碧に染まって

□霧のような
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空間には私とパクの二人。

そういえばパクノダと二人きりになるのも珍しいな。いつも私にはクロロ少年が、パクノダにはマチがくっついていたし。

『とりあえず探そうか』

そう言い私は教会の端に歩いていく。パクノダも後ろを着いてくる。

トランプもそうだったが、皆は色々拾ってくる。良いものから危ないものまで。たまに、本当に落ちてたの?と問いたくなるようなものまである。
…外にモノが有りすぎなのか、それともこの子たちが見つける能力に優れているのか…。

「ノア、これ?」
『おー、あったあった』

パクノダが差し出す包帯を左で受けとる。

「それで、手当てって何をすればいいの?」
『んとね……と、その前に一つ聞いて良いかな』
「うん、何?」
『皆は私が怖い?』

聞くとパクノダは目を丸くして驚く。その顔は聞かずとも、どうして?と言っていた。

『あのパーカーの男を倒した後に、皆と合流したらどこか怯えているように感じたから』

あのときは、あの状況が怖かったんだろう。と思ったがやっぱり違和感を感じた。なぜなら、怖がっていたのならあんなに普通に男たちを持って外へはいかないと思うのだ。
私が行かせたといえば行かせたのだが、それなら手伝ってと言った時に反応があるはず。

「!…そ、れは」

パクノダの目が泳ぐ。これは、図星なのか…それとも他に言いづらい事があるのか…。

『勿論無理やり言わせる気はないけど、気になったからさ。一緒にいて皆が怖いのを我慢しているのも何だか嫌だし』
「!ううん!違うの!ノアのことが怖かった訳じゃない!」
『じゃあ、何に怯えてたの?』

こう、問い詰めて行くのは少し卑怯かもしれない。無理やり言わせる気はない、と言っておきながら結局は言わせているのだから。

「…あの男の雰囲気と、ノアの雰囲気が似ていたから…だから、皆戸惑ったんだと思う」
『似てた?』

それはあんまり嬉しくない。しかし、パクが言うのだから本当なんだろう。子供の感覚は大人よりも時に優れている。

「っでも、ノアのは怖くなかったの!でも感覚が同じで…!」
『OKOK分かった。パクが言いたいことは分かった。だから少し落ち着いて』

パクノダは必死に、私が怖かった訳じゃないと訴えてくる。私が何か言うものなら泣き出してしまいそうなくらい、必死に。

『……男の雰囲気って具体的には?』
「その…うまくは言えないけど、とにかく威圧的で、私たちにまとわりつくみたいな…ノアもそうだったんじゃないの?」

急な疑問にドキリとする。
威圧的でまとわりつく……いや、私はどちらかというと本当にもやが巻き付いていたし…別段あの男を怖いと思った記憶はない。

『あー、いや私は…』
「…そう、ノアは違うのね…良かった。私たちと同じ中で戦ってると思ってたから。苦しい思いをしていた訳じゃなかったのね』

そう言いパクノダは笑う。
言葉だけだと皮肉にも捉えられるが、パクノダの表情は本当に私を心配し安堵しているものだった。

……パクノダは優しいな、本当に。
自分だって身動きが取れなくなるほどの恐怖に襲われていた筈なのに。

『……多分"能力者"っていうのが関係してるんじゃないかな』
「能力者?」
『男たちが話してたんだよ、能力者がどうのこうのって。その話だとあのパーカーの男は能力者で、私も能力者らしい』
「え、ノア能力者なの?」
『うん、そうみたい。確かに鎖は出せたからそうなのかもしれないね。その、威圧的な雰囲気も解らなかったし』

言うとパクノダは少しだけ顔をふせ微笑む。それはどこか寂しげに見えた。

「…やっぱり、ノアは特別なのね」
『……』

特別、と言われて否定する言葉は出なかった。
考えてみれば、こんな夢のような体験をしている私は特別と言うべきなのだろう。

『なら、特別な私と一緒にいるパクノダも特別だ』
「え…?」
『だってそうでしょう?類を持って集まると言うように、善人の周りには善人が、悪人の周りには悪人が集まる。なら、特別な私の周りには特別なみんなが集まるんだよ』

だからパクノダも特別だ。

そう言うとパクノダは少し惚け、それから徐々に頬に赤みが差す。

私からすれば類を持って集まる以前に、パクノダたちは十分特別な子供だと思う。

毎度同じ事を思うけれど、この子たちは頭が良い、そして体力も大人顔負けだ。だから、そんなに自分を卑下する必要は全くない。

『パクノダはもっと自分に自身を持つべきだよ。あなたはきっと素敵な女性になる。それは私が保証する』
「……私が悪人の周りに居たとしても?」
『うん。悪人の周りでも、パクノダは素敵になるよ。というか、その場合だとその悪人も素敵な人だろうね。そうじゃないと、そもそもパクノダが悪人に着いていく訳がない』
「!……そう、ね」

納得するとパクノダは笑う。それにつられて私も笑う。


私のせいでもあるのだが普段クロロ少年と一緒にいるため、周りのみんなとゆっくり話せる機会は中々ない。

フェイタンやマチ、あとはフィンクスなんかは割りと素直に感情を表に出してくれるので問題ないが、フランクリンやパクノダは感情を隠す癖がある。

それでもフランクリンはまだ自分の言いたいことは言う方だ。でもパクノダは優しいから、言いたいことも仕舞ってしまう。

……パクノダの胸の内を少しだけだが聞けて良かった。

『それじゃあ治療を…』
「……?ノア?」


……ああ、ヤバイな。そろそろ限界だ。


聞けたのは良かったが、やっぱりパクノダにはクロロ少年たちと共に行って貰った方が良かったかもしれない。

『…パクノダ、ナイフを抜くときはゆっくりで良いから真っ直ぐ抜いて。それから止血。やり方はクロロ少年が知識で知っていると思う』
「う、うん。解ったけれど…ならクロロが来てから手当てをするの?」
『…っ…ああ、ダメだな』
「ノア…?」

私は倒れる。
驚いたパクノダがワンテンポ遅れてから駆け寄って来るが、相手を出来そうにない。

「ノア!?」
『……あっつ、…!』

そう熱かった。右腕の刺された部分が。さっきまではただドクドクとしていただけだったのに、急に熱い刺激が走った。

その感覚は夢を思い出させた。…なんだやっぱり予知夢だったのか。そう思ってしまうほど、熱い感覚が酷似していた。

もうちょっとだけでも大人しくしててくれよ全く。パクノダが折角良い表情になったのに、また悲痛そうな顔に戻っちゃったじゃないか。

『!……っ』
「ねぇ!どうしたの!?」

右腕に痛みはない。ただ、熱い。右腕を動かすことが出来ない。感覚が無かった。ますます夢を思い出した。

火事じゃ無いだけいいが、正直辛い。みんなの前では格好つけていたいのだが、今回は強がりも意味がない。

「ノア!!!」

やがて目の前が霞み、それこそ夢のように見えなくなった。

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