碧は染まった

□修行修行?修行
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森の中を暫く歩き、湖が見えてきた所で私は足を止める。それから背後に振り返った。

『ここら辺でどうかな?』

食料調達用の街が近くにあり、尚かつ水も確保出来る。

私に食料は必要ないが、体を洗うくらいは私でもしたい。修行をするに至って服も汚れるだろうし。

ヒソカは私の隣まで来ると足を止める。

「ボクはどこでもかまわないよ」
『なら、ここにしよう』

港までもそこまで遠くない。…これなら3週間に1度の定期連絡も出来そうだ。

私はゲーム外での会話を思い出し息をつく。…シルバさんと話せたから定期連絡が3週間まで伸ばせたのは良かった。ただ、カルトと会う約束がどんどん流れていってしまっているのが問題だった。

これから修行で長らく時間がとれないし…と思ってカルトに会ってからゲームに戻ろうかと考えたのだが、カルトの方が用事があるらしい。

"仕事"と明確に言っていなかったのが少し気になるけれど…カルトの個人的な時間だとしたら割くのは申し訳ない。

「何から始めようか?」

ヒソカの言葉で思考を中断する。…とりあえずカルトへの伝言はゴトーさんに残した。ちゃんと自分のことに集中しないと。

「ノアに体力作りはいらないだろう」
『うん、筋トレとかは私には意味がないからね』

私の困ったところの一つだ。私の体はこれ以上成長するということがない。強くなりたいからといって走り込んだり、腕立てをしたりするのは全くの無意味。

だからといって今一方法も思い付かない。組み手や実戦を積んでも、それは今までとあまり変わらない。…同じくらいの実力者と戦うなら得るものがあるかもしれないが、私のような不死身なんてそうそういないだろう。

だからこそ、私は聞くことにした。

『ヒソカは私に何が足りないと思う?』

私はヒソカに尋ねる。折角ヒソカが私に付き合ってくれるのだ。客観的な意見が聞きたかった。

ヒソカは少し考える素振りを見せて、口を開いた。

「ボクから言えば、ノアはもったいないことをしてるよ」
『もったいない?』

思わず聞き返す。

「うん。ポテンシャルは十分あるのに生かしきれてない」

ポテンシャル、というのはオーラ量と不死身なことだろう。…しかし生かしきれてない、か。

『でも、その方法が分からないんだ』

これまでなんとかなっていたのも良くないことだろう。…もっと早くに気づきたかった。

視線を下に向けた私をヒソカが覗き込む。

「だからその方法をボクが教える」

ヒソカの表情は柔らかいものだった。

……。

『…ヒソカ、何か企んでる?』

私の言葉にヒソカは反応する。少し驚いた様だった。

「どうしてそう思うんだい?」
『ヒソカのことだから、"これから毎日戦り合おう"とか言うものだと思っていたから』

しっかり教えてくれるのは有り難いが、ヒソカらしくないように感じた。

「そっちが良ければそうするよ」
『いや、それは流石にヒソカの体力が心配だから…せめて毎日じゃなくて4日に1度くらいにするけど。……てそうじゃなくて、教える代わりに何かお礼とか欲しいのかなぁって』

ヒソカがこうも穏やかなのはなんだか違和感を感じる。いつもは、むしろ常に何か企んでいるような雰囲気がするのに。

『それか、何か良いことでもあった?もしくは…思い付いた?』

考える私にヒソカは笑みを崩さない。

「そういうところは鋭いね」
『そういうところはって…じゃあ良いことがあったんだ?』
「もちろん。ノアと過ごせるからね」

それは半分が本当で半分が嘘だった。

「そんなことより始めようか、ノア」

それも聞き返す暇を与える気はないらしい。ヒソカは相変わらず良い笑みを浮かべたまま、私から距離を取る。

『何をするの?』

疑問をそのまま口にする。修行を始めようということは分かるけど内容は察せない。

「本当はもう少し我慢しようと思ったんだけど…これから一緒にいるんだから、ボクの欲はノアが満たしてくれるんだろう?」

ヒソカの笑みが見覚えのある弧を描く。

…そういえばヒソカって戦闘狂だった。そんなヒソカが数週間もおとなしく我慢できる訳がない。ハンター試験の時のヒソカを思い出す。……うん。私が相手しなければヒソカがプレイヤー狩りになりそうだ。

それに、もしヒソカの欲がたまった状態でキルアとゴンに会いでもしたら……想像したくないな。

『…分かったよ。修行に付き合ってくれる代わりに、ヒソカの発散に付き合う。…それで、ヒソカって戦うことが好きなの?それとも殺すことが好きなの?』

ヒソカはより強い者と戦いたがっている。クロロが良い例だ。でも、天空闘技場のヒソカを見る限り、戦った相手は最終的に殺している。

もし戦うことだけが好きなら殺す必要はないないだろう。生かしておいた方がまた戦えるから。

ヒソカはまた、少し驚いてそれからニヤリと笑う。

「両方かな」

両方か。…一体どこでこうなってしまったのか。今までの日々を思い出して苦笑いする。思い当たる節はある。

「……それで、そう聞くってことはボクの為に死んでくれるのかい?」
『そうだね。殺すことも一部だと言うなら。でも私は不死身だ。…だから私を殺してみせて、ヒソカ』

…そして今から行うこともきっと、ヒソカを助長するものなんだろう。

ヒソカからぶわっと禍々しいオーラがたちのぼった。


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