愛する世界に変革を
□面談、来客、朝食、そしてまた来客
1ページ/4ページ
_ボー
遠くで汽笛の音がする。それにより、意識が浮上した。
《ただ今をもちまして第4次試験は終了となります。受験生のみなさん、すみやかにスタート地点へお戻り下さい》
『終、了…』
「起きたのか」
『ん、キルア。おはよう』
もぞもぞ、と起き上がりぼんやりとキルアを見る。キルアは寝ぼけていないので、随分前から起きていたことを悟る。
《これより一時間を帰還猶予時間とさせていただきます。それまでに戻らない方は全て不合格とみなしますので御注意下さい》
「さ、シーナ。いこーぜ」
キルアの手がぼんやりと見える。そして掴もうと手を伸ばすが…?
「……シーナ…?」
《なお、スタート地点へ到着した後のプレートの移動は無効です。確認され次第失格となりますので御注意下さい》
…なんだろ。ぼんやりする。今起きたからじゃなくてなんというか…ぼーっとして、思考が…それになんだか寒い……寒い?…………あ、れ…
…これって
『……風邪、?』
「………は?」
体に力が入らず悪寒がする。頭もクラクラ。
…間違いない。
『キルア、私風邪引いたみたい』
……
「…はぁあ!?」
_______
__
『っくしゅ……う、寒い』
「まったく…。無茶をするなと言っただろうっ」
「まぁまぁクラピカ」
私は今飛行船内のベッドで寝ていた。というか寝かされていた。
周りには、少し怒っているクラピカ。それをなだめるゴン。風邪を引いた原因を悟っているであろうキルア。そして、体温やら冷えピタやら張ってくれるレオリオ。
………
…………はぁ、
うん、イルミさんのせいだな。絶対そうだ、うん間違いない。本当に風邪を引いたのは予想外だったけれど。
「体の節々が痛いとかないか?」
『無いです、ありがとうレオリオ』
「い、いやぁ!あっはは!」
顔を赤くし鼻を伸ばすレオリオにクラピカとキルアの拳が落ちる。私も流石にあの顔は少し気持ち悪かった。
そうそう、看病してもらうにあたってレオリオにも顔がバレてしまった。
別段見られても困りはしないのだが、私が顔を見せたときのレオリオの顔といったらまぁ…。今でも笑いが込み上げてきそうだ。
ついでに言えば、レオリオ以外は私の顔を知っていたため暫くいじけていた。そんなところも面白かったが。
「…ま、本当に普通の風邪だな。一日二日ですぐ良くなる」
『それはよかった』
皆に気を使われるのは嫌だからな。
しかしまぁ……こう改めて見てみると、どっぷり主要キャラと関わってんなぁ私。
嬉しいが、どこか贅沢に感じている自分も居る。
『では、私は大人しく寝るから皆はもう大丈夫だよ』
「でも」
『移しちゃうかもしれないし…それに次の試験、まだ何か分からないからさ。私に時間を裂いてもし皆が落ちたら怖いから。…本当に寝てるから、ね』
ここまで言ってもどうも苦い顔の4人(特にキルアとクラピカ)
『あ、ほら!寝るから、うん。お休みなさい!』
ガバッ、と布団をわざとらしく被りわざとらしく吐息を立ててみる。
そんなシーナをみて、四人は互いにくすくすと笑い合う。
「うん、お休みシーナ!」
「次の試験について分かったら知らせに来る」
「また勝手にいなくなるなよ」
「ネテロ会長にも一応伝えておくからよ!」
ゴン、クラピカ、キルア、レオリオが一言ずついい、やがてドアの閉まる音が響く。
……
『…ああ、ほんとに私は』
幸福者だなぁ
心の中が砂糖のように甘い気持ちで一杯だ。…なんて、幸せなんだろうか。
何度目かも分からない気持ちを抱いて、私は甘い眠りについた。
_____
__
…………
……
「シーナ」
『…』
ゆっくりと意識が浮上する。…本日二回目である。
「うむ、元気そうじゃの」
『…………っごほ……ネ、テロさん』
どこをどうみたら元気そうなんだか…
わざとらしい咳をしながら体を起こしてみる。……うん、やっぱりまだ頭がはっきりとしない。
時計を見ると…寝てから一時間半くらいか。
『…えっと、用件は?』
「今、次の最終試験の参考に受験者に面談をしてての」
『なるほど、それで私の番ですか』
「左様」
ネテロさんはベッドの隣にある備え付けの椅子に座る。
…時間からして全員の面談が終わった後かな。
「まず、なぜハンターになりたいのかな?」
『ハンターになる気はありませんでしたが、ネテロさんが勝手に申込書を出してしまったので』
「ふむふむ」
"勝手に"を強調して読んだ私の嫌みなど聞こえないのか、白々しく頷きながらメモを録るネテロさん。
…まったく、相変わらずだなぁ。
「では、おぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」
『注目…か』
そう言われると難しい。
『うーん。…強いて言うなら全員ですかね』
「ほう」
『そもそも、誰かを固執して見ている訳ではないので…そりゃあ、あの四人のことは特に見ますけど…注目とは違う。…そう言う意味では注目している人はいない、ということにもなりますね』
「なるほどのぅ…」
ネテロさんの反応は実に淡白。使い回しのテンプレみたいな感じ。
「では最後の質問じゃ。9人の中で一番戦いたくないのは?」
『できれば…誰とも戦いたくない、誰も傷つけたくない。でもそうはいかないでしょうから…。四人とは戦いたくないですね、戦っても…多分私が辞退します』
私に彼等を傷つけるような真似は出来ない。
それに…四人と戦ったら、どこかで私のボロがでる気がする。
「ふむふむ…。これで質問は以上じゃ、ところでシーナ」
『はい』
「風邪の具合はどうじゃ」
『……………………普通、最初に聞きません?それ』
呆れた息が漏れる。ほんとにマイペースだなネテロさんは。私もそこそこだと思うけどネテロさんは非じゃない。
「見たところ治るまでに一日二日くらいかの」
『ええ、さっきレオリオがそう言ってました』
「そうか、なら平気じゃの。最終試験会場に着くまで三日ある」
『心配しなくとも試験にはたとえ風邪だろうが出ますよ』
「いいや、治らなかったらワシが止める」
『はい?…』
何を言うんだこのジーさんは。
『…そしたらどうするんですか私の試験は』
「うむ、最悪失格かの」
『……あのですねぇ』
貴方が受けろと言ったから受けて、今度は勝手に失格ですか…。自分勝手にも程があるぞジーさん。
…
まぁそこがネテロさんらしいのだが。
「というわけじゃ、二日で治すんじゃぞ」
『もはや脅迫ですねこれ』
「ほっほっほっ」
優雅に笑うネテロさんを睨み付ける。
もはや、意味がなくても睨めつけたくなるだ。
「それじゃ、ワシはこれから準備に移るかの」
『最終試験のですか?』
「うむ、それじゃあの」
それ以外は何も言わず、ネテロさんは愉快げに笑いながら部屋を去った。
『…………さて』
質問にはなるべく正直に答えた。そして、出来れば誰とも戦いたくない、という意図も伝えた。ネテロさんのことだから、四人と戦ったら私のボロがでることも気づいているかもしれない。
あとはネテロさん次第。
誰と当たるかによって、私が行動を変える。それだけ。
『………ま、今から気張ってても仕方ないか』
あと三日は休めるんだ。ゆっくり風邪治して、のんびりしよう。