愛する世界に変革を

□四次試験 下
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夜 

ゼビル島の夜は暗い。
それもそうだ。街灯なんてものはあるはずもなく、受験者も自分の居場所を示すような真似はしないため火も焚かない。
空にはうすぼんやりとした月があるだけ。

普通、こんな夜は獲物を狙うか…もしくは闇に身を潜めじっと隠れるかだろうがそんなこと私には関係ない。

「シーナー!何かあったら叫べよなー!」
『キルアこそ何かあったら叫ぶんだよー!』

静けさをぶち壊すような大声で掛け合う。

同じところに留まるのも暇なため歩いていると丁度良い水辺を見つけたのだ。
水辺…ときて想像できるのはやはりお風呂で、そういえばここ何日も体を洗っていないことに今更ながら気づく。

試しに、『体でも流す?』とキルアに言うと何を想像したのか顔を真っ赤にしながらも「そ、そうだな!」と答えてくれた。
その時のキルアはとてつもなく可愛かった。

まぁ、それはさておきさっそく水に入ろうと思う。

…少しだけ指を入れてみると思ったよりも冷たくない。

一応回りに円を張ってみるが人は居ないようだ。まぁ、例え居たとしても今は夜。見えはしないだろう。

服を脱ぎ、元々持っていたタオルと一緒に置いておく。本当なら洗濯もしたいところだが、体が流せるだけ我慢しよう。

水面に足をゆっくりと付け、やがて沈めていく。
そして肩まで浸かる。

『はぁ…』

水風呂とはいえ、気持ちいい。思わず声が漏れた。
そして、こうして一人でいるとやはり色んなことを考える。

『…あと…一つ』

四次試験が終わったら残すところ最終試験のみ。最終試験は誰とあたるかは分からないが、恐らく原作が崩れることは無いだろう。
多分、私が何かしらの行動を起こさない限り原作に揺るぎはない。
それは今までの経験で悟っていた。

『…試験終わったらどうしよう』

ゾルディック家に関してはその場で合わせられるとしてだ、次世界に大きな動きが現れるのは9月1日ヨークシンのオークション。

今は1月だから単純に8ヶ月は空きが出る。

8ヶ月…うん、長い。

ネテロさんに何か仕事をもらうのも良いかもしれない。

__

そんなことを考える内に大分時間が過ぎた。

そろそろでよう…と立ちあが

_ヒュン

れなかった。

『なっ…!』

何かが頬すれすれを通って行く。と思ったら若干頬が斬れていた。

あと少し反応が遅ければ……ってあれ?

この感じついこないだもあったような…。

まさか。
と思い振り替えるとそこには

「へぇ…今度はちゃんと頭狙ったのにまた避けるんだ」
『!?っい、ぎたらくる、さん』

なんとまぁ、ギタラクルさんが立っているじゃありませんか。

…………………ええっと…、は?
予想と違い、理解が追い付かない。いや、まて、考えろ、考えろ私。

…んと、つまり、ギタラクル(イルミ)さんの発言からして私に何か(この場合だと針の可能性大)投げたのはギタラクル(略)さんで間違いない。これを@とする。

次ぎに、四次試験始めにヒソカによって何か(この場合だとトランプの可能性大)が私に投げられたのをAとする。

この二つは投げた者は異なる。
しかし、私の感覚は@=A。

となると、どちらかが嘘をついていることになる。

……いや、まて。
さっきのギタラクルさんの発言を思い出せ。

__
「へぇ…今度はちゃんと頭狙ったのにまた避けるんだ」__


……これだ!

今度…また、ってことは一回目もギタラクルさんによるもの。

……
………ヒソカは嘘をついていたのか…。

『…っくしゅん』

ブルリ、と体が震える。…少し寒くなってきた。

それによって思考が途切れ、前を見ると…ギタラクルさんは木に寄っ掛かってこちらを見ていた。

「考え事は終った?」
『あ、はい…』

しかも律儀にも待っていてくれたみたいだ。

『四次試験初日に私に何か…いや、針を投げたのも貴方ですね』
「うん」

うん。って、そんな当たり前みたいに…。

『ヒソカさんはあのとき嘘をついていたんですね…』
「キミもよく信じるよね。ヒソカみたいなタイプは嘘つきなのに」
『確かに、それもそうでした』

変化系は"気まぐれでうそつき"だったもんな。

『っくしゅ、……寒い…』

何時なのかは分からないが、入った時よりも確実に夜は深まっている。

「?なら、出なよ」
『出なよって…私も出来れば出て服を着たいんですが、ね』

と言ってもギタラクルさんはコテン、と可愛らしく首をかしげるだけ。

……イルミさんって天然だっけ?

『ギタラクルさんが居るから出られないんですよ』
「なんで?」
『なんでって、…こ、このまま出たら貴方に私の裸を見られるでしょう?』
「ああ、つまりは恥ずかしいんだ」
『っ…そんなにはっきり言わないで下さい……。て、なんで私が顔を赤くしてるんだ…』

彼と話すのはどうも調子が狂う。というか、彼の調子をなかなか掴めない。

「気にしなくていいよ。オレ、女の体とか興味ないから。しかも君は子供だろ、尚更興味ない」

…そこまできっぱりと言われてもあれなんだが…。
それに、そうは言われても出られる筈はない。

というわけで話題を変えよう。

『……というか、そもそもどうして貴方はここに?ついでに言えば、私に針を投げた理由も聞きたいですね』

まぁ、予想はついているが…

「ああそうだった。
キミ、キルアとどういう関係?」

一気に殺気が私へと注がれる。それによって余計に寒くなった。
…あーあ、これで風邪引いたら絶対イルミさんのせいだ。

『…なぜそんなこと聞くんです?』
「いいから答えなよ、じゃないと殺すよ」

喉に当てられた針。…一瞬で間を詰められた。流石ゾルディック家長男。言葉に感情はなく、答えなかったら本当に殺されるのが分かる。

「まさか、友達なんて言わないよね」

おいおい。それで私が友達だったらどうするんだ。答えても答えなくても殺されるじゃないか。

…友達だったらの話だが。

『友達ではありませんよ』

私はキルアの友達になれるほど出来た人間じゃない。

「じゃあ、なんでキルと一緒に居るの」
『なんでと言われましても…』

私が言葉を濁すとチクリ…と首に痛み。……どうしても答えなければならないらしい。

『キルアにはハンター試験開始からお世話になっているので、少しでも恩を返したいんです』

本当はただ単に何故かキルアと一緒に居るだけなのだが、それではイルミさんは納得しないだろうし。

すると、イルミさんは読めない真っ黒な瞳を私に一度向けてから立ち上がる。
同時に針も離れた。

「…ま、いっか。どうせキルも直ぐにキミを殺したくなるだろうし、邪魔になったらオレが消せばいい」

…うん。安心は出来ない言葉だが、今殺されるという事態からは逃れられたので一息つく。途端

「シーナー!」

キルアの声がする。って!
…マズイ。

『!あ、キルア!今来ちゃ』
「!?お前っ」

……………あちゃー…


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