彼女は何を望む

□姉様
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__ドゴン!


廊下を歩いていると直ぐ隣で凄まじい音がする。

あの部屋は…!!

『っけほ、ごほ!』

思った通り、扉が開き出てきたのは愛しの姉様だった。

「大丈夫ですか?姉様」
『!おー、カルト。おはよう』

顔や服は汚れているがいつも通りの姉様に安堵する。

「姉様、今はもう夜です」
『え?本当?どうりで暗いと思った』

それから欠伸をする姉様。また徹夜をしたのかもしれない。徹夜はできれば止めてほしい。姉様の体調に関わるし、綺麗な白い肌に隈だって出来てしまう。

「姉様、徹夜はもうやめてください」
『と言われても。私だってしたくないんだけど、気づいたら夜が明けて夜が来てるんだ……ふぁ』

相変わらずの姉様に静かにため息をつく。

それにしても凄い煙だ。またなにかの実験をしていたのだろうか。

「姉様、また実験ですか?」
『うん。今回はねぇ面白いの作ったよー』
「!どんなものですか?」
『ちょっと待ってて、あ!部屋には入らないでね、今毒ガス充満中だから』
「は、はい」

そう言い姉様は部屋に戻っていく。毒ガスって…姉様は大丈夫なのだろうか?強い姉様のことだから、大丈夫なんだろうけど。…それでも心配だ。

「…今回はなに作ったんだろう」

姉様は実験が好きだ。特にクスリとかをよくお作りになる。ボクが修行で飲む毒も全て姉様が作ったものだ。

もちろん、作るのは毒だけじゃない。風邪薬や塗り薬も作ったり、麻酔や増強剤など、姉様の作るものは幅広い。

『お待たせー。作ったのはね、これ!』

姉様が手に持っていたのは小さな試験管。その中にはピンク色の液体が入っていた。……とても安全なものには見えない。

「どんなクスリなのですか?」
『聞いて驚け!その名も"若返り剤"だ!』
「そ、そのままですね」
『うん。良い名前が思い付かなかった』

そう言い姉様はピンクの液体を揺らして見せる。少しとろとろしているようだ。

『本来なら飲みやすい錠剤にしたかったんだけど、なかなかうまくいかなくて。せめてイチゴ味にすることには成功したんだ』

イチゴ味…それでピンク色なんだろうか。

『効果は体が幼くなる!若返るとも言うね。あ、だからカルトは飲んじゃダメだよ。多分まだママのお腹の中にいる頃に若返るから』
「の、のみません!」

恐ろしいクスリだ。
…?でもこれを作って姉様はどうするんだろう。

「姉様、このクスリはどうするのですか?」
『どうって、私が飲むんだよ?』
「え……!?」
『そんなに驚かなくても…。大丈夫、一回イチゴ味にする前に飲んだことあるから』
「で、でもイチゴ味にしてから試したことはないんですよね!」

もし…いや、姉様に限ってないとは思うけど…失敗していて姉様の体に障ったら…。

『私を誰だと思ってるの?自称天才化学者メルイ博士さ!私に失敗という二文字はない!』
「ね、姉様」

徹夜なこともあやかって姉様はいつもより調子が可笑しい。本当に…だ、大丈夫なのかな…。

『いざ、勝負!』

姉様は勢いよく試験管を傾け、ごくりと飲み干す。

ど、どうしよう!姉様に何かあったら。ああ、どうしてボクは止めなかったんだ!

すると姉様に異変が起こる。

_ポフ

と姉様の周りを煙が包み込んだのだ。

「ね、姉様!」
『安心して、無事だから』
「姉、さま……?」

煙が止み見るが姉様がいない。可笑しい、さっきまでここにいたのに。

『カールト、こっちこっち』
「え…」
『成功だ』

見上げていた視線を前に戻すと見覚えのない女の子がいた。銀色の髪に青色の瞳。その肌は雪のよう。

…ま、さか。

「姉様!?」
『うわー、カルトと背が同じ。なんだか変な感じだ…』
「な、な…!」

いつもの姉様の筈なのに全く別人に見えてしまう。だからか、同世代の女の子はアルカしか知らないためなんだか心臓がドキリとする。

幼くなっても姉様はとても綺麗だった。

『?どうしたの?』
「い、いえ…!」
『そう?それじゃ、皆に披露してくる!』

姉様は軽やかな足取りでその場を去っていく。

「……」

まだ心臓がなりやまない。

なんだか変な感じだ。

…って!

「姉様!服のサイズが!」

振り返ってみるが姉様は既に居なかった。

…さすが姉様。体が幼くなったからといってその力は劣らない。


ボクの姉様。

綺麗で愛しい大切な姉様。

ボクにも優しく接してくれる姉様。

ボクの大好きなメルイ姉様。

 

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