碧に染まって

□赤髪
1ページ/2ページ



_長い 長い 夢を見ていた


これは、あの教会でみんなと楽しく過ごしている夢。


知らない子供も数人いた。

きっとこれはもしもの未来の夢。


私の望んでいた未来。
訪れる筈だった未来。




……いや、そもそも訪れる筈の未来なんて無いのか。

未来に何が起こるかなんて分かるはずも無いんだから。






_…私は死んだのか?

_だからこんな夢を見ているのか?


呟くと少年が私に笑って言った。


_ノアはまだ死んでない

_死んでないよ




________





『…………』

目を開けると灰色が目に入った。

そして手を目の前に掲げる。そして開閉。……手は動く、異常もない。

そこで、はっとなる。一気に目が覚めた。

『…………』

……私は生きているのか。

あの状況で生きていたのは運がいいというかなんというか…。

「やぁ、起きたんだね」

体は起こさず声の方向に顔を向ける。………少年が立っていた。

でも、私の知る少年ではない。

その髪は赤く、瞳は琥珀。…歳はクロロ少年と同じくらいか少し年上に見える。

『………』
「?ボクの顔に何かついてる?」
『いや、君も美少年だと思って』
「も?」
『こっちの話さ』

少年はにこやかな笑みを崩さない。その笑みはよく似合っているが、なんだか作られたものの様だった。

少年にいつまでも見下されている訳にもいかないので体を起こす。

「もう起きて大丈夫なのかい?」
『うん。私はどれくらい寝てた?』
「1日くらいかな」
『1日?……そっか、1日ね』

あんなに長い夢を見ていたというのに……いや、もしかしたら海の中にいた時間が長かったのかもしれないな。

『……』

…それにしても。

私は周りを見る。

周りは鉄板のようなもので覆われ、少年と私の間には鉄格子。左端には扉が有るが錠がついていた。

………起きたら牢屋って……。

少しの慈悲なのか私は布の上で寝かされていた様だ。鉄板の上で放り出されるよりはいいが……はたして喜んで良いか謎だ。

というか、なぜ私はここにいる。

「混乱してるね」
『そりゃあね』
「お姉さんは沈んでたんだよ、海に」
『うん、それは知ってる。でもそれで、どうして私がここに居るかが』

_ギィ

鉄の軋む音。思わず口を塞ぐ。

少年も口を結んだ。


_コツン コツン


と音がする。これは靴音か?…誰かが来ているのか。

段々と近付くその足音。

…そして止まった。

「お、やっと起きたか」

…明らかに私の前で止まったな。そして明らかに私に話しかけていた。

見上げると良い大人の男性だった。
綺麗な黒いスーツに身を包み、脇にはボディーガードを携えている。歳は私よりも一回り以上うえ。

『………』
「そう警戒するな。俺は貴女と仲良くなりたいのさ」
『と言われましても、既に友好的な接し方ではないですよね』
「逃げられたら困るからな」

逃げられたら困る……か。なんだか嫌な予感しかしない。

意識を飛ばす前、あんなことがあったために余計だ。今の私には"大人(男)=悪人"という認識の方程式が成り立っている。

『それで………一応助けていただいたんですかね』
「ああ、溺れもがいていた貴女を助けたのは紛れもなく俺だ」

男が言った時、視界の端に移る少年の顔に影がかかった。

『それは、ありがとうございます』
「礼はいい、俺としても助かったからな」
『助かった?』
「ああ」

そこで男はにやりとする。嫌な予感の正体が分かった。

「丁度商品が足りなかったからな」
『…………………………………はぁ』

…なんというか…やっぱりというか。

「…まるで理解していたような顔だな」
『ええ…まぁ…悪いことは続くもんだなぁと』

一難去ってまた一難とはこの事か。

むしろ、今までが幸福過ぎたのかもしれないな。…そうだとしたら、これから暫く私に幸せは訪れないことになる。……どんまい、私。

「…ま、理解しているなら話が早い。貴女はこれから商品として出品される。逃げ出そうなんて考えないように。言っておくがここは船の上。また海に戻りたくなければ大人しくすることだ」
『船の上?どうりで起きてから違和感がすると…』
「…それと今日の分の食事だ」

男性が後ろのボディーガードに指示を出す。すると牢屋の鍵を開け、持っていたものを置き、直ぐに閉めた。そして鍵をかけられた。

置いたのはお盆。お盆の上には皿に盛られたパンと、深皿に入ったスープが見える。普通に美味しそうだ。

『食事はしっかり頂けるんですね』
「貴女は特別だからな」

特別……。特別ね。
品質を保つためにも最低限の食事はさせる…ということか。といっても私に食事は不要だが。

「じゃ、しっかり見張っとけよ」

男性は少年に向かって言う。

「………」
「おい」

瞬間、ゴン、と鳴る。

男性が少年を殴ったのだった。
大方理由は少年が返事をしなかったからなのだろうが……あんまり良い気はしないな。

「…ヒソカ、あんまり舐めた真似してると躾するぞ」
「……すればいいだろ」
「っこのくそガキが…!」
『まぁまぁまぁ落ち着いて』

男性が少年の胸ぐらを掴み、また殴りそうだったので声を張って止めてみる。拳は止まったが男性の顔が勢いよく私に向いた。怖。

「一つ教えとく……貴女を少し傷つけたところでそこまで値は下がらない…この意味分かるよな?」

典型的な脅しというか……世の中の悪党はこういうのがテンプレなのか?

男性は少年を乱雑に離し、来た方向へ引き返していく。

そして勢いよく扉が閉まった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