彼女は何を望む

□ゆうわく
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『イルミ…私といいことしない?』

「………」

自室の扉を開けると姉さんが居た。それもバスローブで。

姉さんはオレのベッドから立ち上がりオレへと向かってくる。

「姉さん?」
『ささ、こちらへ』

姉さんはオレの手を取り引く。そしてベッドに座らせた。

瞬間。

『ふふふ、緊張しなくとも大丈夫』

と言いながらオレを押し倒し、被さってきた。

ポタリ、と滴が垂れてくる。どうやら本当にお風呂上がりらしい。いつもの姉さんの匂いがした。

「姉さん、乾かさないと風邪ひくよ」

最も、姉さんが風邪を引いた姿なんて見たことがないけど。

オレが言うと姉さんは呆気にとられたような顔をしてから考える体制になる。

やがて答えが見つかったのか組んでいた腕を解いた。

『ねぇ、イルミ』
「なに」
『もしかして…もしかしてだけどさ、もしかしてイルミ全然動揺してないの?動揺の"ど"の字もない?"よう"でもいいけど』
「動揺?」

姉さんの言葉に首をかしげる。
なんだ、姉さんはオレを動揺させたかったのか?てっきりまた何かの実験かただの気まぐれかと思っていたのに……いや、どっちにしろ変わらないか。

『あー、…なるほど、そうかぁ…そうだよなぁ…』

姉さんは納得したように何度も頷く。

「姉さん?」
『ううん。やっぱりイルミはイルミだなーって。みんなと比べて全然驚かないんだもの』
「みんな?…まさか、キルたちにもやったの?」
『うん』

軽く頷く姉さんは思い出しているのかにやついていた。

オレも弟たちの慌てる姿が簡単に想像できた。

「で、したの?」
『ん?』
「弟たちと、いいこと」

オレは姉さんを抱き寄せ体をひねる。それによってオレと姉さんの立場が入れ替わった。姉さんは目をパチパチしていた。

『するまでも行かなかったよ。だってミルキは見ただけであわてふためくし、キルアもあわてふためくし、カルトだって……あれ?みんなあわてふためいてる?もしかして』
「…そう』
『そうそう!だからイルミもあわてふためくのを楽しみにしてたのに…』

姉さんは本当に残念そうに言ってからすぐに『ま、いっか』と表情を戻す。

「ふーん、じゃいいことっていうのは冗談だったんだ」
『お?なになに、もしかして本当に私といいことしたかったのかな?』
「うん、姉さんがいいならね」
『おー、そうか。そんな真顔で返されるとは姉さん予想外だよ』

わざとらしく驚いてから姉さんはオレの頬に手を伸ばす。姉さんの手は冷たかった。湯冷めしてるのかもしれない。

『……じゃあ、いいことする?』
「姉さんがいいならね」
『…そうだなぁ…』

姉さんは考える素振りをする。

…暫く考えて起き上がった。

『うーん止めておくかな。やっぱり近親同士はお互いに利点はないもの』

姉さんは言いながら立ち上がり、綺麗に笑う。

「そう」
『残念?ふっふー、私がイルミと血の繋がりがなければ問題ないんだけどね』
「家族じゃなかったら、オレはこんなに愛してないよ」

オレは姉さんを背後から抱き締める。オレより小さくて細くて柔らかくて、力を入れたら折れてしまいそうな程薄いのに、姉さんはオレよりもずっと強い。…本当に、姉さんの身体はどうなってるんだろう。

『確かに…それもそうだ』
「姉さんは?」
『イルミともし血が繋がってなかったら?』
「うん。オレを愛しいと思う?」
『うーん……』

姉さんは全体重をかけてくる。といってもとても軽い。

『愛しいと思うかはわからないけど、お気に入りには入ってると思うよ。だってイルミは面白いから』
「面白い?」
『うん、面白いよ』

例えばねー…と言いながらオレの腕から抜け出しニヤリ、と笑った。

『例えば』

オレの身体は意思の伝達よりも早く、反射的に動いていた。

姉さんの手を掴み、その勢いを止める。目だけ動かして見てみると銀色の切っ先が見えた。鋏だった。

『ほらね、面白い』
「……姉さんがやると面白いじゃすまないよ?」

たまたま体が反応したから良かったけど、遅れていたら確実に鋏がオレの喉を貫いていただろう。

『はっはっは、大丈夫だよ。そこは愛を込めてるからね』

そう言い姉さんはオレの首に顔を埋めてくる。

そして、ぞわり、とした感覚が駆け抜けた。

『イルミの血は美味しいね』
「血、でてるじゃん」
『美味しいからいいじゃん』

姉さんは少しも悪いと思ってない様に笑う。…まぁ、姉さんが楽しそうならいいのか。

『じゃ!楽しんだしそろそろかえる』
「うん。早めに寝てね」
『んー、りょうーかい』

敬礼し軽い足取りで姉さんは去っていく。…あの調子じゃ今日も寝ないで起きてるんだろう、と予測する。

開けっぱなしの扉を閉める。

姉さんの後だからか部屋がいつもより静かに感じられた。

「…オレも風呂入ろう」

あ、姉さんの髪乾かしてあげれば良かった。

少しだけ後悔しながらオレは風呂の準備をした。


 

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