彼女は何を望む

□娘
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『パパ、話ってなに?』

ノックもせずに入ってくるのは一人しか居ない。

「メルイ。ちゃんとノックをしろ」
『?私だって解るのにする必要も無いよ』

さも不思議そうに首を傾げる娘にオレはため息をつく。この反応は何を言っても無駄だ。

『それで、話ってなに?今カルトと映画見てたんだけど』

こういう話し方はつくづくイルミに似ている。首を傾げる角度も。双子だからなんだろうが。

「5日後にオレは仕事で家を出る。その間お前は家に居ろ」
『5日後…っていえばイルミも仕事で居ないね』
「ああ。だから万一不在中に何かあったら困る。キルアとカルトだけじゃ、まだ心もとないからな」
『うん。分かったよ』

その言葉に少し驚く。意外だった。メルイは研究以外で家に居ることをあまり好まない。そのせいで、小さい頃から何度も家を脱走しているメルイには放浪癖がしっかりとついているのだ。お留守番、なんてまともに出来た試しがない。
今日だって仕事も無いのに午前中は家を空け、帰ってきたのはついさっき。

頼んだのはこっちだとはいえ、快い返事に少し不信を感じる。

『そんなに疑わなくても。自分の娘がそんなに信用ないかな』
「生憎とお前の場合はそうだ」

自分の娘だ。生まれてから今まで見てきた。しかし、未だにオレは分からなかった。"娘"だからというのもあるだろうが、それ以前にメルイの性格だ。

イルミやミルキ、キルア、カルトは分かりやすい。後者の三人は感情が顔に出やすいし、イルミは何が必要で何が要らないのかはっきりしている。

けどメルイはどうだ。

『というかその日、おじいちゃんは居るんでしょう?なら例え私が居なくなっても問題ないよね』
「居なくなる前提が可笑しいんだ」

メルイは言いながらオレの隣に来る。そしてミケを撫でた。ミケはこれといった感情もなくメルイを見つめる。メルイもまた、特に意味は無いのだろう。瞳はミケのそれと似ていた。

『大丈夫だよ。ここには優秀な執事も沢山いるんだから』
「言っただろう"万一"だと。
オレが居ない間、緊急時の指示はお前に一任する」
『え?いいの』
「イルミも居ないからな。仕方なくだ。ただ、親父にも意見は仰げ」

本当に仕方なく、だ。

正直メルイに何かを任せて良かったことはない。だが、ゾルディック家長女。兄弟の中で一番強く、こう見えても頭が良いのは事実。仕事を失敗したことも一度もない。
仕事に関しては心配ない。と思う。

それでも言いきれないのはやはり彼女の性格だろう。

『パパがそんなに慎重になるのは珍しいね。何かあるの?例えばキルアとか』
「分かってるなら聞くな」

あえて口に出さなかったというのに、こいつは平気で言う。

『平気だよ。だって針刺してるんでしょ?』

確かにキルアにはイルミが独断で刺した針が埋まっている。けれど、結局あれは催眠術の類い。強い意志があれば無理やり抑えることができる。加えて、針を取ってしまえば念の効果は失われる。

それと、キルアは今不安定だ。
あいつは人を殺すことを拒否している。それをイルミの念が無理やり押さえつける。キルアはその中間でさ迷っていた。

キルアが針を抜くことはないだろう。あいつは針を刺されていることに気づいていない。しかし、自分の意思とイルミの念に挟まれていることにより生じたストレスが、やがて破裂してしまう可能性があった。
暴走したら面倒なことになる。オレの子だ。あいつには才能がある。殺して済むことじゃない。

「キルアの様子は」
『別にいつも通りだよ』

メルイの言うことを信じるなら相変わらずの不安定なんだろう。

『パパが仕事で家を開けるなんて初めてのことじゃないじゃん』
「そうだな」
『なら、もういいでしょう?話長い。私帰る』
「…ああ、頼んだぞ」

ドアを開ける前に言う。メルイは振り替えって『うん』と返事だけして部屋を去る。

「………」

メルイの去った扉から視線を下げ。静かに息を吐く。これで少しは安心できた。…訳でもない。オレの勘は未だによくない方向に働いている。

それに、最後のメルイの顔。口は笑っているのに目は笑っていなかった。いつものことだが、今回ばかりはそれで片付けられない。

「…早めに仕事を切り上げるか」

そう決めて頭の中の予定を整理する。

横ではミケが扉をじっと見つめていた。

 

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