碧に染まって

□お直ししましょう
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ノブナガとウボォーギンが教会に来るようになって、更にここは賑やかになった。

やはり男の子が増えたからか、賑やか…というかたまに騒がしいこともしばしば。

大体騒がしさの中心はフェイタンとウボォーギン辺りで、他の面々はその周りに集まっている。今もそうだ。

クロロ少年は定位置である私の隣か、気分次第では騒がしさの中に居ることもある。今は私の隣で読書中だ。

みんなやりたいことを自由にやっていた。

…この空気は嫌いじゃない。

「ノア!」

感傷に浸っていると教会にマチが入ってきた。

そういえば今日は朝からマチが居なかったな。

「これなに!?」

そう言いマチは私に白く四角いケースをみせてくる。

どうやらまた解らないものを拾ってきたらしい。

チラリと教会の端を見る。そこには皆が私に訊ねるために拾ってきたものが置いてある。

私が目覚める前はちょっとした小山だったのが、今では積もり積もって山を形成していた。…随分集めたもんだな。それと毎度思うがよくそんなに落ちているものだ。むしろ廃材置き場から拾ってきてそうだ。

『どれどれ…』

私はケースを受け取り、まず眺めてみる。

その行為により、隣のクロロ少年もこちらに注目し、騒いでいた皆もこちらにやってくる。皆もこれが何なのか気になるようだ。

見た感じ、某100円ショップでも売ってそうな何でもないケース。

なら、中身か。

カチッと簡単に開いた中身を見てこれが何なのか一瞬で解った。

『裁縫用具だ』

中には大中小の針に糸、それから小さな鋏なども入っている。

「さいほう?」
『破れた所を直したり、布と布をくっつけたりする道具だよ』

ケースは汚れているが中身は綺麗だ。これは何かの時に使えるな。

「なら、ノアのここも直せるのか?」

少年が指差すのは私の右肩。

そうだった。刺されて傷は直っても服は破れたままだった。黒だから解りづらいが血の跡も残っている。

それほど大きな穴でもないし、気にしてもいなかったのだが…折角だ。

『そうだね、直せる』
「あたし直すところ見たい!」
『いいよ。ついでに教えてあげよう!』

裁縫を出来ていて損はない。女の子なら尚更だ。

…とはいっても、どうやって直そうか。

私は裁縫を片手で出来るほど器用ではない。なら、服を脱ぐに限る。

しかし、生憎とこの服を脱いだことはない。…そういえばお風呂も入ってないよな……?
…いや、それは今考えないことにしよう。

さて…どうやって脱ぐのだろう。神父の服など生まれてこのかた着たことがない。つまり脱ぎ方も分からない。…そもそも私は下着類は着てるのか?いや多分着ているんだろうけど…。

裾や首もとをめくってみる。…白の布と黒の布はくっついている訳ではないらしい。なら、とりあえず黒の布は脱ぐことができそうだ。黒の布さえ直せれば、見た目は解らない。

『……あーマチ、パクノダ』
「なに?」
『脱ぐの手伝ってくれないかな?』
「ええ」
「いいよ!」
『それから、男子諸君』
「?オレたちのことか?」
『うん。少し、向こうに行ってくれないかな。流石に見られながら脱ぐのは少し恥ずかしいから』

と言っても男子諸君は首を傾げる。少年までもが「どうして?」という顔だ。
…まぁ、そうだろうな。彼らは子供だし別に見られたところで構わないんだけど……ここで素直に私が脱いでしまっては彼らの将来に関わる。

彼らは常識を私から学んでいる。ここで脱いだら、彼らの脳に"女性は男性の前でも普通に服を脱ぐもの"という常識が刻まれてしまう…かもしれない。
あくまで可能性だが、もしそうなってしまったら将来変態という命名で呼ばれてしまうかもしれない。

