碧に染まって
□まっくろくろすけ
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マチとパクノダと会ってから彼女たちは毎日私の所へ遊びに来てくれる。
といっても相変わらず起きて最初に会うのはクロロ少年なのだが、彼女たちもその直ぐあとに教会に入ってくるのだった。
そのときマチは決まって私に抱きつく。これがなかなかに力強いもので(しかも日に日に強くなってる)将来的にマチによって肋骨辺りを折られそうな気がする。というか、毎日毎日こうも嬉しそうに抱き締められたらその内飽きられるんじゃないかと不安になる。
大人に(自分も大人だが)嫌われるのは構わないけど子供に嫌われるのはちょっと胸にくる。いんや、マチに飽きられたら暫く立ち直れないぞ。
そんな事を心配している今日このごろ。
いつもの様に目を開けたらいつもと違うことがあった。
「!…こいつおきたね」
「!ほんとか?」
まず目の前に見えたのは黒。黒い布だった。
『……黒い布?』
「っ!?」
疑問に思って触れようとすると勢いよくそれは離れた。
…………は?
『…私まだ夢見てんのか……いやまぁこれが夢なんだけどさ……』
「…なにするきか」
『はい?』
「おまえ、ここの人間じゃないね」
声が聴こえそちらを向く。
そこにはなんとまぁ、黒い布を身に纏った小さい少年。その隣には背の高い金髪少年。
『…えーと、君たち誰?』
「先ずはおまえから名乗るね」
『確かにそれもそうだ。私はノア、さぁ君たちは?』
私が名乗ると二人は少しだけ驚いているようだった。
『君たちの名前は?』
「………フィンクスだ」
「……」
『ほらそこのまっくろくろすけも』
「まっくろくろすけてなにか、殺されたいのか」
『残念だけど殺されたくない。だから君が名乗ってくれないと困る』
なんとも殺気立った少年だ。せっかく可愛いサイズ感なのに可愛いげが全くないぞ。
「………フェイタン」
『OKOK、フィンクスにフェイタンね。……なんか名前似てるな』
フィンにフェイ…どこか発音が似てる。
_バン
そんな時ドアが勢いよく開いた。私はそちらを向き、フィンクスにフェイタンも扉を見る。
まぁ教会を尋ねる人間は大体予想がついているが。
「!ノア!」
やっぱりクロロ少年だった。
クロロ少年は私と二人が対峙しているのを見ると直ぐ様走ってくる。
『おはようクロロ少年。珍しいね、いつも起きたら居るのに』
「!…うん、そうだね。でも今日はノアが起きるのが早かったから」
『?そうなの』
「うん」
なら仕方ない。どうやら今日の私は早起きらしい。
『この子たちは知り合い?』
「……ああ」
「クロロ、こいつがあのノアだろ?マチが言ってた…」
フィンクスが言う。マチが言ってた…マチが私の事を話したのか。
「…そうだ。彼女がノアだよ」
「やぱりね。マチの話と一致してるよ」
『一致?』
「金髪に緑の目、神父の格好」
『わーお、そりゃ確かに私だ………ん?私って目、緑色なの?』
それは驚きだ。緑…緑か…。真っ黒な瞳しか想像できない自分にとっては結構衝撃的。…完全に純日本人とはかけ離れてる…。
「!あ、ノア。これ」
何かを思い出したようにクロロ少年は手に持っていたものを私に差し出す。
持ち手のついたシルバーのそれは手鏡だった。
「ノア、自分の姿みたことないと思って」
『おお、流石クロロ少年。私のこと解ってるじゃないか』
クロロ少年の頭を誉めるように撫でると少年はどこか嬉しそうだった。
どれどれ…
さっそく覗き込む。
・・・
は?
