彼女は何を望む

□オカルト
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修行を終えたボクは部屋で扇の手入れをしていた。

念で強化しているとはいえ、元は紙。しっかり管理しないといけない。

『…カールートー』
「わっ!」

驚いて体がびくり、となる。それから直ぐに手元の扇を見る。…よかった、壊れてない。

「ね、姉様。いきなり話しかけるのは止めてください」
『えー、こんなにもカルトの反応が面白いのに?』
「だからです!」

残念。と本当に残念そうに姉様は言う。少し言い過ぎたかもしれない。でも、本当に今扇子を自分で壊すところだったから………でも。

『でさ、カルト。暇かな』

ボクの葛藤をよそに、姉様はもういつもの表情だった。

「えと、今日の修行は終わりました」
『そう。じゃあ映画鑑賞とかしよう』
「映画?ですか」

確かに姉様は映画とか、漫画とか小説といった文学的なものが好きだ。姉様の部屋にも沢山ビデオがあるのを覚えている。

『手入れしながらで良いから』
「もちろんです」

勿論。ボクが姉様の提案を無下にするわけがない。それに、映画は大体二時間程度。その間姉様と一緒にいられる。

自分の頬が上がるのが分かる。…大好きな姉様と居られる。

いつもは兄さんたちに取られてしまっているからこんなチャンスはなかなかない。

「それで、どんな映画を見るんですか?」
『リビングデッド』
「りびんぐでっど?」
『そう。死体が動き回る映画』
「…イルミ兄さんの念みたいですね」
『!あー、確かに似てる』

姉様はポンと手を叩く。それから何かを考える。

『……そっか、近くに…』
「…姉様?」
『カルト、デッキどこ?』
「え?あ、今出します」

何を考えていたのかは分からないが、それはいつものことだ。

部屋のボタンを押すとウィーン、とデッキとモニターが出てくる。今時珍しいビデオデッキ。多分姉様くらしいか使わないものだ。

『そーうにゅーう』

高らかに宣言した姉様がビデオをデッキの中に入れる。ビデオが飲み込まれていく。それから音楽が鳴る。モニターには既に映像が流れていた。

『……あ、そうだ』
「?どうされました姉様」
『さっきパパに呼ばれたんだった。カルト、ちょっと見てて』
「え?」

聞き返す間もなく姉様は立ち上がり部屋を出ていく。


…………………


……え?



〈キャアアア!!〉
〈グァア!!〉


「………嘘でしょ」

画面一杯に写し出されている赤。そして緑色の肌の恐らく死体。それを見て叫ぶ周囲の人間。

これは作り物だし、というか普段死体なんて何度も見てるし。

…………姉様が居たからこそ見る気だったが、一人で見るんじゃ正直面白くない。

「……姉様まだかな」

今出ていったばかりなのだから直ぐに戻ってはこないのに、ボクはそう思った。

 

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