それは断固避けたい。

『…少年、皆を教会の端まで移動させて、お願い』
「…分かった。ノアのお願いならオレは従うよ」

疑問顔の少年を"お願い"という言葉で納得させる。少年の誘導により他の皆も渋々従う。

一定感覚離れた所で黒の布を脱ぐ。
下に着ていたのは真っ白なロングワンピースのようなもの。…着物の下に着る長襦袢の西洋版のような感じだな。

「まっしろだね」
『そうだねぇ』
「でも…」

パクノダが見るのは私の右肩。…うわーお、血だらけ。それも乾いて少し変色していた。
赤は白い布によく映える。

「………」

パクノダに続き、マチまで落ち込んだ顔をする。…別にこの子たちのせいではないんだけどな。

『ほーら、勝手に落ち込まない』
「…ノア、その」
『それよりも!今は服を直そう、ね』

…服は脱ぐべきじゃなかったか。

笑いかけてみるが暗い雰囲気が一向に回復しなさそうなので、無理やり区切りを着け針を取り出す。

『これは針。で、まずはここの小さな穴に糸を通す』

布と同じ黒い糸をすっと穴へ通して見せると、女の子二人の目が少し輝いた。
……よし、少し意識を反らせたな。

『それから、大体必要な長さに切って、玉結びをする』

玉結びのやり方は細かく教えていく。針と糸はまだあるので、二人にも実際にやってもらう。…器用だな。二人とも一回で出来てしまった。

『二人とも上手』

頭を撫でれば誇らしげな二人。

…たまにはいいな、こういうのも。叶うことなら二人を連れて買い物にでも行ってみたい。きっと楽しいだろう。

『そして縫っていく』

そこからも説明を交え、徐々に穴を塞いでいく。時々少年たちの方を確認するが、皆ちゃんと後ろを向いていた。私がさせたことだがなんだか面白い。

やがて塞ぎ終わり、玉止めをして完成。ここでもやり方を教える。鋏で糸を切るときは短すぎず長すぎない程度…という細かいところまで教える。

『どう?思ったよりも目立たないかな』
「うん!ぜんぜんわかんない!」
『裁縫もなかなか楽しいでしょう』
「ええ!」

二人ともすっかり女の子の顔である。ここは男子率が高いが、二人にはしっかり女の子らしくなってもらいたいものだ。まぁ、ただの私の願望なのだが。

直したのなら着ようと袖に通したときにあることに気づく。

『……あれ、こんなのしてたっけ?』

私の胸元には十字架があった。十字架は私の首からぶら下がっている。…ネックレス、だ。

「え、ノア、気づいていなかったの?」
『うん、全然』

とりあえず黒の布を羽織り、下になったネックレスを上へ出す。……うわ、ますます神父っぽくなったな…。

「…その格好だから付けているのが普通だと思ってたわ」
『確かに、考えてみれば神父なら着けてるはずだよね』

つまり、最初から身につけていたから今の今まで気づかなかったということなんだろう。この服をどうやって着たか分からなかったことのように。

『男子諸君。もう見ていいよ』

男子たちに声をかけると一斉に寄ってくる。

それから直った部分を見せればみんなも少なからず驚いたようだ。

それから私の胸元に注目が集まる。
おそらくというか、この十字架のネックレスを見ているのだろう。

そりゃあ気になるよな。さっきまでつけてなかったのだから。

『?これかな?』
「うん、さっきまで無かったよね?」
『それなんだけど、実を言うと今までずっと着けていたみたいなんだ。中に入っていて解らなかったんだけどね』

言いながら十字架に触れてみる。確かな重量感に純銀であることを悟る。

特に宝石とかもついていない銀色の十字架。ますます聖職者感が強いな。

「…十字架は最も重要な宗教的象徴…でも、ノアは神様を信じていないんだよね?」
『そうなんだよね。…これじゃあますます神父とかシスターと呼ばれても否定できないな』

なら取ってしまうか。と思っても実行には移さない。
今の今まで着けていた…自覚はなくとも馴染んでいたものを外すのには少し抵抗がある。それに、もしかしたらこの十字架にも意味があるのかもしれない。……今のところなぜ神父の服なのかの理由も解っていないし。
正直……理由があるのかも解らないけれど。

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