彼女は何を望む

□ミルクケーキが食べたい年頃
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オレの5歳の誕生日。

オレがまだイル兄を兄ちゃんと呼び、姉貴をお姉ちゃんと呼んでいた(呼ばされていた)頃。

事件は起こった。

『!なんでケーキ、ミルクケーキじゃないの!?』

ミルクケーキって言えばあの薄っぺらい白くて硬いお菓子…ケーキって名前が今一しっくりこない名前のあれだ。

でもその時のオレはまだミルクケーキが何なのか知らなかった。

「これ?」
『ちがうそれはチョコケーキ!ミルクケーキはあの白いの!』
「あぁ…イチゴがのってるやつ?」
『ちがう!それはショートケーキ!』

兄ちゃんの呟きに全力で否定するお姉ちゃん。お姉ちゃんは明らかに興奮していた。

「メルイちゃんはミルクケーキが食べたかったの?」
『うん!』
「じゃあメルイちゃんがお誕生日の時はミルクケーキにしましょう。でも今日はミルキの誕生日なの。我慢してね」

ママが優しく宥めるようにお姉ちゃんの頭を撫でながら言う。

…今思えば誕生日にミルキケーキっていうのはどうかと思う。まぁ、そのころ姉貴がミルキケーキにはまってたからだろうけど。

『えー!!』
「メルイ、キキョウの言うとおり我慢しなさい」
『でも』
「!ほらメルイちゃん!座りましょうね!」

パパが少し強く言い、そのあと被さるようにママがお姉ちゃんを抱き上げて椅子に座らせた。
お姉ちゃんは未だ不安顔だったがチョコケーキを目の前にして目を輝かせていた。

オレもそれをみてケーキに目を移す。

「さぁ、ケーキを切り分けますわ」

まだかまだかとオレはママが持つ包丁でケーキが切られるのをじっと見る。
そして包丁がケーキに触れたと思った途端。

『!だ、だめ!』

お姉ちゃんが急に叫んだ。驚いて思わずお姉ちゃんを見る。

「だめって、どうしてなの?メルイちゃん」
『せっかく綺麗なのに切っちゃダメだよ!』
「あら、もう芸術性が解ってきたのね!でも安心して。これくらいいつでも買ってあげるわ」
『!ダメなの!』

こうなったお姉ちゃんは絶対に意見を変えないことを幼いオレは知っていた。

でも、オレもケーキをお預けにされてるみたいで少しイライラしていた。

「ママ、早く切ってよ」
「ちょっと待ってねぇミルキ…」
『っだめだって!』
「メルイ!…いいかげんに」
「っ!ちょっとパパ!メルイちゃんを怒ろうとしないで!」
「!…お前なぁ」
『ああ!ダメ!!』

