碧に染まって IF

□ドキドキ2択クイズ
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▽ふと1巻を読み直して書きたくなりました。
ドキドキ2沢クイズにノアがいたらの話。

大した話じゃないけど書くのが久しぶりなのでリハビリ。


___________



後をつけているなか、知らない者が増えれば増えるほど警戒は高まる。警戒を高めればその分集中し、耳を澄ませる。

「ドキドキ2択クイ〜〜〜〜ズ!!」

唐突な大声に耳がキーンとなった。そのせいで絶が途切れたが、この場には人が大勢いるため彼らがこちらを振り返ることは無さそうだった。

ほっと胸を撫で下ろして彼らの様子を見る。

先ほどの大声は小柄な老婆のもの。老婆は彼らと対峙しており、老婆の周りには囲むように数十人の人間がいた。老婆と彼らの会話をみるに、ハンター試験の関係者のようだ。

彼ら3人はこの道の先にある一本杉を目指している。そこに行くにはこの道を通らなければならない。つまり、老婆の言う「ドキドキ2択クイズ」とやらを受けなければこの先には進めないようだ。これも試験の一部なのだろう。

「おいおい早くしてくれよ」

いざ、3人が問題を受けようという時に背後から一人の男が現れる。それは私と同じように彼らをつけていた者だった。

男は3人より先に問題を受けようとする。どんな問題が出るかわからないなか率先して前へ出るのは、大方先に行って罠でも仕掛ける気なのだろう。……もしこの男が先に行ったらどんなものを仕掛けるのか吟味しなければ。

3人は男に順番を譲る。問題の傾向を見るつもりだろう。

_問題には@かAで答えること。それ以外のあいまいな返事は全て間違いとみなす。間違ったら即試験失格。これが問題のルール。

「それでは問題」

老婆の言葉にその場にいた全員が耳を傾ける。私も例外ではない。

「お前の母親と恋人が悪党につかまり、一人しか助けられない。@母親A恋人、どちらを助ける?」

思っていた問題とは違う。もっとハンターにおける知識的なものが出題されるのかと思った。しかし、それと同時にこの問題の答えの予想も立つ。

この問題、@とAどちらを選ぶかは各々の感性による。そのため"どちらか"が正解ということはまずない。次に考えるのは@、Aどちらを選ぶかによってこの先の道が異なるという可能性。その場合これは"問題"ではなく"選択肢"。どちらも正解ということになる。しかし、老婆は"間違えたら失格"と明確に提示している。

これが老婆の好みではなく、一般的な倫理観に基づいた問題なら@かA以外の答えを出すのが妥当だろう。ここでルールにあった「問題には@かAで答えること」と「あいまいな返事は全て間違いとみなす」を考えればとるべき行動は決まってくる。

「@!!」

男は少し考え答える。どうやら単純に答えることを選んだようだ。……これで正解なら私の思考は無駄になってしまうけれど。

「なぜそう思う」
「そりゃあ、母親はこの世にたった一人だぜ。恋人はまたみつけりゃいい」

すごい発言をするな、とやや面食らってしまう。…この男には恋人がいないのかと考える。………いや、私もいないんだけど。

男の答えを聞き、老婆は周囲の人間と話し合う。

「通りな」

そして老婆は一つの道を示した。

男は得意気な顔で道を進んで行った。

……まさか正解だったのか、と思うが正解ならば周囲の人間と相談することはない。

とはいえ失格でもないのだから、男には老婆が吟味した道が提示されたのだろう。結局は老婆のさじ加減みたいだ。

「ふざけんじゃねェッ!!こんなクイズがあるかボケェ!!」

レオリオが激昂した声をあげる。

「こんな問題人によって答えは違うし"正解"なんていう言葉でくくれるもんでもねー!!ここの審査員も合格者も全部クソの山だぜ!!オレは認めねーぞ。オレは引き返す!!別のルートから行くぜ!!」

真っ当な言葉に笑いが漏れる。笑うところではないけど、あまりにも正直な言葉に彼の人間性が溢れていた。

彼は問題の的を得ている。だからここで離れるのは惜しい。そう思っていれば老婆は「クイズを辞退するなら即失格」と言った。その言葉から私の予想は確信に変わった。彼の言葉は合っているのだ。

