彼女は何を望む
□好きの裏は愛してる
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今、オレの機嫌は物凄くいい。
それもそうだ。だって目の前には彼女がいる。
銀糸のような綺麗な髪をテーブル一面に散らして、真っ赤で艶やかな唇からはうだうだとした擬音を漏らしている彼女が。
『……はあ、聞いてる?』
「聞いてるよ。メルイはどんな姿でも可愛いね」
『聞いてないじゃん』
メルイは口を尖らせて子供のような顔をする。それもまた可愛い。
オレに反してメルイはとても不機嫌だった。多分オレを呼んだのも愚痴を言いたいだけなんだろうけど、オレとしてはなんでもいい。
テーブルに突っ伏していたメルイがむくり、と上体を起こす。散らばっていた髪がさらりと下に揃えられた。長い髪が一束顔にかかっていたのでそれを後ろに戻してやる。彼女は特に気にしないでココアを飲み出すので、カップに入らないように気を付けた。
『あ、因みに私が不在だった理由は君の組織関連って言ったから』
「組織…って、旅団?」
『そ。君に情報を貰いに行ってたってことになってるから宜しく。それくらいしかパパを黙らせる言い訳が思い付かなかった』
「それは別にいいけど。ていうか、何の話?」
『………本当に聞いてないのね』
メルイは少し呆れたような顔になった。それもまた美しい。
『弟の家出を手伝ったの』
「へぇ…え、イルミ?」
『違う。キルア』
「ああ。3番目だっけ?」
イルミは団長と会っている時に見かけたりしてたから解るけど、キルアって子は知らない。メルイから今までに聞いた話では確か3番目で、今年12歳だっけ。
『そしたらさぁ…おじいちゃんにバレてそこからパパのお説教こーす…』
「えーと、お疲れ様?」
『ん』
また机に突っ伏したので彼女の頭を撫でる。メルイは目を伏せて撫でられるがままになっている。…………本当に可愛い…。
『……あ、シャル』
「なに?」
彼女が目だけ上げてこちらをみてくる。自然な上目使いに息を飲んだ。
『今年のハンター試験の会場、どこだか分かる?』
「ハンター試験?調べれば分かると思うけど」
どうして聞くのか分からなかった。メルイはもうライセンスを持ってる。そのハンター試験でオレは彼女と運命の出会いを果たしたんだから。
『じゃあ調べて。口座に適当に振り込んどくから』
「お金なんていいよ。キスしてくれれば」
『調子にのるな』
ぺし、と頭にチョップされた。さっきまでオレに撫でられてた筈なのに。やはりゾルディックだった。
『ついでに試験官も分かるといいんだけど』
「試験官かぁ。それはちょっと難しいかも」
なにしろ試験官は名のあるハンター。その情報は厳重に警備されているだろう。
『無理なの?』
「ううん。メルイの為ならそれくらいどうってことないよ」
『そう、ありがとう』
そう言ってメルイの整った美しい顔が近づいてきたと思ったら唇に柔らかい感触。
それは直ぐに離れたけど、その一瞬がとても長く感じられた。ふわりと感じたココアの味が脳に焼き付いた。
「…メルイ」
『なに?』
「結婚しよう」
『調子にのるな』
次は目だけで制してきた。
『というか無理だよ。だってイルミがいるもの』
「それはそうだけど」
イルミ。彼女の弟が彼女を溺愛しているのは知ってる。彼女の口からそれは何度も聞いた。一般人なら殺せば済むけど、弟も紛れもないゾルディック家の一員。それもイルミはメルイと双子だし、正直オレじゃ勝てないだろう。
でも、メルイを好きなのはオレも同じだ。それにいくら溺愛してるからって姉弟じゃ結婚できない。
『……でもまぁ、そうだなぁ』
メルイはカップを置いて考える素振りをする。そんな姿にも見惚れる。なんでこんなにも彼女は魅力的なんだろう。その理由は自分が一番分かってる。でもあまりに魅力的過ぎてそれを伝える言葉が見つからない。
『君のことは生かしてあげる』
「それは嬉しいね」
『私の数少ない大切な友達だからね』
「ええ、恋人だろ?」
『君って実は口説くの下手でしょ』
メルイは頑なにオレと友達以上になることを拒む。それは寂しいし、ちょっとは傷つくけど、そもそも彼女と友達になること事態が難しいことなんだから、そう考えると大したことじゃない。それにメルイがオレを好きでも嫌いでも、オレはメルイを愛してる。
『…ふふ、君のこともお話にいれよう』
「お話って?」
『そしたらそうだなぁ……参謀くらいにはしようかな』
「参謀?」
『うん。私の為に働いてくれる?』
メルイの言ってることは分からないけど、彼女の為に働けるなんて、そんなに嬉しいことはない。オレはもっと彼女に使われたい。都合のいいものだと思われてもいい。
「もちろん。よろこんで」
彼女を一目見たときから、オレは囚われているんだから。
『そしたら結婚も考えてあげる』
「、本当に!?」
『食い付き方が凄い…。イルミ次第だけど。さっき君にキスしたのだってイルミが聞いたら、君は一瞬でお陀仏だ』
「あはは、笑えないね」
『うん。笑えないでしょう』
そう言ってオレとメルイは暫く笑い合った。