愛する世界に変革を
□少年
1ページ/1ページ
「ねぇ、アンタ何やってんの」
ふとそんな声が頭上から聞こえ、目を開けて相手を見る。
…………マジか
『……ども』
動揺を悟られないようにとりあえず挨拶してみる。
「ども、じゃなくてオレの質問に答えてよ」
眉間に皺を寄せて私を見る。直ぐに答えなかったからか、機嫌を悪くさせてしまった様だ。
『寝てる…いや、今起きたんだから寝てた、か』
「それは見れば分かるって。そうじゃなくて、なんでこんなところで寝てたのか聞いてんだけど」
更に不機嫌になった声。
確かにここは道端。加えて"あの"定食屋さんの前。
周囲の人たちもちらほらと私を訝しげに見ていた。
『あー、試験受けにきたんだけど店が開く前に来ちゃって。寝てたんです』
ハンター試験とは言えないのでオブラートに包んでみると、流石に察したようだ。
「…ふーんアンタも受けるんだ」
『そう言うってことは少年も』
「まぁね」
と得意気な笑みを浮かべる銀髪の彼…キルアを見る。
起こしてくれたのはありがたいが、まさかいきなり主要キャラに会うとは…。
念のため大きめなパーカーのフードを被ってて助かった。もし被ってなかったら、私の驚きと戸惑いとニヤけた表情を見られていただろう。
「オレ、キルア」
『私はシーナ。よろしく、キルア』
私は立ち上がってキルアと握手する。……手汗大丈夫だよな。うん、問題ない。
『起こしてくれてありがとう。危うく試験受けられないところでした』
「あ、いや別に俺が気になっただけだし」
お礼を言うと少し驚きながらも返事をするキルア。そんな様子に少しだけ笑みが漏れる。
「いらっしゃい!!」
定食屋に入ると威勢の良い声。
「御注文は?」
「ステーキ定食」
キルアが答えると予想通り店長の耳がピク、と動く。
「焼き方は?」
「弱火でじっくり」
「あいよ…お隣も?」
『はい。同じものを』
「奥の部屋へどうぞ」
店員の指示に従い奥へ進み、部屋へ入る。店員はドア横にあるスイッチを捻り、出ていった。
小さく機械音が聞こえる。
「へぇ、部屋がエレベーターみたいになってんだな」
『そうみたいです』
キルアの言葉に頷き、用意されている椅子にそれぞれ座る。
ジュー…ジュー…
目の前の鉄板には美味しそうなお肉が。…よく考えてみると朝から水以外何も口にしていない。
『これ、食べていいんだよね』
「いーんだろ。早く食おうぜ」
キルアはさっそくナイフとフォークを持ちステーキを食べる。
それを眺めてから私も遠慮なく口に運ぶ。……うん、旨い。噛む度に肉汁が出てきて幸せだ。
「なぁ」
『?』
肉の余韻に浸っていると声をかけられたのでキルアを見る。
「フード、取らねーの?」
頭を指される。そういや被りっぱなしだった。流石に食事中は失礼だったかな。
『ごめん。…これでいいかな』
「…!?」
私はフードを取る。
するとキルアの目が見開かれた。
『私の…一応保護者の人からフード被ってるように言われてて…でもやっぱり変だよね、ずっと被ってるっていうのも』
まったくあの人は何を思って私にそう言ったのか。正直フード被ると視界は悪いし音も幾らか遮るし、良いことがない。
『あの人には悪いけど……取っちゃおうかな』
「…ダメだ」
『……え?』
キルアの言葉に目を見開く。まさか否定されるとは…。しかもそれなりに強く言われた。…好きなキャラだからちょっと傷つく。
「!っあ、いや!…ほら!顔見えねー方が色々便利だろ!」
焦っているキルア。大袈裟にジェスチャーまでしている。
…傷ついたの顔に出てたのかな…。それはそれで気を使わせてしまったみたいで気持ちが沈んだ。
…ただ、言っていることは確かに…。表情が見えないのは利点だ。
『うん。分かったキルアが言うなら付けてるよ』
私は再びフードを被り直す。そして、また肉にかぶり付く。
『にしても、美味しい』
「あ、ああ」
微妙な反応。
そっか、キルアは普段もっと良い食事をしてるのか。ゾルディック家だし。……あーでも毒入りか。
チン
『あ、着いた』
コップに入っていた水を飲み口の中を軽くゆすぐ。
「行こうぜ」
『はい』
エレベーターを出るキルアの後を追う。