「レオリオ!!」

そんな時、クラピカがはっとして言う。クラピカも気づいたらしい。

「これ以上のおしゃべりは許さないよ」

先手を打ったのは老婆だった。

「ここからは余計な発言をしたら即失格とする!!さぁ答えな@クイズを受ける、A受けない」
「@だ!!」

クラピカは間髪いれずに答える。クラピカは問題の意図に気づいているため迷うことはないが、そもそも辞退した時点で失格なのだからもはや選択肢はなかった。

「それじゃ問題だ。息子と娘が誘拐された、一人しか取り戻せない。@娘、A息子。どちらを取り戻す?」

カウントがスタートする。5、4……その間にレオリオは近くにあった木材を手に取ると軽く素振りをする。カウントが0になったと同時に踏み込む気らしい。

3、2、1……

「ぶー。終〜〜了〜〜」

老婆が告げた瞬間やはりレオリオは老婆に木材を振りかぶる。頭に血が上ると周りが見えなくなるようだ。彼の人間性を考えれば老婆に手を上げることはないだろう。

レオリオの攻撃を受け止めたのはクラピカ。

「なぜ止める」
「落ち着けレオリオ!!」
「いーーや激昂するね」

2人はにらみ合いレオリオの暴言が飛ぶ。それを治めたのはクラピカの言葉だった。

「せっかくの合格を棒にふる気か?」
「!?。何?」

一瞬冷静になったレオリオの木材をクラピカが弾く。

「我々は正解したんだよレオリオ。沈黙!!それが正しい答えなんだ」

やはりクラピカは気づいていた。……自分と同じ思考をしたクラピカに少しだけ嬉しくなる。弟子の成長を喜ばない師匠はいない。

私が人知れず心を温かくしているなか、クラピカはレオリオに諭すように説明する。

「このクイズに正解なんてない!!しかし解答は@かAでしか言えないルールだ。つまり答えられない。沈黙しかないんだ」
「しかしさっきの野郎は…」
「通れと言っただけだ。正解とは言ってない」

クラピカは先ほど男が通っていった道を指す。

「この道は正しい道じゃないのさ」
「その通り」

レオリオが唖然とするなか老婆は周囲の人間の2人に目配せをした。

すると2人は近くの壁に手を引っかけ横に引く。開かれたそこには道があった。

「本当の道はこっちだよ。一本道だ、2時間も歩けば頂上に着く」

一本道、と聞いて私はついてはいけないな、と考える。さすがに真後ろからなんの障害物もなく後をつけるのは骨がおれる。別のルートから行くしかないだろう。

「バアサン……すまなかったな……」

レオリオは老婆に申し訳ないように謝る。こうして謝れるのだからやはり彼は良い人だといえた。……クラピカの側にいるのが彼であるなら少し安心できる。

クラピカはレオリオの言葉で問題の意図に気がついた。そして、激昂し怒りに身を任せていたレオリオはクラピカの言葉で冷静になった。………2人はいいコンビかもしれない。

「何をあやまることがある」

老婆は問題を出していた時とは違い、とても柔らかい表情をしていた。

「お前みたいな奴に会いたくてやってる仕事さ。がんばっていいハンターになりな」

レオリオは老婆の言葉に深く頷いた。


「ふぅ〜…ダメだ!!どうしても答えがでないや」

しんみりとした雰囲気を破ったのはゴンだった。ゴンは問題の時から今までずっと考え事に耽って黙っていた。

ゴンの言葉にクラピカとレオリオは笑う。

「何だよ、まだ考えてたのかよ。もういいんだぜ」
「え?何で?」
「何でって、もうクイズは終わったんだぜ」
「それはわかってるよ」

ゴンはかしげていた首を戻す。

「でも。もし、本当に大切な2人の内一人しか助けられない場面に出会ったら…どうする?」

それは、私を動揺させるには十分だった。

__ドク と心臓が跳ねる。

「どちらを選んでも本当の正解じゃないけど、どちらか必ず選ばなくちゃならない時…いつか来るかも知れないんだ」


__そう、その通りだ。


そして、その時は……近い。

クラピカの成長を感じるほど、決断を迫られる。


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