碧に染まって IF
□お腹を満たすもの
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▽もしもノアが料理を作って、それを彼らが食べたらの話。
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パチパチ と弾ける音は勢いよく、そして何かを沸き立てる。同時に広がる香ばしい匂いは食事を必要としない私でさえ笑みを描いてしまう。
それは私だけではなく、彼らもそうらしい。
「ねぇノア、まだ?」
とことこと歩いてきたマチが私に問う。その瞳はきらきらしていて視線は私、というより既に出来上がっているいくつかに向いていた。
『うーん、もう少しかかるかな。他の皆は?』
「みんな、ノアの料理が楽しみで遊んでいるどころじゃないの」
パクノダがマチの隣に歩いてきて同様に私を見上げる。遊んでいるどころじゃない……ふむ。
パクの言った通り少し遠くから二人以外の顔がこちらを覗いていた。皆、期待感を隠さない表情である。……見られていると緊張するしなぁ…。どうしたものか、と考えていると伺っていた残りの子たちが歩いてくる。
「…なぁ!出来上がったやつあるならもう食っていいか?」
ウボォーギンは耐えきれないと言った具合で発言する。その視線は言わずもがな私のすぐ横だった。
『駄目』
「…なんでだ?」
『出来上がったら私がテーブルに運ぶって約束でしょう?つまり、まだここにあるってことは出来上がってないんだよ』
「…ケチね」
『うん?一日中お勉強がいいって?偉いなぁフェイタンは』
フィンクスの疑問に答え、それからフェイタンの言葉に笑顔で答える。フェイタンはぐ、と言葉を飲み込む。その表情は苦虫を潰したように分かりやすく歪んでいた。
「なら、ノア。なにかやることはない?」
『やること?』
「じっとしてても気になっちゃうし。オレも、みんなも」
そう提案するのはシャルナーク。この少年は最近彼らと行動するようになった。なんでも例の事件の際にその場に居たらしく、ここまで追ってきたのだと。始めは反発(彼らが)してたものの今では馴染んでいる。
『そうだなぁ…』
全員が食べる量を用意しているためまだ時間はかかる。それも火力はガスコンロでしかないし…。とは言ってもお使いを頼むには時間が足りない。
「そういえばこないだ薪が少なくなってきてるって言ってたよね」
クロロ少年の言葉で思い出す。お湯を作るとき、基本そこら辺で拾った木片を薪として燃やして作っている。
他にも少し冷え込む夜に火を起こす為にも薪は重要だ。ガス管もあるが有限だ。木片ほどありふれてはいない。料理でもしない限りは使わない。
そしてその薪のストックは確かに少なくなっていた。…そういえば少年にそんな話をしたんだっけ。
「ならオレが案内する。次無くなったら取りに行こうとしていた場所があるんだ」
『ああ、あそこか。そんなに遠くでもないし…うん、じゃあ頼めるかなフランクリン』
フランクリンは私の言葉に頷く。
『一時間もすればいい頃合いだと思うから、そしたら戻ってきて』
「6時か。わかった」
少年が懐中時計を確認してそれからポケットに戻す。
「じゃあいってくる」
『うん。いってらっしゃ……あ、ノブナガ少しいい?』
皆が背を向けたあと思い出したようにノブナガを引き留める。
「なんだ」
『これ』
私はポケットにいれっぱなしになっていたものをノブナガに渡す。
『簡単な髪止め。ノブナガ髪伸びてきたでしょう?』
「………」
ノブナガは私が渡したものを暫く見つめる。先日買い物ついでに買ったのだ。特になんの変哲もない黒いゴムだからつけていても変ではないと思うけど。
「…ああ。悪い」
そう言って髪ゴムを握ったノブナガにほっとする。必要ないならそれでもよかったけれど、使ってくれるならそれに越したことはない。
ノブナガは先に出ている皆を追う。そして残ったのはクロロ少年だった。何か用でもあるのだろうか。
『少年?』
「…オレも髪伸ばそうかな」
『え、』
思わぬ発言に驚く。現在少年の髪は短髪。少年のことだから伸ばしても…似合うのだろうけど。
『……あの、もしかして気に入らないかな』
そうだとしたらものすごくへこむ。その為恐る恐るになってしまう。
「え?」
少年はなんのことか分からないのか首を傾げる。
『いや……その。いつも少年の髪を切ってるのは私だから……気に入らないのかな…て』
私はその道のプロではないし、センスに富んでいる訳でもない。それでもそれなりに切ってきたが……やっぱり成長と共に気になってくるのだろう。クロロ少年の好みや求めていることが分かっていたとしても、それを体現できるわけではない。
「……ノア」
『………ちゃんとした鋏を仕入れてくるか…』
「ノア」
『な、なに』
こうなったら散髪用品をそろえてやろう、と考えていた思考を中断する。
「別にオレはこの髪型が気に入ってるよ」
『え…、…そうなの?』
「うん。それより、それ大丈夫?」
『それ?…あ』
指摘されて見てみればフライパンの上から焦げ臭い匂いが立ち上っていた。
_やってしまった。
とっさに火を消すものの意味はない。
……焦げたな。盛大に。
とりあえず焦げた物体を皿に置く。…比較してみると余計に目立つ。
『はぁ。…これは食べても美味しくないな』
「………」
捨てるのは勿体無い。なら…自分で食べるか。食事は意味がないけれど食べ物を捨てる、なんて彼らの前でするのはいけない。…そう思っていると視界の端から肌色の手が伸びてきて皿の上から焦げた肉が盗られた。
そして追っていくと肉は少年の口に入っていった。
『え、ちょ、少年!』
止めるも遅かった。少年は少し目を見開いてそれから口を動かして咀嚼する。
「うん、美味しい」
『!い、いや美味しくない…というか手づかみって熱いよ!火傷してない?』
少年の手を確認する。火からあげて直ぐだ。火傷の場合水ぶくれになってもおかしくない。
『……とりあえず火傷はしてないか』
よかった。クロロ少年の手は無事だ。
『というか…さっきウボォーにつまみ食いは駄目だって言ったばかりなんだけど。約束を忘れる少年じゃないでしょう?』
「覚えてるよ」
『………仕方ないなぁ』
悪気もなく当たり前に答える少年。そう、素直な反応をされては…怒るにも怒れない。それに…少年がここに残っている理由も可愛いものだ。
『…罰として明日買い物に付き合うこと。そして私に何か一つおねだりすること』
クロロ少年の目が開かれる。それから言葉の意味を理解したのかゆっくりと閉じられた。
「…ノアには敵わない」
『ありがとう』
少年の頭を撫でる。少年の中で渦巻いたものは無くなっているようだった。
『もうフランクリンたちは追えないか』
「いや、場所なら知ってる」
『そう。なら問題ないか』
「ああ…じゃあ、いってくる」
私は少年に手を振る。
『いってらっしゃい』
あの時奴を殺せなかったのは残念だけど、こうして彼らの背中を送れるのだから悪いことはない。
『……さて』
残りの分もさっさと作らないと。
私は油を少し足すと、その中に肉を沈めていった。
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もしあの時ナイフを振り下ろさないで離れていたら。
咄嗟に離れたお陰で海に沈むのはやつ一人になりました。なので結局やつは死んでます。
教会に居るのは変わらない。調理は拾ってきたガスコンロに拾ってきたそこそこ綺麗なフライパン。
因みに作っていた料理は唐揚げです。
子供が好き、肉、といったら唐揚げです。
流星街とはいえ行商人くらいはいるかな……と想像。油とか食材といったものはそこから仕入れてます。