アメジスト

□03
2ページ/3ページ


静かな部屋。その部屋の中央の台に固定されている大男。…近くで見るとその大きさに圧倒される。身長いくつあるんだろう。筋肉も、腕なんか私の腰くらいありそうだ。

『………』

この男が蜘蛛の一人。…本当は今すぐ問いただしたい。眼を取り返したい。けれど、今の私たちの立場はマフィア。

「これから何をされるかわかるな?盗んだ競売品をどこにやった?」

リーダーが刃物を片手に男に問う。

「……今何時だ?オレはどの位寝てた?」

男は冷静だった。まるで慣れているかのように、動揺一つない。

「立場がわかってない様だ。質問は、このオレがするんだ!!」

_パキ

「!!」
『………』

リーダーは刃物を男へと振り下ろした。が、刃物はプラスチックのように簡単に折れた。

…流石、といったところだ。リーダーが周をしていたにも関わらず、男は簡単に止めた。

男の目がキョロキョロと動く。辺りを確認しているらしい。…毒の効果はあるのか。

『……』
「……」

一瞬、男と目が合う。…少しだけ男は目を開いた。けれど自然に反らされる。…少しでも私に反応した。けれどこの反応は慣れたものだった。私を知ってるからと言う訳ではない。

「取引きしねーか?命は助けてやるから今すぐこれはずせ」

男は唐突に世間話でもするように言う。その発言に皆が構えたのが分かった。

「な…何だと?」

そう思うのが当然だ。明らかに今不利なのは大男の方。取引きなんて成立するとは思えない。

「本気…みたいね」
「なにィ!?正気か!?命乞いしなきゃいけねーのはこいつの方だろうが!!」

センリツの言葉にスクワラが声を荒げる。それを見て、大男は息を一つ吐いた。

「もう一度だけ言うぜ。オレ達が欲しいのは地下の競売品だけだ。お前らはそのありかを知らねーようだから用はねェ」
「?」
「何?」

男の言葉に眉を寄せる。そう言うってことはつまり…蜘蛛も競売品の在りかを探しているということ。……蜘蛛が盗んだ訳じゃないのか。

「"陰獣"って奴等が先に持ち去ってったんだ。おめーら末端にゃ話が通ってなかったみたいだな」
「嘘は…言ってないと思うわ」

センリツが肯定する。…心音を聞くことが出来るセンリツは、相手が嘘をついているかどうか見分けることが出来る。なかなか自分の心臓までもを騙せる人はいない。男の言っていることは本当。

「勘違いは誰にでもあるさ。オレ達はまだ何も盗っちゃいねーんだ。だからこいつをはずして"その後の事"も見て見ぬふりしてくれよ。そうすれば命だけは助けてやる」

命だけは、ね。センリツが口を挟まないということは本当に男の言葉に虚偽はない。……今は。

この男の拘束を解いたとして…その後男の気が変わることは十分あり得る。なにしろこいつは蜘蛛だ。宝の為なら人の命も簡単に奪ってきた様な奴だ。

助けてやる、なんて。

『…どの口が言うんだ…』
「……え?」

その場に居る全員の目がこちらに向いた。私は男の黒い瞳を見る。

『今までたくさんの人を殺めてきた奴の言葉を信用できる訳がない。…助けてやる?そういう気持ちがあるなら、どうして今までの人達は助けなかった』

関係ないものもいたはずだ。助けてくれと乞いたものもいたはずだ。この男にとって、別段殺す必要もないものもいたはずだ。けれど全員、殺された。
…この男の助けてやる、は私たちの思うものじゃない。もっと軽くて使い勝手のいいもの。

「客はどうした?」

クラピカが少し前に出て男に尋ねる。男は私に意識を残したままクラピカの方に瞳を向ける。

「我々の仲間がそこにいた。答えろ」
「そうか、そいつは気の毒だったな。殺した。そういう予定だったんでな」

クラピカの拳が男の顔面に入る。鈍い音がした。

「貴様らの勝手な予定でどれだけの命を奪ったんだ!?」

クラピカの怒りが伝わってくる。私だからこそ、より鮮明に、直接。怒りが肌を撫でるようだった。それは私の心臓に達し、共鳴する。

男は笑っていた。

「よせクラピカ」
「競売品が無事ならこいつはもう役済みだ。このままコミュニティーに引き渡す」
「取引不成立ってことか」

それがマフィアとしての最善だろう。

「今コミュニティーに連絡を取る。スクワラ、オレが戻るまで見てろ。他のやつらは出ろ。クラピカ、お前は少し頭を冷やせ」
「……ああ」

クラピカが部屋を出ていきその後に他が続く。私も最後に出ようと足を扉に向ける。

「おい、女」
『………』
「お前だよ」

何故か声をかけられた。気にせず足を進める。

「いい眼だな」
『!…………』

少し動揺した。隠しきれなかった。お陰で足は止まる。誤魔化すように私は振り向く。男はじっとこちらを見ていた。私はそれに合わせる

『……欲しくなった?』
「………いや。ただ、団長が好きそうだと思っただけだ」
『…………そう』

団長…ね。その言葉に聞き返したくなるが、ぐっと堪える。ここで聞くのは得策じゃない。ここには監視カメラもスクワラも居る。聞くなら二人きりでないとダメだ。

私はもう一度身体を翻し、そのまま部屋を後にした。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