碧に染まって

□可愛いお客さん
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その日もいつも通りクロロ少年と本を読んで過ごしていた。

違うことと言えばクロロ少年の髪が肩についていたことくらいだろうか。…今度切ってあげよう。

_バン

『!』

ぼーっとしていたからか余計に体がビクリと跳ねる。

見るとこの教会の扉が開いていた。

…誰だ?この教会を尋ねるのはクロロ少年しかいない。しかしクロロ少年もまた扉を訝しげに見ていた。

「!やっぱりここにいた!」

甲高い声が響いたと思い視線を下にずらす。そこにはピンクい物体。その小さな物体は真っ直ぐクロロ少年へと向かっていく。

「さいきん朝からどこ行ってるかと思ったらこんなとこにいたのね!」

腰に手を当てなんともギャルゲーのツンデレキャラみたいな雰囲気。敵じゃ…ないよな。

『あー、少年。その子知り合い?』
「うん」

私が声をかけたことでピンク髪の小さな女の子がこちらを向く。そして分かりやすいほどに目を見開く。

「………だれ」
『それは私も聞きたいかな』
「クロロ」

女の子はクロロ少年の背に隠れる。明らかに警戒してる。というか入ってきた時点で私に気づかなかったのか。

「大丈夫だよ、悪い人じゃないから」
「でも、外の人でしょ…?」
「ノアはまた別だよ」

クロロ少年に背を押されおずおずと前に出る女の子。女の子はクロロ少年よりも幼い様だった。

『さぁ、君の名前は?』
「………マチ」
『マチ、ね。可愛い名前だ。私はノア』
「ノア…」
『そう、ノア。よろしくね』

警戒するマチを一切無視し、私はマチの小さな頭に手を置く。

するとビクリ、と震えた。確かクロロ少年も最初はこうだったな。

なんとなくマチちゃんの環境も察しつつ、隣のクロロ少年も一撫でする。

『………さて』

マチ"は"これで少しは警戒を解いてくれるだろう。私は後ろを振り向く。

『君はいつまでそこに居るつもりかな』
「!」

さっきマチが入ってきた後に、もう一人入ってきていたのだった。しかし、マチも気づいていないらしいから、敵か違うか判断していたところ。

視線に敵意はないが強い警戒。

『隠れてないで出てらっしゃいな』

恐らく隠れているであろう本棚に声をかける。すると、影が動いた。

「!パクっ」
『パク?』

マチが驚いた様に言う。影の正体はまたまた少女だった。ただ、年はマチよりもクロロ少年と同じくらいに見える。

「パクノダも来たんだ」
「ええ…。クロロの行き先をぜったい見つけるってマチが言ったのが気になって」

この少女もクロロ少年の知り合いらしい。そして名前はパクノダ。

『…あーつまり、クロロ少年のことをマチは捜してて、そのマチをパクノダは追っていたと』
「そういうことになるわ」
『パクノダ、でいいんだよね。私はノア、よろしく』
「ええ」

さっきまであんなに警戒していたというのに、意外とあっさり握手してくれる。

「ノアは、神父なの?」

パクノダが尋ねてくる。神父?何故?

『何で?』
「その格好だから…」

言われて自分を見てみる。ああ、そうだった。確かに私は神父みたいな格好をしていた。

『残念だけど神父じゃないよ。この服は気づいたら着てただけ』
「…だれかがノアに着させたの?」
『さぁ。そうかもしれないし、自分で着たのかもしれない。分からないってことだよ』