『……クロロ少年』
「?」
『もしかしなくてもこれが私かい?』
「うん。ノア以外は写ってないよ」
『だよねー』
…………おいおい。想像以上に日本人感が欠片もなかった。
言われた通りの金髪に緑の目。そして異様に白い肌……。
私の知ってる私ではなかった。
「…それで、フィンクスもフェイタンも何の用で来たんだ?」
クロロ少年の声で現実に戻る。
クロロ少年はまるで初めて会った時のような硬い態度、声。
……知り合いでも仲良くはないのか?
「マチがあんまりにもノアってやつのこと言うから気になってよ…」
「気になたのたしかめて悪いか」
「いや。…悪くはない」
『なになに。君たちそんなに仲良くないの?』
思わず聞く。
「たしかに、特別仲が良いって訳じゃねーな」
「たまたまいしょにいることが多いだけよ」
『なるほど…仲が悪いわけでもない、ってことか』
私が言うとフィンクスとフェイタンは少し顔を歪める。どうやら仲が良いと思われるのは好かないらしい。
『それで、さっきクロロ少年も言ってたけど何用でここに?私を確かめに来たとかなんとか言ってたけど』
まぁ大体は察しがついている。
マチが私の事を二人に話し、気になった二人は私を見に来た、ってところかな。
「…マチが昨日、二人にノアのこと話してたんだ。今日起きたら二人がいないからまさかとは思ったけど」
「ああ、クロロを起こさないようにして来たからな」
「………」
『……えーと、なんかまた険悪な雰囲気になりそうだからやっぱりこの話は止めようか』
パン、と空気を入れ替えるように手を叩く。
今はなんだかクロロ少年の機嫌が良くないらしく、それに反発して二人もどこか喧嘩腰だ。
『さ、折角二人が来てくれたんだからさ何か遊ぼうよ』
「…………」
『クロロ少年。いいでしょう?私の娯楽は君たちなのだから』
「……分かった」
頭を撫でると頷くクロロ少年。…本当に少年は撫でられるのが好きだなぁ…。撫でると必ずといっていいほど機嫌が良くなるのを最近発見した。まぁ大方、私のせいなんだろうけど。
『さーて、なにして遊ぼうかねぇ』
「…ワタシあそぶなんていてないよ」
『そんな硬いこと言うなよフェイタン。少しはフィンクスとクロロ少年を見習いたまえ』
「いや、オレもいいとはいってねーけど」
『………はぁ、分かった。分かったよ。何して遊ぶかは君たちに選ばせてあげるから、それでいいでしょう?』
…せっかく新しい遊びをクロロ少年に教えてあげたかったのだがここは仕方ない。
私は凄く残念だと言うのに二人は納得のいかない顔をするだけだった。
どうやら彼らには何して遊ぶかを選ぶ権限を得られようがどうでもいいらしい。しかしそんなことは百も承知。
クロロ少年よりよっぽど心情の読み取りやすい二人が、どうすれば遊んでくれるのか。そんなことは簡単なことだ。
二人が好きなことをやらせる。
うん。単純かつシンプルだが、自己主義に見えるお二人には一番いいはず。
「…なんでもいいのか」
『基本的にはね、もちろん死に直結なのは勘弁。それと範囲はこの教会内』
やっぱり乗ってきた。
フィンクスはもはや何でも良さそうだが、フェイタンはどうやらやりたいことがあったらしい。
「…ならいいのがあるね」
『ほう。それはなんだね』
実際、この子達(クロロ少年含め)が普段何して遊んでいるのか気になっていた。皆が皆、クロロ少年の様に本を四六時中読んでる訳じゃなさそうだし、だからといって、マチとパクノダは"だるまさんが転んだ"を知らなかった。
フェイタンの言葉に私は耳を傾ける。
「たたかいね」
『…ん?』
たたかい?……戦い?戦隊ごっこ的な?
