碧は染まった
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「全員で最終的な確認をしておこう」
調べられる全員の占いが終わり、班を決め動く前に最終確認をする。
ヒソカに何かしらの楔が打たれている以上、オレたちがここから動けば蜘蛛の手足は半分となる可能性が高い。……つまり鎖野郎を対処しない限り、ここを離れることは極めて危険だ。
「ウボォーから聞いた鎖野郎の情報ってのは前に話した分だけなんだな?」
オレがシャルに聞くと彼は頷く。
「ウボォーは奴等の宿泊場所がわかった時点で行っちゃったけど。オレはその後も少し調べてみてこいつらが娘のボディーガードだってことがわかったんだ」
シャルナークの手には1枚の紙。そこには5人の男の写真と名前、それから簡単な特徴が乗っている。
「それが1日の深夜だな。オレも昨日そのサイトを調べてみた。これがノストラード組のボスの娘だ」
オレは娘の写真のほかに、もう1枚紙を取り出し、シャルナークたちに渡す。
「そして、こっちがオレが調べた時のボディーガードの写真リスト。さらに2人加わっている」
その紙にはさっきの5人に加え、新たに女1人と男1人が写真で写っていた。
「すげ…」
「もう新しい情報に変わってたの?」
フィンクスとシャルナークが感嘆の声をあげる。
ノストラード組は娘のネオンの能力によって現在の地位まで上り詰めることができた。周りの組からすればあまりよくは思われない。こうして情報が晒されているのは、反ノストラード派のものによるものだろう。
「でもなんでこのコ、ヨークシンに来たのかな」
シズクがネオンの写真を見て疑問を浮かべる。
「そりゃあオークションなんじゃない?」
答えたのはパクノダ。それは極一般的な返しだった。
………だが、確かに見落としていた。
ネオンの能力は占い。ヨークシンに来たのは占いの為だろうと、漠然と理解していた。…だが、ただ占いのためであればわざわざ連れてこなくてもいいはずだ。占いのために必要なのは本人の名前、生年月日、血液型であり直接会う必要はない。むしろノストラードは娘をこんな危険な場所に連れてきたくはないはずだ。だからこそ、あれだけのボディーガードをつけた…。
ネオンのもうひとつの顔。確か、人体収集家だった。
「団長?」
急に黙ったからかシャルナークが呼ぶ。
「シズク、パクノダ」
「はい?」
「ナイスだ」
「?はぁ」
呼ばれた二人はそれぞれ疑問符を浮かべる。
クロロは息を吐く。…なぜこんなことに気づかなかったのか、と。
「というかオレはバカだな。くそ…どうかしてた。なぜ組長の娘はヨークシンに来たか?そこにオレが気付いていればもっと早く鎖野郎にたどり着いていた…!!」
ウボォーが捕まった時点で、犯行はノストラード組だと分かっていた。……あの時点で鎖野郎が緋の眼の持ち主だと推測することができた。……そうすればノアにあんなことをさせることはなかった。
「鎖野郎がノストラード組に入ったのはたまたまじゃない。今回の地下競売に緋の眼が出品されることと、それをノストラードの娘が狙っていることを予めつきとめていたからだ。鎖野郎の目的は2つあった!」
オレ達への復讐と、仲間の眼の奪還。
やはりノアは初めから鎖野郎を知ってはいなかった。同時に、鎖野郎自身もノアがここにいたのは予想外ということになる。もし知っていたならもっと違った行動をしてくるだろう。
「シャル。競売品の中に緋の眼はあったか?」
尋ねるとシャルナークは首を横に振る。
「ごめんわかんない。競売の最中は進行役を自動操作にしてたから」
「あったよ、たしかコピーした」
シャルナークに変わってコルトピが答える。
「お前のコピー"円"の効果があると言ったな。緋の眼のコピーが今どこにあるかわかるか?」
「本物を触ればね」
