碧に染まって

□トランプ
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_シャキ _シャキ

という音が一定間隔で教会に響いている。かと思ったら、それは止まり、やがてまた鳴り出す。

『よし、出来た!…なかなか上出来だな』

音源は私の手元、正確にはハサミから発せられていた。そして今完全に止まった。

私の目の前には髪の短くなったクロロ少年。といっても初めて会った時くらいの長さなので短髪という訳ではない。

『どう?なかなか良い感じだと思うんだけど』
「…いいんじゃねぇか?」
「そうね、すっきりしたわ」
「!うん、すっきりしたよ!」
『……マチはいいとして、二人とももっと反応してくれてもいいんじゃない?というかフィンフェイは完全に無視なの?』

私が美容師の免許を持ってる訳もないので、自分なりに頑張ったのだが…その頑張りの割には周りの反応が淡白過ぎる。

今日は数日前から気になっていたクロロ少年の髪を切っていた。前と後ろ両方。因みにこのハサミはクロロ少年が持ってきてくれた。

『はぁ……これでも頑張ったんだけどなぁ』

口を膨らまして明らかに拗ねてみせるとクルリ、とクロロ少年がこちらを向く。

「ノア」
『ん?』
「ありがとう」
『ん………どういたしまして』

クロロ少年はそう言い私の頬にキスをする。…ほっぺは確か親愛だったか…。

先日クロロ少年が"隠すのは止めた"宣言をしてからというもの、少年からの愛情表現が多くなった。それこそ、今まで隠していたものを隠さなくなったかのように。

まぁ、そもそもキスは外国では挨拶代わりのようなものだし、ましてやクロロ少年は子供。
心臓にきたのはあのとき首筋にされた一回くらいで、今となっては素直に受け止めている。

周りの子供もキスという行為自体は知ってるみたいだが、意味とかは深く知らないらしい。

『この切った髪はどうしようか…ゴミ箱とか…うん、ないよなぁ』

一応髪は散らばらないようにして切り、一ヶ所にまとめてはあるのだが、そういえば捨てる場所がない。

ダメもとで見渡してもこの神聖な教会にゴミ箱は無いし…だからといって隅に置いておくのも何か違う気がする。

「外に捨ててくるよ」
『そうだね、それがいいかもしれない。あ、でも道端に置いてきちゃだめだからね。…そうだな、穴でも掘って埋めるべきか…』

道に置いて誰かが髪の毛を見たら驚くだろうし、風に吹かれて飛んでいかれるのもちょっとあれだ。気分的に良くない。
となると、やっぱり埋めとくのが一番か。

「埋める必要なんてねーだろ」

今まで喋らなかったフィンクスが言う。私は首を傾げる。

『どうして?』
「だって外は」
「ノア、埋めてくればいいんだよね?」

フィンクスの声にクロロ少年の声が重なる。

『うん。それが私は良いと思うけど、今フィンクスが埋める必要はないって…』
「確かに埋める必要はない…ちゃんとゴミ箱があるからね」
『!そうなの?』

そうだったのか。!というかそれを早く言ってくれ!!色々と考えた私が馬鹿みたいだ。

『なんだ、それなら問題ない。お願いするね、少年』
「うん」
「おいクロロ!」

扉へと向かった少年をフィンクスが呼び止める。それによりクロロ少年はフィンクスを見る。

「フィンクス…」

続いて何かを言ってるみたいだが、距離が遠いため生憎とここからでは分からない。

それからクロロ少年はこの教会を後にし、残されたのは不機嫌顔のフィンクスだった。

「………」

…何を言われたか気になるがわざわざ聞くのは止めておくか…。

聞いたところで答えてくれるか解らないし、私に必要なことを隠された訳ではなさそうだ。

「どうしたんだろクロロ」
「そうね…」

不思議がるマチに考えるパクノダ。…パクノダ辺りは知ってそうだな。

「……ッチ」

解りやすく舌打ちをしたフィンクスはまた手元に目線を戻す…

……ん?

『っトランプ!!』
「!?」
『!っとごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけど驚きと嬉しさと色々と混ざって…』

なんということだ。先ほどから妙に手元を見て何か弄ってるなぁ、とは思っていたがまさかトランプを持っていたとは……。

「とらんぷ…?」
『フィンクスの手元のそれだよ』
「お前、これがなんなのか知ってんのか?」
『ええ!それはもう!』

フィンクスに近付き手元のそれをもう一度見る。やはりそのスペードやらハートやらのカードはトランプ。

この夢の中で何度渇望したものか…遂にその願いが叶うのか!

「……そんなに凄いもんなのかそれ」
『まぁね!トランプ一つあれば色んな事が出来るから……というか、これどうしたの?』

雰囲気からしてフィンクスはトランプが何なのか解ってない様だった。なら、何故?解らないものを買うようには思えないし…。だからといってそう易々と落ちてるものでもないだろう。

「あ?適当に拾ってきた」
『落ちてたの!?』
「あ、ああ。そんなに驚くことか?」

まさかの落ちていた発言。もはやそれは落とし物じゃ…勝手に拾ってきていいのか?………まぁいいか。落とした奴が悪い。

『よし!今日何して遊ぶかは決まったね!』
「遊ぶの!?」
『うん。皆こっちおいで』

言うとマチ、パクノダ、フランクリン、それとフィンクスが集まってくる。場所はいつもの祭壇前。私の定位置。

『フェイタン』
「………ッチ」

遠くに座っていたフェイタンに視線を移すと目が合う。…舌打ちですか…。しかし直ぐに反らされ私の方へ歩いてくる。態度は渋々といった感じだが、顔はそれほど嫌そうではなかった。

_ギィ

扉の開く音。見るとクロロ少年。どうやらちゃんと捨ててきた様だ。

『お帰りクロロ少年!丁度今から新しい遊びをしようとしてたんだ!だから少年も』

私が手招きするとクロロ少年の頬は少しだけ緩んだ。

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