「ノアっ!!」
クロロ少年が叫んだと思ったら目の前にフェイタンが。しかも手にはナイフを持っていた。…ここの子供はみんなナイフが標準装備なのね…。
にしても、なんでもいいとは言ったものの、遊びの説明もなしにいきなり始めるなんて。
「!?」
『少々勝手かな』
私はフェイタンの手首を掴み止める。
しかしすぐにフェイタンは振りほどき離れる。
すると今度は後ろに気配。…そういえばさっきまでフェイタンの隣にいたフィンクスが居ない。…ということはフィンクスか。
まったくフィンクスまで急に始めることないじゃないか。いくら私が大人で遊びの知識が豊富だとしても、対応しきれんぞ。
『よっと』
「っな!?」
『つーかまーえた』
私の首を狙っていた足を掴む。フィンクスは宙ずりになった。
にしても…戦う遊びねぇ……あ、
そこで一つ思い浮かぶ。
『……なるほど、戦いって…つまりは組手のようなものか』
江戸の日本にもチャンバラとか、勿論現代にも剣道とかボクシングとかあるわけだけど、つまりは二人はこういう体を動かす対人戦の遊びが好きなのか。
ここでやっと遊びの意味を理解。
『…なら、さすがに時間無制限はないだろうし…フェイタン、何分目安?それと一対一?この状況だと一対二のようだけど』
聞いたのにフェイタンはどこか唖然としていた。手にぶら下がるフィンクスも同様。
『え、なに?』
「っはは、二人はまだノアの話が飲み込めてないんだよ」
『そうなの?』
クロロ少年が笑って言う。それから二人の方を向く。
「ノアはあくまで"遊び"のつもりだったってことだよ」
クロロ少年は二人に言う。
「ついでに言えば、これが何の遊びなのか…どういうルールなのか考えて、今結論に至ったってところかな」
『凄い、クロロ少年。perfectで当たってるよ』
「パーフェクト?」
『完璧って意味』
「そうなんだ」
クロロ少年は嬉しそうだった。
対して二人は顔を歪めていた。
「…おまえ、ぜたいにワタシが殺すね」
『殺すはダメだって。倒す、ね言うなら。…なら、先ずはフェイタンからか。フィンクスはクロロ少年の隣で見学』
足を離すと着地するフィンクス。
『フェイタンが決めないならルールは私が決めるけどいい?』
「…おまえやれるならなんでもいいよ」
『そう。ルールは基本的に一対一で時間は…ボクシングは3分だけど…まぁ10分でいいか。武器の使用は無し、危ないからね。相手が降参したら攻撃を止めること』
「!それじゃつまらないね」
『ルールは私が決める。君はさっきそれに同意した。いまさら無しとは言わせないよ』
「………」
黙るフェイタン。…彼のイライラはもう少しでMAXになりそうだ。まぁ、わざとイラつかせる言葉を使っているのだが。だってその方が面白いだろう。
『勝敗は、10分間の間にどちらが多く相手の腰を床につかせるか。もしくは相手に降参をさせるか。審判は見物人、今だとクロロ少年とフィンクスだね』
「もし、オレとフィンクスの意見が違ったらどうするんだ?」
『そのときは引き分けでいい。君たちは特別仲が言い訳じゃないんでしょう?なら、公正な判断が下せるだろうから問題なし』
言えば納得のクロロ少年。隣のフィンクスもルールは理解できたようだ。
『さて、なら始めようか』
フェイタンは私の言葉でニヤリと笑う。私をどう負けさせるか色々と想像しているんだろう。
だが、当然私は負けるつもりなど毛頭ない。
『クロロ少年。針がちょうどよくなったら"始め"って合図して。それでスタートするから』
「ああ。……5、4、3、2、1、始め!」
その瞬間フェイタンの姿が消える。なんとも素早い。
しかし
『よっ、と』
「!?」
流石に大人である私にフェイタンの動きは見える。
殴りかかってきた拳を避け、手首を掴んでくるりと捻る。
『これで一回』
フェイタンはバランスを崩し床に腰をつく。
フェイタンは目を丸くしていた。あら、なんと可愛い。
『…さーて、本気でこないと私は倒せないよ?』
挑発的に言えば案の定怒りを露にするフェイタン。なんと解りやすい。
フェイタンは起き上がり再び拳を握る。