愛する世界に変革を
□つかの間の休息
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『どうぞ』
「うん、ありがとう」
運ばれてきた食事をヒソカに渡す。
まぁ、食事と言っても非常食のようなビスケットと飲み物だった。
ビスケットを一口食べてみる。
…………簡素で素朴な味。正直物足りない。
試験最初に定食屋で食べた肉が恋しい。ああ…肉食べたいなぁ…
「じゃあ今度ボクが連れていってあげるよ」
『………………もしかして声に出てましたか?』
「むしろ無意識だったんだね」
心のなかで言ったつもりだったのだが口に出していたらしい。
『…………』
「…そんなに気になるかい?これ」
『あ、いや』
ヒソカが目で促すのは肩の傷。
…やっぱり対峙するとどうしても気になってしまう。
本来なら直ぐにでも治療、もしくは治してしまいたい。私にはそれが出来るわけだし。…けど、これも次の試験に響くからなぁ。響かないような方法もいくつか思い付いてはいるけど…どれもヒソカに怪しまれるだろう。
既にヒソカと関わっていることで周りの受験者から様々な目(若干一名からは強烈な視線)を向けられているというのに…これ以上の悪化は避けたい。動きづらくなる。
「心配してくれるのは嬉しいけど、ボクは平気だよ」
『それは分かってるんですけど…どうも』
あなたが傷ついてる姿は見たくない。
というのは心にしまう。
「…そんなに治療したいならしても良いけど。ボクもその方が良いし」
『あー、いやそうですよね。そうなんですけど………はぁ』
もし私が未来を知らなければ素直に治してあげられるんだろうか。………いや、結局未来を知ってるからこう思うのか。
『…時が過ぎたら治させて下さい』
今は我慢するときだ。
私の目的を達成するためにも、下手なことはしないほうがいい。
「…うん、楽しみにしてるよ」
そう言うヒソカが気味の悪い笑みを浮かべていたのは無視しよう。いや無視させてください。
あ、そうそう。
先程、様々な目(若干一名からは強烈な視線)と言ったが、その一名は勿論。
「………カタカタカタ…」
ギタラクルことイルミさんだ。
『……………』
…………モノスゴイ殺気デスネ。
原因はなんとなく分かる。
きっと、いや恐らく、いんや大方キルア絡みだろう。
流石に一緒にスケボーは不味かったか…舞い上がってしまったのもいけない。
そのとき辺りからイルミさんからの熱い視線は続いている。
しかも今はキルアが居ないとあって余計に殺気をビュンビュン飛ばしてくる。
居心地はとても悪いし、イルミさんのことは好きなので嫌われてしまったか、と少し落ち込む。
隣のヒソカも殺気に気づいているだろうけど、知らんぷり。それはそれで私は直接イルミさんと話す勇気は持ち合わせていないのでありがたい。
…残り時間はあと一日。
とりあえず今は耐えるしかない。
そしたら今度は四次試験。
四次試験なら好きなとこで過ごせるから殺気ともおさらば出来るだろう。
それまでの我慢だシーナ。
「………カタカタカタ」
…負けるなシーナ。
必死にカラカラのビスケットを腹に納めた。
そんな様子をヒソカが恍惚とした顔で見ていたことには気づかなかった。