彼女は何を望む
□姉貴
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オレの名はミルキ=ゾルディック。
かの有名な暗殺一家ゾルディック家の次男であり、発明家でありオタクだ。
今も丁度PCゲーをやっている。それもどちらかというとアダルトな方である。
耳につけたヘッドフォンから聞こえる妖艶な声。画面には金髪碧眼の女の子が顔を真っ赤にさせている。
「あぁ……もう、ほんとオレ二次元と結婚する」
『えー、それだと子供できないじゃん』
「!!?」
な!?
急に聞こえた声に振り替えると、優雅に椅子に腰掛け足を組む姉貴が居た。
い、いつから居た、!?つーか相変わらず気配がまったくねー!…
思わず驚き口を開けて呆然とする。
『ん?なにそれ』
するといつの間にか近づいていた姉貴に気づく。
って!!
「あああああ!!!姉貴!これはその!やっぱり思春期ゆえのというか、!」
PCの画面には運悪くも丁度そういうシーンが大きく映し出されており、勢いよく背に隠す。
…マズイ。
今さらオタクであることを隠す気はないが、問題はこれが所謂エロゲーであり、なにしろこの変人な姉貴のことだ。面白がって両親に言う可能性が非常に高い。それは非常にマズイ。
「だからさ!!その、ママたちには!、!?」
〈んっ、ぁ…〉
『うわ……なんかすご』
「ってなにしてんだよ!?」
画面を閉じようとした手をどかされ、姉貴はまじまじと画面を見ていた。しかもマウスを手に取り先に進めている。
さらにヘッドフォンまでいつの間にかPCから外されていたのか、妖艶な声が部屋に響く。
〈ぁあ!んんっ〉
「あ、ああ姉貴!?」
〈はぁ………もっと〉
「あああ!!姉貴オレの話きいてんの!?」
『あーもう!うるさいな、邪魔するなよミル、今良いところなんだから』
「確かに良いところ…じゃねーよ!!」
一体もう何なんだ。顔から火が出そうなくらいに恥ずかしい。生きてきたなかで一番の恥を感じていると思うほどに恥ずかしい。
〈っああ!もっと、…〉
『…金髪碧眼…なるほど、こーゆーのが好きなんだミルキは』
「っもう止めてくれ!!頼むから!!お願いだから!!」
耐えきれない。セーブしてないなんて事はもはや忘れて無理やりPCの電源を落とす。
『っああ!良いところだったのに!』
姉貴は本当にショックを受けているのかおもいっきり眉を下げていた。
『………もう、ミルをそんな意地悪に育てた覚えはないぞ…はぁ』
…オレは姉貴のことは好きである。この性格はアレだが、それ以外は綺麗で優しい姉…だから、今の状況がほぼ姉のせいであることには間違いないのだが、悲痛そうな顔の姉貴を見て胸が痛むのも事実。
…はぁ、なんでオレがこんな目に。
いくらか頭が冷静さを取り戻してきた。それと同時に最優先は姉貴の口封じだと切り替える。
「…つーか姉貴はなにしに来たんだよ」
『遊びに来た』
「帰れ!!」
『というのは冗談』
にこりと微笑んだ姉貴はオタクであるオレから見ても綺麗で、少し胸がドキリとする。
『これさ』
姉貴が取り出したのはスタンガン。それはこないだオレが改良して渡した…。
『試してみたよ』
「っ!どうだった!?」
『なかなかよかった。水敷いてビリビリさせたら二十人くらい一気にやれたよ』
そう言われて嬉しくなる。やっぱり自分の作ったものが成果を出すのは嬉しい。
『という訳でこれは貰うね、それだけ、じゃ』
「ああ…!って待て!」
ドアに手をかける姉貴を止める。
『なに?あ、携帯ならまだ無事だよ』
「それならよかった…じゃなくて!!」
首を傾げる姉貴に一息つく。その疑問顔はもはやさっきの事などもう忘れているかのようだった。…だが、油断はいけない。
「あ、姉貴…その、さっきのことは」
『さっき?』
「!ほ、ほら、そのゲームっていうか、さ!」
『あー、金髪碧眼』
「それだ!!」
やっぱり覚えてた。いや本来忘れるわけも無いのだが、何しろこの姉は変人。
「どうか他の皆には内緒にしてくれ!」
『いいよ』
「そこをなんとか!………て、え?」
今、いいよ、って言ったか…?
『?』
「…いいの?」
『うん』
「そ、そうか…それなら良かった」
てっきり面白がってオレの弱味として握ってくると思っていたのだが…どうにも違ったようだ。
『じゃ』
「あ、ああ」
姉貴はいつもと変わらない調子でオレの部屋を去る。
「………はぁ」
なんだよ…結局振り回されてたのはオレだけかよ…
これならむしろ、姉貴が恥ずかしがってくれたほうが良かったかもしれない………
いや、姉貴の恥ずかしそうな顔なんて見たことがない。
「………………はぁ」
なんだか無性に疲れた。
姉貴。
兄弟の中で一番強い姉貴。
オレにも対等に接してくれる姉貴。
綺麗で優しいゾルディック家長女。