愛する世界に変革を
□最終試験 下
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次のレオリオ対ボドロの試合は、第4試合でのボドロの負傷が激しいことが理由で後になった。
そして私は、手の傷口が開いて包帯が血だらけになってしまったという"嘘"をつき、レオリオの隣へと移動する。実際には私がわざと強く握り、血を出したのだが。
私の血だらけの手を見たレオリオは直ぐに包帯を取り替えてくれる。少し心苦しいがここは我慢。
出来上がった手は、もう手の原型がなかった。まぁ、しょうがない。途中からクラピカが参加して包帯がさらに三割くらい増えたのもまぁ、しょうがない。
……うん、しょうがない。
左に置いてあるレオリオの鞄を確認する。
そして訪れたこの時。
「第7試合!キルア対ギタラクル!」
呼ばれた両者は前へと出ていく。
『…キルア』
「ん?」
『がんばって』
「!…ああ!」
キルアはどこか嬉しそうに頷く。
…ごめんねキルア、だからがんばって。
イルミさんの念の強さはさっき味わった。それに反することによる苦しみも。私でそうなのだから、キルアはもっと苦しいはず。
「始め!!」
試験官の声が響くと同時にキルアは一歩前へ。ギタラクルさんは動かない。
「久しぶりだね、キル」
「!?」
ギタラクルさんはズズ、と顔の針を一本一本抜いていく。
そして、顔が変形する。正直気持ち悪い。
ギタラクルはイルミになった。
「兄…貴!!」
「や」
「キルアの兄貴…!?」
キルアは勿論、周りの者も驚いていた。キルアの頬には汗が浮かんでいる。
「母さんとミルキを刺したんだって?」
「まぁね」
「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな。息子にそんなひでー目にあわされちゃ」
やっぱとんでもねーガキだぜ、とレオリオは小声で呟く。確かにとんでもない子に間違いはない。私も実親を刺すことは多分無理だ。
「感激してた"あのコが立派に成長してくれてうれしい"ってさ。
"でもやっぱりまだ外に出すのは心配だから"って、それとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど」
単にゾルディックはキルアを心配しているだけだ。ただその心配が少々過剰であるだけで、キルアは確実に愛されてる。…それを理解するにはキルアはまだ幼い。
「奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね。実はオレも次の仕事の関係上資格をとりたくてさ」
「別になりたかった訳じゃないよ。ただ、なんとなく受けてみただけさ」
「…そうか、安心したよ。心おきなく忠告できる」
イルミさんの真っ黒な瞳がキルアを捉える。
「お前はハンターには向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから。お前は熱をもたない闇人形だ。自身は何も欲しがらず何も望まない。陰を糧に動くお前が唯一歓びを抱くのは、人の死に触れたとき」
…相変わらずぶっ飛んだ思考だな。
「お前は親父とオレにそう育てられた。そんなお前が、何を求めてハンターになると?」
「確かに…ハンターにはなりたいと思ってる訳じゃない。だけどオレにだって欲しいものくらいある」
「ないね」
「ある!今望んでることだってある!」
「ふーん。言ってごらん、何が望みか?」
キルアは言葉を詰まらせる。
「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」
「違う!」
キルアは恐る恐る口に出す。
「ゴンと…友達になりたい。
もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと友達になって、普通に遊びたい」
……キルア。
キルアの小さな、それでいて大きな願い事に胸を掴まれるような感覚になる。
「無理だね。お前に友達になんて出来っこないよ。お前は人というものを殺せるか、殺せないかでしか判断出来ない。そう、教えこまれたからね」
キルアの目に戸惑いが浮かぶ。
「今のお前にはゴンがまぶしすぎて、計り切れないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」
「違う…」
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなる」
キルアの拳に力が入る。
「なぜならお前は根っからの人殺しだから」
……ああ、ダメだ。見てられない。キルアの苦しみが伝わりすぎて、苦しい、胸が痛い、痛い。
「キルア!!お前の兄貴か何か知らねーが言わせてもらうぜ。そいつはバカ野郎でクソ野郎だ聞く耳持つな!」
レオリオが叫ぶ。その叫びで私もはっとなる。
「いつもの調子でさっさとぶっとばして合格しちまえ!!ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!!
とっくにお前ら友達同士だろーがよ!」
…………ああ、レオリオは暖かいな…本当に。レオリオの思いだけで、胸の痛みは消えている。
「少くともゴンはそう思ってるはずだぜ!!」
「!」
「え?そうなの?」
「たりめーだバーカ。シーナもそうだろ!?」
「え?う、うん!」
急な振りに頷くと頭痛。前を見ればイルミさんからの殺気をビシバシと感じた。友達じゃないって言ってたよね?そんな殺気だ。
…いや、私はあくまでレオリオの言葉を、シーナもゴンがキルアを友達だと思ってると思うよな?、という意味でとった。
決して、シーナもゴンと同じくキルアと友達だよな?、ではない。
というのを目で訴えるが逆効果だったらしい。余計に頭が痛くなった。
お陰で周りの声が聞こえない。仕方ないので口許と行動を見て状況を把握する。