は?」

ゴンに疑問を返すとキルアが口を開く。

「わざわざ旅団討伐に派遣されてきたってことはあんたはそれくらい強いのか?」
「…一応そうなるのかな。旅団を捕まえられると見込まれたということだろうから」

その質問は良い流れだった。

「誰か捕まえたいやつでもいるのか?君たちならお友達価格で請け負うよ」
「うわ、金とんのかよ」
「依頼内容によるけどね。流石にお友達の君たちから高額な請求はしないよ」
「マナさんが手伝ってくれるなら力強いよ!」
「ゴン!またお前はそうやってこいつを」

キルアがゴンに襲いかかりそれをゴンはひょい、とかわす。争っているようで争ってはいない。じゃれあいだった。

「っふ」

吹き出したように笑えば2人の顔がこちらにむく。それは驚いているようでなにか違った。

「それで?その内容ってのは?」
「……ああ、それは」
「クラピカ!!」

……来たか。

ゴンの声に振り返るとクラピカがたっていた。…普段通りのようでどこか生気がない。ゴンの呼び掛けにも特に答えず、笑みも浮かべなかった。

ゴンはクラピカに走っていく。

「もしかして彼と待ち合わせ中だった?」
「まぁ」

近寄ってきたキルアに聞く。

「なら俺は邪魔だったかな」

去る気はないが、素振りだけしておく。その方が自然だろう。

「マナ」
「うん?」

するとキルアは私を呼ぶ。

「あんたって本当にハンターなのか?」
「え?」

思いもしない質問に驚く。

「ハンター試験でオレたちを騙してただろ。だから今一信用できない」
「そう、言われてもなぁ」

キルアがマナを疑っているのは承知している。しかしそれは"信用できない"という意味であって、ハンターであること自体を疑われているとは思っていなかった。証拠……ハンターである証拠か。

「ならこれで納得してくれるかな」

本当はあまり出したくない。なぜなら数字の意味を知っていれば、18歳というのは少しおかしくなってしまう。しかし、ここではぐらかして怪しまれればこれ以上マナとして接触はできなくなる。…それは避けたい。

「………」

キルアは私のライセンスを見る。そこに驚きといった表情は見えない。

「もういいか?」
「ああ」

私はライセンスを懐に戻す。…思ったより反応が薄い。一応キルアからの質問だけど。

「どうかな?俺がハンターだと認めてくれたかい?」

確かめる意味も込めてキルアに問う。

「そうだな。ライセンスは本物。ただ、あんたは18だってゴンから聞いたけど」

…やはりそこをついてくるか。

ライセンスにかかれている番号の下3桁は何期生の合格者かを表す。私が合格したのはキルアが生まれてまもない頃。つまり12年前。6歳で合格したことになる。

受験年齢の制限はハンター試験には設けられていない。とは言っても6歳で合格するなんて普通は考えられない。キルアたちが11歳なのであり得なくもないと思えそうだが、6歳の子供を想像してみて欲しい。6歳は小学一年生。たとえ素晴らしく鍛えた天才でも、11歳の子には勝てない。

「…これも嘘か?」
「騙した気はないよ。俺の見た目は18くらいだろ?20代にしては若く見える。26って言っても信じるか?」

この念はあくまで元の私に沿った作りになる。腕の太さや身長はそのまま。大人にしては小さく細い。顔も大人びている訳ではない。

「……いや」

キルアは同意を示す。ただそれは納得というよりも"とりあえず頷いた"ようだった。

…まぁ、とりあえずでも頷いてくれたなら有難い。

「マナさーん!キルアー!」

ゴンの声に顔を前に戻す。

「今行くよ」

キルアの視線を背中に感じながらゴンとクラピカの元へ向かった。


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