碧に染まって

□欠陥品
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『……………』

一冊毎に扉を見やるが開く気配が一切ない。

…今日、目が覚めてどれくらいが経った?

横に積まれた本は六冊目に突入している。

…読むのにそれなりにかかる本だ。3、4時間は経っているだろう。

『……遅い』

そう、遅いのだ。こんなにも遅いのは初めてだ。

ふと夢が頭を掠める。

…何かの予兆だとするならば、彼らに何かあったのか?

………いや、断定するのはよくないな。それに暗い思考は良くないフラグを立てる。

多分、私がまだ寝ていると思っているのだろう。もし私が起きたのが朝の1時とかだったら来るはずもない。夜起きた可能性もある。きっとそうだ。

『…………と、思いたい』

言いながら乾いた笑みが漏れる。…結局不安感は拭えないよな。

さっきから頭に入っていなかった本を閉じ、この教会の入り口へと向かう。

大した距離じゃない。直ぐに扉の前に着いた。

『………さーてと』

心のなかで区切りをつけ、腕をゆっくりと前へ出す。

…例え何もなかったとしても、それはそれでいい。今はとにかく、私が安心したい。

『………』

後数pだ。指の先が扉へと触れるまで。

指が震えるのがわかった。電気がビリビリと入っている感覚。…恐怖、とは少し違う。これは本能的な拒否反応だ。例えるなら…そう、S極とS極を無理やり近づけると反発するあれだ。

『……』

…頑張れって。開けなきゃ後悔するだろ。開けて私が多少壊れたって良いじゃないか。

歯を食いしばり指を伸ばす。

…もう少し。


_バン


『っうあお!』
「!?ノア!」

自分とは思えない声が出た。
び、吃驚した。

『!はぁ、驚かさないでよノブナガ』
「いやオレの方が驚いたって!」
「ノア!もう、起きてたのか!」

扉から入ってきたのはノブナガとウボォーギンの二人。…ほんとに吃驚した。ドアの向こうから人が来る可能性をすっかり忘れていた。

『うん。少し前にね、おはようウボォーギン』

二人はいつも通り変わらない様子。
二人が一緒なのは何の疑問もないが…他の皆は?

「こんな扉の前で何してたんだよ」
『皆遅いなーって思ってさ。外に捜しに行こうかと…』
「行こうって……ノアは出られないんだろ?」
『うん、まぁそうだね』

…結局出られなかったな。でも、後少しだった。あのまま二人が来なかったら外に出られていた、のか?

…なんだろう。
二人が来てくれたことに酷く安心している自分がいる。…元々皆に会いたくて出ようとしてたからなんだろうけど。

『!って、ウボォーギンその膝!』
「あ?あー、来る途中で転んで」

転んだ、と言うウボォーギンの膝には血が滴っていた。うわ、痛そう。

他の皆のことが気になるが、まずはこっちが先か。

『はぁ、今度からは気を付けて…さぁおいで。治療してあげよう』

ウボォーギンの手を引き祭壇のところに座らせる。ノブナガも後に続き、ウボォーギンの隣に座る。

「治療ったって、クスリとかあるのか?」
『残念ながらクスリはない、でもそれは頭の使いようでどうにでもなるものさ』

良く分かっていない二人にはそのまま待ってもらい、私は道具を捜す。

包帯はあったよな。絆創膏なんてものはないからそれで押さえるしかないか。あとは、消毒。あの傷なら、ウボォーギン自身の自然治癒力でどうにかなりそうだから、直接は要らない。
でも、包帯含めここの物はきっと細菌が多く付いてるから…お、酒瓶発見。栓は閉まっている。揺らしてみると液体の音がした。

『こんなものかな』
「包帯と布はなんとなく分かるけど、酒?」
『酒は別名エタノールとも言う。エタノールには殺菌作用があるんだ。一般的な消毒液に大抵含まれているよ』

