碧に染まって
□大人として
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__ノア。
優しい声がした。
私をいとおしむ、甘く柔らかい声が。
「おはよう」
ゆっくりと目を開けると、そこには望んだ光景が広がっていた。
どこか懐かしく感じるその光景に自然と頬が緩む。
『…ああ、おはよう』
上体を起こしクロロ少年を撫でる。少年もいつもより嬉しそうに見えた。
あ。
自然と右手で撫でていたが、そういえば刺されたんだっけ。
『……』
右肩を左手で触るが痛くも痒くもなんともない。というか傷自体が無かった。
『…私、どれくらい寝てた?』
「丸三日くらいかな」
『そう』
嘘、なんだろうな、と思う。あの傷が三日で治るわけがない。
でも、少年は私を思ってそんな優しい嘘をついたんだろう。ならそれをつつくのはいけない。
『みんなは?』
「まだ来てないよ」
『そう。…なんかデシャブだな』
「デジャブ?」
『前にあった出来事と同じこと、もしくは似たことが起きる現象』
まぁ、もう同じことが起きられたら嫌だけど。
『それじゃ、例に習って皆が来るまで……私とイイことしようか』
「良いこと?」
『……あー、そうだよね。このジョークは流石に早いか。いや、なんでもないよ』
「ねぇ、良いことってなに?」
『んー、私が少年を抱き締めることだよ』
言って、少年を実際に抱き締める。
失敗したジョークを誤魔化す為なのだが、これはこれで良いことだな。
やっぱり子供はサイズ感、温度、質感…と言ったら変態みたいだが…が丁度良い。…そうだな。例えるなら抱き枕の安心感とでも言おう。
「……ノア」
『んー?』
「オレもやる」
そう言いクロロ少年は私の腕からすこしズレ、自分の腕を私の首に回してくる。
『おー、ちゃんと届くようになったね』
「…まぁね」
以前は背伸びして私を抱き締めていた。それはそれで可愛かったのだが、順調に成長しているのも嬉しい。
『私を越す日も近いかもねー』
「……それ本気で言ってるの?」
『いーや。暫くはこのままかな。というか、このままがいいかな。少年が私より大きくなったら、もう腕の中に納めることが出来なくなっちゃうから』
こう、すっぽりとはまる感じが堪らなく良いのだ。決して変態的意味ではない。
「……なら、オレもこのままがいいかな」
『でしょ?』
笑いかけると嬉しそうに応えるクロロ少年。私はこの瞬間が堪らなく好きだ。
_バタン
ここで、勢いよく扉が開かれる音がする。
少年の影から顔を出し、入り口を見ると皆がいた。
「「…ノア!!」」
打ち合わせでもしたのかと問いたいくらいに揃った声。
みんなはさぞ驚いているのか、その顔は見ていて面白い。
『やぁ、みんな。おはよう』
もう来たのか、とでも思ってそうな顔のクロロ少年を一端剥がし、軽くみんなに手を降る。
「っノア!」
真っ先に駆け寄ってきたのはパクノダだった。…私はパクノダの前で倒れたんだ。本人は驚いただろう。意識を失う前の悲痛な顔が甦る。
『!…よーしよし』
…相当だった様だ。パクノダは私に抱きつき、顔を押し付ける。体は震えていた。
『…ごめんね。急に倒れたりして』
「!、ほんとよっ…!私、何もできなくて…!」
『何もできないなんて言わないで』
パクノダの背中をそっと撫でる。
『少し不謹慎かもしれないけど…私はさ、そうやって心配してくれるのが何よりも嬉しいんだ。怒って、泣いて、悲しんでくれるってことは、私のことそれくらい思ってくれている証拠だから』
「……でも」
『でもじゃない!パクノダは悲しいかもしれないけど私は嬉しい。だから、パクノダは何も気にしなくていいの。そもそも怪我したのは私の責任。パクノダのせいではないよ』
言い聞かせるようにゆっくりと、話す。すると、パクノダは静かに離れる。見えた頬は濡れていた。
『うん。良い顔だ。これからも私のことたくさん心配してね』
「………ノアはバカよ」
そういう割にはどこか照れくさそうな顔だった。
「ノア!次、あたしも!」
パクノダが離れたのを見てマチが突っ込んでくる。相変わらず良いタックルだ。
『マチ、私が寝てる間に苛められてたりしなかった?特にフェイタン』
「何でワタシね」
『君たちは喧嘩してるイメージが強いからね。それはそれで微笑ましいけど』
「…」
言ったら相変わらずの不機嫌顔になる。それすらも懐かしい。
『ふふ』
「…なにわらてるか」
『なんでも。ほら、そんな膨れっ面しない』
マチをくっつけたままフェイタンの方へ向かい、その頭を撫でる。
嫌そうな顔はするものの払いはしない。安定の照れ隠しだろう。
『フィンクスとフランクリンもとくに変わりない?風邪とかかかってないよね』
「ああ」
「オレもだ」
『そう、良かった。あ、フィンクスあのときは叫んでくれてありがとね』
「…あのとき?」
『私が腹部を殴られたとき』
「!っあれは」
『はいはい照れないの』
顔を反らすフィンクス。…そういえばこの子たちの照れ屋率高いな。可愛いからいいけど。
「…ノアはもう、大丈夫なのか?」
『お陰さまで。たくさん寝たから元気になったよ』
フランクリンの頭も撫でておく。
…さて、これで皆と話した……ん?
「……」
「……」
『………あれ?増えてる』
見知らぬ子供が二人。一人は細身でクロロ少年たちよりもお兄さんに見える。もう一人はかなり"がたい"がいい。子供の頃でこうなんだから、大人になったらどうなるんだろう。