碧に染まって
□青のなか
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視界が真っ暗になった。
それと、音もなにも聞こえなくなった。
驚いて口を開くがそこでまた気づく。
息が吸えないのだ。代わりに何かが口に入り喉を通っていった。
…なん、だこれ。
そう思わずには居られない。
だってさっきまで私はビルの中で……!
そう思い返してひとつの可能性にあたる。
ここは真っ暗という訳ではない。上を向くと目映い光が見えた。それはキラキラと揺れていた。
その光を頼りに下を見る。
……その鋭い眼光と目があった。
男、ヘンリーが私の腰を抱きこちらを見上げていた。
生きているのか、とぎょっとしたが直ぐに気づく。
私のナイフは振り下ろされた。ナイフは男の首をひと突きにしていた。
その溢れだす血は上へ上へと登っていく。
………ここが何処だか分かった気がした。
ここは海だ。この瞳を刺す刺激と、喉を通っていった味。そして息が吸えない。…海だ。
そうと理解したらはやく上がろうとする。…しかし、男の腕が硬く離れそうにない。
男は最後の力でここへ移動し、私ごと死ぬつもりのようだ。
冗談じゃない。男はもう死んでいるし、私はまだ生きていた。
私にはまだ生きる意味があるのだ。こんなところで死ねない。
男の腕を剥がそうと力を込める。水の中だからか上手くいかない。
けれど、抜け出せた。
男が下へ落ちていく。闇へ落ちていくようだった。…男の行く先は地獄だろうな。
私は上へと手を伸ばす。その光へ向かって。
早くみんなのところに帰らないと。
約束したから。約束は守らないといけないから。
だから、
意識の消える寸前。胸の十字架が光で反射して輝いていたのが見えた。