コルトピの言葉で競売品の箱を探る。ほどなくして見つけたのはシズクだった。
コルトピはシズクから緋の眼を受け取るとひとつの方向を指した。
「わかった。同じ形のものはあっちの方角…だいたい2500メートル」
つまりそこに、鎖野郎がいる。
「急いだ方がいいよ。コピーしたの昨日の夜だから、あと数時間で消えちゃうから」
「地図あるか?」
「ほい」
フィンクスから地図をもらい、広げる。
ここから約2500m……そこはホテルだった。
「ホテルベーチタクル…!」
ここに緋の眼があることは間違いない。
「団長、オレに行かせてくれ」
真っ先にノブナガが口を開く。
「頼む」
その目は未だ消え切らない敵意で満ちていた。……鎖野郎と対峙するチャンスを逃す気はノブナガにはない。
「いいだろう。そのかわりオレといっしょだ。単独行動は許さない」
「了解!!」
「パク、マチ、シズク、お前達もいっしょに来い。メンバー交代シャル、コルトピと代われ」
「OK」
ノブナガが拳を握って喜ぶ中、それぞれが指示に頷く。全員が理解したのを見てオレは決める。
「それじゃ、行動開始!」
緋の眼の場所に鎖野郎がいる確率は高い。……そして、ノアがいる可能性も高い。
なぜ、ノアはオレ達と敵対する行動をとったのか。
鎖野郎はノアと師弟関係であるが、お互いの事情は知らなかったならそうだろう。だが、ノアはクルタ族と長い交流があった。その中に鎖野郎がいたなら気付くだろう。……なら、分かっていてノアは鎖野郎を弟子にとったのか。
もしくは、ノアはクルタ族とはいってもほぼ村長としか交流がなかったと言っていた。もし、鎖野郎がクルタ族であることを隠して彼女に近づいたなら知らなかったというのもあり得る。…ただ、あまり信じれた話ではない。
なら、ヒソカに打ち込まれたのとおなじ楔がノアにも打たれたのか。…対象を強制的に縛る楔を何個も打てるとは思えないが。それに、ノアは"楔程度"でノブナガと敵対することはしないだろう。…ノアにとって自身の命はもっとも軽いもの。そもそもノアに楔が通じるか疑問なところもある。
つまり、これはノアの自主的なものだと思っていい。
彼女が鎖野郎の味方につく姿勢を見せた時点で、鎖野郎は…オレたちのような存在だと言えた。
ノアにとって敵対しているどちらも大切な者。
ノアがとる行動は、お互いを接触させないこと。そして、その為にノアはオレ達の矛先を自分にむけさせた。
鎖野郎の目的が復讐なら既に偽物の死体で戦意は削がれている。だからこそ緋の眼の奪還に力をいれざる終えない。……つまり、オレ達さえどうにかしてしまえばよかった。………さすがとしか言いようがないな。
…だが、ひとつひっかかる。
ノアには計画の一連は伝えていない。
その為、ノブナガと敵対する前に偽物の死体を確認したことになる。それは可能だ。ひっかかっているのは……別れ際のあの行動。
彼女からのキス。それも唇。
離れたときのノアは少し照れていて、ぎこちなくて…寂しそうだった。
まるで子供の頃に『大人になったらいつか私を忘れていく』と言ったときみたいな。
あのときに、覚悟を決めたように見えた。
「……それもこれも、済む話か」
「?団長、なにか言ったか」
「いや」
鎖野郎を殺せば全て済む。
……彼女はオレ達と敵対することにどれだけの神経を割いているか。ウボォーを殺した者が自分の弟子で、どちらを殺すわけにもいかず、結果敵対するという行動しか取れなかったノアは……孤独でずっと心を痛めている。
彼女が殺せないのならオレ達が殺す。そうすれば、ノアはもう狭間に揺られることはない。
殺せばノアは傷つくだろう。あの時のように悲しむだろう。でも、その傷はオレがいくらでも慰めることができる。
……結局、オレは彼女と離れることが我慢ならないだけだな。
自分の素直な感情に、薄く笑った。