SECOND TIMES
□夢入り
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「……まさか。本当に化けて出てくるとは思わなかったよ…旭隊長」
『約束は守る主義なので……藍染副隊長』
そうニヤリと笑えば、あちらも笑ってくれた。その友好的な笑みがとても憎たらしい。
「椎名…!お前っ…なんでここに!…それに、身体は…!」
『おー、ボロボロだなぁ一護。強くなったんじゃなかったのか?』
少し遠くに居た一護はボロボロ…。腹が大きく切り裂かれているようで、多分立てないんだろう。むしろ立ったら下半身とおさらばになりそうだ。はやく処置を施さないとな…。近くに居る赤髪の死神も一護と同じく重症。
「旭椎名…!!…なぜっ」
背中にはルキアを抱える朽木白哉。
成長したなぁ。今じゃ隊長か。でもなんで白哉までボロボロなんだ。藍染にやられたのか?
「兄様っ…!?」
『おー、びゃっくんも血まみれだ。何々、皆してくたばってるんかい。私が来て良かった』
「くっ…」
「兄様…何故…。何故私を…!?どうして…兄様…兄様…。兄様っ…!」
ルキアさんは倒れこむ白哉に向かって何度も呼ぶ。
朽木ルキア……ってそうか、白哉の妹だったわけか。言われてみれば似て……あんまり似てないな。養子か?
『えっと…ルキアさん。下がっていてくれませんか。朽木白哉を抱えて』
「…旭」
ルキアさんは言われた通りに下がる。でも顔は一護と同じく"何でここに居るんだ"って顔だ。
「相変わらず、仲間思いのよい隊長さんだ」
藍染はまた微笑ましい笑みを向けている。ああ、イラつくぜ。
『ははは、皮肉のつもりですか。君には私が、良い隊長に見えてたのか?…笑えない』
私は斬魂刀を構える。手はもう打ってある。
『喰らえ…紅牙』
その瞬間凄まじい霊圧が溢れ出る。
「始解か。いつ見ても…実に美しい」
私のもつ斬魄刀…紅牙は形こそ変わらないが、刀身が透き通るように透明。光が反射してその刀身が輝きを放っている。
『それはどーも。紅牙も喜んでますよ…多分。それより、そんなのんびりしてていいんですか』
「…何を」
『ここ、ここ』
指すのは右肩。藍染を見ると、藍染の右肩は切れて…いや斬られている。しかし血は出ていない。
すると、紅牙の刀身が、赤く染まっていく。
『味、覚えたってさ』
「!」
私は刀をその場で縦に振る。すると同時に、藍染の右肩から腹にかけて大きな斬り傷ができる。血が吹き出した。
藍染は斬られた部分を押さえている。ただ、表情にはあまり変化がない。痛みってのがないのかよ。
「…やはり君には、あそこでとどめを刺しておくべきだったよ」
『お褒めの言葉ありがとうございます』
とどめ、刺さなくとも死にましたよちゃんと。とは言わない。
「ギン」
ギンと呼ばれた男は前に出る。
ギン……市丸ギンか。
見ると奴も白い羽織を着ている。皆して出世かいな。
『糸目はかわらんよーで』
「…そっちこそ、相変わらず何考えてんのかようわからん顔やね」
『褒めてるのか?』
「まさか」
ギンは複雑な顔をしている。何を思っているのかは分からないが、あちらが剣を構える以上、応えるしかないだろう。
『…折角、干し柿でも食べようと思ってたのに』
「…………射殺せ」
ギンが己の斬魄刀に手を添えたその瞬間。
ドン と二つの大きな霊圧が藍染を捕らえる。
一人は夜一さん。もう一人は女性。格好からして隠密機動か。
ギンは…既に離れていた。まぁ、私としてもあんまりやりあいたくはなかったから、いいか。
無駄な戦闘は避けるべきだ。
私はその場を少し離れて戦闘を観賞する。あれは…東西南北の瀞霊廷の門番。あそこまで手がのびてたのか…。気になるところだが、隊長格が居るわけだし大丈夫だろう。危なくなったら助太刀しよう、と区切りをつけ足元に目を向ける。
「………」
『生きてるけど、このままだとちょっとヤバイかな』
足元には一見死んでいる様にも見える赤髪の男。
一護は意識があるようなので、まだ大丈夫。となればこの赤髪の男を先に治療するべきだろう。まぁ、といっても軽い処置だけだけど。
あいにく、医療系の鬼道は得意ではないのだ。そのため紅牙を使うのだが、人の血液をうまく循環させるのはなかなか大変。
『…………』
卯ノ花隊長が来れば一瞬なのに。本当にどこいったんだろ。と赤髪に集中しながらも考える。
『…あ…全員集合か』
ちらっと藍染の方を見ると各隊長格が周りを取り囲んでいる。
『も、大丈夫か』
私も治療に一区切りつけ、そちらへ向かう。
「…藍染…」
「…藍染隊長…!」
ギンや、何やら三つ編みの男も捕らえられている。
「…終わりじゃ藍染」
夜一さんが藍染に言うが、本人は至って変わらず。むしろ、笑っている。嫌な感じがした。
『何笑ってるんです?』
「君は!」
いくつか知ってる面々がこちらを向くが、今はとりあえず無視。
「…旭隊長。これは君が仕組んでくれたのかい?」
これ、というのは今、藍染が隊長格に囲まれている状況だろうか。
『まさか。私は乗っかっただけです』
「そうか」
聞いたわりには特に表情に変化は見られない。またも藍染は笑っている。
「…だから、何がそんなに可笑しい藍染」
「…ああ、済まない。見送りをしてくれたのかと思ったらね」
「!」
「時間だ」
「離れろ砕蜂!!」
夜一さんが叫び、砕蜂と呼ばれた女性と夜一さんは藍染から離れる。
ドン
藍染に光の柱が降り注いだ。その光の中で藍染につけた傷が閉じていく。
「…莫迦な…………!!」
空に亀裂ができ、手が出てくる。その手によって、亀裂が広がり、また奥から手が無数に出てくる。
「大虚!!!!」
大虚……。以前、現世で一護が追い返したあの…。それが何十体もひしめき合っている。その背後には…まだ何かがいる。
そして空からまた、光の柱が二本。
ギンと三つ編みの男に降り注いだ。
ゴ…ッ!
そして土ごと、藍染たちは空に導かれるように浮いていく。その瞬間も楽しそうに愉快そうに、藍染は笑う。
「…何の為にだ」
隣にいた男…浮竹隊長が藍染に問う。自然と私の顔も上を向く。
「高みを求めて」
「地に堕ちたか、藍染…!」
怒りのこもった浮竹隊長の声
「…傲りが過ぎるぞ浮竹」
一瞬藍染と目が合う。アイツの目に私はどう映っているのだろう。
「最初から誰も、天に立ってなどいない。君も僕も神すらも。だが、その耐え難い天の座の空白も終わる。これからは」
藍染の眼鏡が割れた。
「私が天に立つ」
その一言はそこにいたもの全員に、尸魂界中に響きわたるようだった。藍染が地を見下ろす。
「さようなら死神の諸君。
さようなら旅禍の少年、人間にしては君は実に面白かった。
そして…さようなら旭隊長。君とまた、会えることを願っているよ」
大きな瞳が閉じた
『…………ええ。また会って、今度はちゃんと殺してあげますよ』
青い空に私は呟く