マチの疑問に答える。また頭を撫でたら今度は驚かれなかった。

そして、私はずっと気になっていたことを尋ねる。

『クロロ少年が夜になると帰るのってこの子たちが居るから?』

多分、そうなんだろうと思い尋ねる。まず彼女たちはクロロ少年を知っているし、クロロ少年も彼女らを知ってる。しかし日中は私の所にいるので会ってるとしたら夜。

「まぁ、ね」
『…随分と曖昧な答えだな』
「夜は大人が来るんだ」

子供が居るんだから大人も居るだろう。私も言ったら大人だし。
分かっていた筈なのに何せ今まで子供しか見てなかったので驚く。

「オレ"たち"はそこで次の日の分の食料が配られる」

なるほど。缶詰とパンはそういうことだったのか。
"たち"と言うくらいだ。マチやパクノダも例外ではなく、他にもたくさんの子供がこの配給を受け取っているんだろう。

『確かに、それなら帰らないとだね。そこでしか食料は確保できないの?』
「うん」
『そう』

なら、今まで毎日あのパンと肉の缶詰めを食べて生きてきたのか。
彼らにはそれが普通なんだろうけど……やっぱり人生の肥えた私から言わせればなんとも味気ない。是非とも私の自慢の料理を振る舞いたいところだが、生憎と出来ないのが現状。

「ノアは食べ物もらいにいかないの?」

最もなマチの質問。

『うん。お腹が減らないっていうのもあるけど、そもそもこの教会からは出られないんだ』
「?どうして?」
『あー…それはお腹が減らないってことについてかな?それとも教会から出られないことについて?』
「?」

聞き返したらマチは疑問顔になってしまった。少々この言い方はマチには難しかったらしい。今までクロロ少年で慣れていたからなのか、本来の子供への話し方を忘れてしまった。

「両方よ」

代わりにパクノダが答えてくれる。有難い。

『お腹が減らない理由は自分でも解らない。協会から出られない理由は…というか、正確には私が教会から出たくないんだ』
「それ、前も言ってた」

今まで黙っていたクロロ少年がいきなり入ってくる。
…そうか、確か初めてクロロ少年と会った日に同じ質問を少年からされたんだっけ。それで同じように答えた。

あのときはまだクロロ少年には今ほどの知識も思考力も無かったからなんとなく流せたけど……今は無理そうだな。

『……君たちはさ、この教会の窓から外が見える?』
「窓ってそこの?」

指差すマチに頷く。

「見えるよ?」
「そうね。いつもと変わらない景色だわ」
『そっか…』
「ノアには見えないの?」

流石鋭いクロロ少年。本当に、知識、思考力に加えて相手の考えを察することも出来るようになってきたか。

『うん、見えない。窓からは白い光が差し込んでるだけで、外には何もない』
「!!」

私の言葉に女の子二人は目を見開いて驚く。おお、なんとも可愛らしい。

「え!?み、見えないの?」
『全くね』
「うそ!なんで!?」
『さぁ、原因はわからんよ』

原因はきっとこれが夢だから。

『そこで私は、外が見えないのを"見る必要がない"という風に取った。私の行動範囲はこの教会だけなんだと悟った』
「出たくないっていうのは?…見えない外が怖いの?」

クロロ少年がまた核心を付くような問いを投げ掛ける。

『それもあるね。誰しも、"見えない""分からない"っていうのは怖い。でも私の怖いは少し違うかな』
「…違う?」
『そう、違う。どんな風に違うのかは言えないけどね』

言えない、と言ったら明らかに不機嫌顔なクロロ少年。しかしそんな顔をされてもこれは言えない。

私が本当に怖いのは多分、"戻れなくなること"。

ドアにはあのとき触れた以来、一切近づいてもいない。…あのとき私は"戻れなくなる"、確かにそう感じた。

それがこの夢に戻れなくなるのか、現実に戻れなくなるのか、それは分からない。

ここでの生活は決して悪いものではない、何よりクロロ少年との日々は楽しい。現実よりも充実している。
だからこそ現実に戻れなくなるのは困る。…このまま夢に浸かるのはあまりに不安だ。それに、そもそも現実に不満はない。

なら…このままでいたい。どちらにも戻れるであろう今のままで。中間にふわふわと浮いていたい。

「…言えない…まだ足りないのか」
『うん?』
「ううん。なんでもないよ」

呟いたクロロ少年に聞き返すがはぐらかされる。まぁ、追求する気は元よりない。したところでクロロ少年は教えてくれないだろう。

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