ポン、と栓を抜き匂いをかぐ。

………久しぶりにかいだエタノールの匂い。お酒はそんなに飲む方ではないが、それなりにはたしなんでいる。

中身を布へたらし、染み込ませる。周囲にアルコールの匂いが充満した。

『先ずは砂を落とそうか。本当は水が良いんだけど、ここにはないから』

酒の染みた布でウボォーギンの膝を拭く。といっても傷口に直接は付けない。つけるとかえって殺菌作用が毒になってしまう。

「いっ!」
『あ、ごめん』
「…わざとじゃねーよな」
『まさか』
「いった!!」
『あはは、ごめんって、わざとじゃないから』

本当にわざとではないのだがウボォーギンの反応がいちいち面白い。だから頬があがるのも仕方ない。

「…ぜったい楽しんでるだろ」
『?なんだいノブナガくん、目薬代わりに指して上げてもいいんだぞ?』
「!い、いや!なんでも…ねぇ」

目薬の意味が解らなくても私の雰囲気で察したのか焦るノブナガ。それを見て更に私は楽しくなった。

…やっぱりこうでなくっちゃな。

『よし、汚れはある程度取れた。血は止まったみたいだし、あとは軽く包帯巻いたら終わり』
「…そんなんでいいのか?」
『これが一番いいんだよ。かえってやり過ぎるとウボォーギンの自然治癒力を低下させかねない』

疑うノブナガを撫でて黙らせる。

それから、ウボォーギンの膝に包帯を巻く。……凄いな、もう薄い瘡蓋が出来始めていた。若い子は治りも早いと言うけれど、少し早すぎる気もする。まぁ、早く治るに越したことはないけれど。

『はい、出来上がり』
「おう!ありがとな!」
『いえいえ』

嬉しそうなウボォーギンの頭を撫で、立ち上がり後ろを振り向く。そして開きかけた口を閉じた。

……そうだった。他の皆は居ないんだった。

『ところで、お二人さん。他の皆は?』

この子たちが来た以上、今が早すぎる朝か真夜中という可能性は無くなった。

「さぁ?オレは見てないぜ」
「出てくるときは見たけど…オレたち勝手に来たから」
『勝手に?』
「ああ。いつも皆揃ってからここに来るから皆が揃うまでウボーと遊んでたんだけど、こいつが怪我して…」
「オレは大したことねーっていったぜ?」
「それで悪化して病気にでもなったら大変だろ。最近は感染症?ってやつもはやってるみたいだし」
『感染症?』

外はそんなことになってるのか、あんまりいい話じゃないな…と思い聞き返すと二人揃って顔が青ざめた。

なんだその、しまった…!、みたいな顔は。
言っちゃダメだった…!、みたいな顔は。

『……』
「と、とにかく!それで教会なら何かあるかもしれないしノアが治してくれるかもしれないからだから勝手に来たんだ!な!ウボー!」
「!あ、ああ!そうだぜ!!」
『………そう』

凄い圧だ。むしろそこまで隠したい感が見え見えだと逆に聞かない。
…しかし、感染症か。これもまた彼が隠していたことのひとつなんだろう。

『…とにかく、二人は他の皆のことは知らないってことだ?』
「「ああ!!」」

息がぴったりな二人。

本当に二人は仲が良いな…。友人と呼ぶよりかは、仲間、家族に近いように思える。

『でも、勝手に来たのなら尚更皆が来ても良い頃だよね』
「?なんでだ?」
『だって、本来なら皆で揃って行くのに君たちは勝手に来た。なら、少年が黙ってる筈がないでしょう?』
「「………」」
『少年はルールや決まりには厳しいからね』

ノブナガとウボォーギンは揃って顔を歪める。きっと良くない想像でもしているんだろう。

『…』

…なら、もう少し待てば直ぐに来るか。

勿論、彼らの身に本当に何かが起きているのであれば別だが。とりあえずは待ってみよう。


_バン


と思った瞬間に扉の開く音。見ると4つの影。

『噂をすればなんとやらだね』
「なんとやら?」

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