碧に染まって IF
□たゆたえども
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▽ただみんなに怒ってもらいたかった。
ちょっと過激な表現が多いかもしれない。
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朝早い街は人が少ない。
店のシャッターも下ろされており、自分の足音がよく響く。
こんな朝早くから、それも彼女から連絡が来ることは珍しい。
自分が誘う、もしくは彼女の行く先に偶然を装って接触することはあっても、ノアの方からメールをしてくるなんて。
メールの内容は"昨日のことで聞きたいことがあるから、私の家まで来てくれると嬉しい"というもの。
"今すぐに?"と返すと、"…来れるのであればその方が嬉しいかな"と返って来た。
丁度まだこの街に滞在中だったため、向かおうと思えば数十分で着くことができる。今日、特に予定はない。それに、ノアの誘いだ。直ぐに来て、と言われたらオレがそれに沿わない訳がない。
その旨を伝えれば嬉しそうな返信が返ってきた。それに頬を緩める。彼女の笑みが頭に浮かんだ。
閑散としている街を歩いて彼女の家を目指しながら、彼女の言う"聞きたいこと"について考える。
昨日は図書館でノアと会って、その後付近の喫茶店で本について談笑をした。ノアは博識で、独特の感性を持ってる。だからこそ彼女との対話は"彼女だから"ということを抜きにしても、とても有意義なもの。同じ本を読んでいても、ノアは違った解釈をし、それも常人とは異なっているところが惹かれる。オレの話も嬉しそうに、真剣に聞いてくれる。
なら聞きたいことは昨日話した本のことか…。と予想を立てる。しかしそれなら電話やメールだけでも十分。いや、オレとしてはノアと会えるならそれだけでいいが……ノアは基本効率重視。なら、直接会わなければならない事情。
「………」
考えている内に彼女の家の扉の前に着いた。特に気負うことなくノックをする。中の気配を探る。
「……」
オレはノブを捻る。そして扉を引いた。_カチャ と手元が音を立てる。扉は簡単に開いた。
そして開いた扉の隙間から流れ出る空気に口を押さえた。
「………」
少しだけ入った空気が喉にひりひりとした痛みを与えた。_毒。だが、それほど強い毒じゃない。
気配がなかった時点で嫌な予感がした。…メールが来たのは1時間前。最低でもその時点ではノアはここにいた。
中に入り窓を開ける。…やはりノアはいない。リビングのテーブルの上には昨日話していた本。本は開かれていた。…いや、それよりも本はオーラを纏っていた。そして何よりこの部屋に立ち込める毒ガスはその本から発生している。
オレは本に触れる。普通に触ることができる。それから閉じる。するとオーラは消える。漂っているガスも綺麗に消えた。閉じた表紙には昨日はなかった紋章のようなものが描かれている。開くとまたオーラを纏った。……なるほど。なんとなく事態の全容が見えた。
オレは本を閉じ携帯で電話をかける。
「まだ全員いるか?」
シャルナークは眠そうな声で答えた。
「そうか。なら、今すぐ全員起こせ。ノアが拐われた」
…え? シャルナークの驚いた声を聞いてオレは通話を切る。帰るまでには全員が起きるだろう。
一見部屋に争った形成はないが、ソファーに赤い染みが点々とついていた。…これがノアのものなら彼女はよほど追い詰められていたと考えられる。
「…この感覚は久しぶりだな」
オレはテーブルの上の本を取ると部屋を後にした。