あっという間に言い争いになってしまった。オレもケーキが食べたいのでママを急かす。兄ちゃんをちらりと見たが特にいつもと変わらないようだった。

「っあ、メルイちゃ!」

そんな時だ。

お姉ちゃんがママの包丁を奪い取ったと思ったらその包丁は手から勢い良く抜け出し、更にはその切っ先はオレに向いていた。

「あ」

ズキ、と痛みが走る。包丁がオレの腕を切り赤い血をふりまきながら床へと落ちた。

「っい…う…いたいよぉ…!」

自然と涙が溢れ出てきた。

「…メルイ」

パパの低い声にお姉ちゃんの肩がびくりと揺れた。













お姉ちゃんはそのあとパパに怒られたんだと思う。それも多分凄く。

オレはお姉ちゃんのせいで痛い目にあったし良い気味だと思ってたが、パパの部屋から出てきたお姉ちゃんを見て少し悪いなと思った。それくらい落ち込んでいるように見えた。

それからお姉ちゃんは部屋にこもってしまった。

初めの一日はちゃんと反省しているのだとみんな気にしなかったが、二日目になるとママが心配し出した。

でもまだ二日目だし、顔をだしずらいんだろうとママ以外は思ってたけど…それが一週間続くと流石にみんなも心配になる。

「メルイ?…居るんだろう。お前の反省はよく伝わった、だからそろそろ出てきてくれないか?…それともオレが言い過ぎたのか…?」

パパまで不安になっていた

「メルイちゃん!!ここを開けて!っ開けなさい!!ねぇ!!」

ママに関してはいつも以上にヒステリックだし。

「…お姉ちゃん?どうしたの?」

オレも少しは心配した。あくまで少しは。

「………」

でも兄ちゃんに関してはいつも通りだった。

扉の前の食事にも手をつけていないし……一応訓練してるし三日くらいは食べなくても平気だけど一週間ともなると…。

みんながどことなく焦りを感じてきた頃。

_バン

と大きな音が家に響いた。それから

『っできたー!!!』

というお姉ちゃんの声。

みんなが一斉にお姉ちゃんの部屋に集まる。オレも一番最後だが集まった。

そこにはなにやらビーカーを片手に立ち、どこか誇らしげなお姉ちゃんがいた。

「っメルイちゃん!!もう!心配したのよ!!」
『?心配…それよりミルキは…!あ、ミルキこっち!!』

オレを見つけるなりかけよってくるお姉ちゃん。

そしてガッと腕を捕まれた。

もう治りかけているとはいえ、少し痛みが走る。更には包帯をはずしていく。

「!ちょっと、どうしたの!」
『うわ、もう治ってるじゃない』

ママの制止も聞かず、更には治りかけの傷を見て残念そうに顔を歪める。

『ま、いっか…えっとこれをここに』
「!?な、なに」

嫌な予感を感じた。しかし、腕を引っ込めようとするのが遅かった。

お姉ちゃんはビーカーを傾け中の液体をその傷にかけてきた。熱が走った。

「っ!メルイ!」

腕が熱い熱い。しかしそれは一瞬で直ぐに止んだ。それでも恐怖を覚えたオレはお姉ちゃんに突っかかる。

『やった!!成功だ!!』
「っなにするのお姉ちゃん!!」
『?なにって…』
「そうだメルイ!反省したんじゃなかったのか!」

パパがオレの腕をつかむ。

「余計に悪くさせてどうするんだ!!」
『?』

お姉ちゃんは訳がわかってないのか首をかしげる。

そんなお姉ちゃんを見てパパの顔が明らかに歪んだのが目に入った。っ怒鳴る…と身構える。

「姉さんは治しただけだよ父さん」

そんな時、冷静な声がかかる。兄ちゃんだ。

「…治した、だと?」
「腕を見てみなよ」

みんながオレの腕に注目する。オレも自分の腕をみた。……!!

「ほらね」
「っ傷がない!!どうして!」

オレは腕を触ったりつねったり…けれど痛みも何もない。

「…メルイ…お前はずっとこれを作ってたのか?」
『?うん』
「でも、クスリを作る材料なんてどこから…」
「オレだよ」

兄ちゃんがお姉ちゃんの隣にたった。

「オレが姉さんに頼まれて調達してた」
「…どうして言わなかったんだ」
『私が止めてただけ。ねぇ、それより感想聞かせてよミルキ!どう?一応自分でも試したからまぁ大丈夫だとは思うけど』

お姉ちゃんがずいっとオレの前に出てくる。

…クスリを作ってたってことは一応お姉ちゃんなりに気にしてた、のかな。

だとしたら少し嬉しい。

「……メルイ、これの作り方は」
『そんなの覚えてないよー!あ、イルミ言わないでいてくれてありがとね!!』

お姉ちゃんは兄ちゃんをよしよしと撫でる。兄ちゃんは嬉しそうだった。

……これが姉さんがはじめて作ったクスリだった。


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「……でさ、一応姉貴がクスリを作り始めたきっかけってオレの腕を治す為だった訳だよね」
『?そうだっけ』
「そうだよ。…なのに、なにこれ」

オレの目の前には緑色のオレの腕。
新しい発明の実験で怪我したオレは姉貴からクスリを貰って付けたは良いけど……なにこれ。

『いいじゃん傷は治ってるし緑って格好いいじゃん』
「どこがだよ!!早く元に戻せ!」
『えー!折角いいデータが取れたのに』
「……やっぱり試作品かよ!!」

そういや、姉貴は暫くまともなクスリを作ってないな…とこの時はじめて気づいた。

 

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