碧に染まって

□お直ししましょう
2ページ/2ページ


『ま、この十字架のことは置いといて。皆の服も直そうか』

皆の服は所々解れている。
良い機会だしついでに直してしまおう。

例のごとく、男の子たちには端にいってもらい女の子から服を脱いでもらう。

それからさささっと解れを直す。

次に男の子達の番。服を脱いでもらい、回収する。……女の子二人と比べて明らかに解れや穴が多い。元気なのはいいが……やりがいがありそうだ。

男の子達は私が縫う光景をじっと見つめている。そっか、さっき縫うのを見せたのは女の子だけだったか。

「…ノアって何でも出来るよな」

ふと、フィンクスが言う。

『そう言ってくれるのは素直に嬉しいね』
「ノアにできないことはないの?」

マチが聞いてくる。
出来ないことねぇ…。

『皆が出来ないことは私にも出来ないよ?』
「?たとえば?」
『空を飛ぶとかね』
「…それ、誰もできねーだろ」
『つまりそういうこと』

私なりに答えを言ったつもりなのだが、皆は少し不満顔。…そういう意味とは違う、とでも言いたそうだ。

ま、わざとこういう答えを言ったのだが。

『…君たちはさ、私が何でも出来るように見えるんだよね』
「?ああ」
『だとしたらそれはあってる』

直った服を渡せば驚くみんな。いつの間に直したんだ、という顔だ。

『私は大抵のことなら出来る。裁縫、料理、勉学、運動……多分、やったことの無いことでも、少しやれば直ぐに人並みくらいに出来る。でも、それはあくまで人並みだ』
「…?」
『それが一番生きやすいんだろうけどね』

昔から何度も言われた。あなたは何でも出来るから羨ましいと。
確かにそれは正解だと思う。私自身、何でも出来る自分を疎んだことはない。

けれど、それが良いことなのか。

後悔や挫折はしたくないと思う。でも、そんな体験をした人の方が生きている感じがする。

…私をじっと見る目の前の彼らを見る。
皆それぞれで同じ顔などいない。それは当たり前だけど当たり前じゃない。

『…さ、服も直ったことだし皆で遊ぶ?』

自分のなかで暗くなってしまった。その気持ちを払拭しようと皆に言う。

「あ!じゃああれがいいな、なんとか鬼ってやつ!」

真っ先に声を出したのはウボォーギン。なんとか鬼って…その"なんとか"の部分で色々変わるのに。

「"なんとか"の部分が一番重要ね」

思っていたらフェイタンが言ってくれた。

「つったってよぉ、忘れちまった」
『はは、なら久しぶりに新しい遊びでも教えようか』
「ほんとか!」
『うん。みんなもそれでいいかな』
「ああ」
「うん!」

皆の顔を伺う。皆私の意見に賛同しているようだが…ただ一人。パクノダはうつ向いていた。

…どうしたんだ?

『パクノダ?』
「…ノアは特別よ…」

パクノダは顔を上げ真っ直ぐ私を見てくる。それに私は驚く。驚いて、それから、意味を悟る。

…どうやら勘違いをさせてしまったらしい。

『えっと、パク。ごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ』

前に私はパクノダに、私は特別だと言った。そして、そんな私と共にいるパクノダも特別だと。

しかし、私は今、私の出来ることは"人並み"と言った。だから否定してくれたのだろう。

『うまくは説明できないんだけどさ、私が特別なのは変わらないんだ』

…ただ、その特別が必ずしも良いこととは限らないだけで。

「…ならいいの」

頷くパクノダにほっと息をつく。

…パクノダも鋭くなったな。見た目の成長は直ぐに解るが、中身は解りづらい。

彼らをいつまで子供扱いできるだろう。

親というのはこういう心境なのかもしれないな。

『さぁ、何を教えようかな』

鮮明に浮かんでくるさまざまな遊び。その遊び方。攻略法。

反して、親の顔はぼやけた。それは夢の中だからか…それとも私が忘れたからなのか。

久しぶりに元の世界のことを考えた。



考えて、やはり景色はぼやけていた。

「…ノア?」
『おっとごめんごめん。少し考え事してた』

見上げてきたクロロ少年の頭を撫でる。周りには私の言葉を待つ子供たちがいた。

『…そうだな』

寂しいとは思わなかった。

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