碧に染まって
□赤髪
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_長い 長い 夢を見ていた
これは、あの教会でみんなと楽しく過ごしている夢。
知らない子供も数人いた。
きっとこれはもしもの未来の夢。
私の望んでいた未来。
訪れる筈だった未来。
……いや、そもそも訪れる筈の未来なんて無いのか。
未来に何が起こるかなんて分かるはずも無いんだから。
_…私は死んだのか?
_だからこんな夢を見ているのか?
呟くと少年が私に笑って言った。
_ノアはまだ死んでない
_死んでないよ
________
『…………』
目を開けると灰色が目に入った。
そして手を目の前に掲げる。そして開閉。……手は動く、異常もない。
そこで、はっとなる。一気に目が覚めた。
『…………』
……私は生きているのか。
あの状況で生きていたのは運がいいというかなんというか…。
「やぁ、起きたんだね」
体は起こさず声の方向に顔を向ける。………少年が立っていた。
でも、私の知る少年ではない。
その髪は赤く、瞳は琥珀。…歳はクロロ少年と同じくらいか少し年上に見える。
『………』
「?ボクの顔に何かついてる?」
『いや、君も美少年だと思って』
「も?」
『こっちの話さ』
少年はにこやかな笑みを崩さない。その笑みはよく似合っているが、なんだか作られたものの様だった。
少年にいつまでも見下されている訳にもいかないので体を起こす。
「もう起きて大丈夫なのかい?」
『うん。私はどれくらい寝てた?』
「1日くらいかな」
『1日?……そっか、1日ね』
あんなに長い夢を見ていたというのに……いや、もしかしたら海の中にいた時間が長かったのかもしれないな。
『……』
…それにしても。
私は周りを見る。
周りは鉄板のようなもので覆われ、少年と私の間には鉄格子。左端には扉が有るが錠がついていた。
………起きたら牢屋って……。
少しの慈悲なのか私は布の上で寝かされていた様だ。鉄板の上で放り出されるよりはいいが……はたして喜んで良いか謎だ。
というか、なぜ私はここにいる。
「混乱してるね」
『そりゃあね』
「お姉さんは沈んでたんだよ、海に」
『うん、それは知ってる。でもそれで、どうして私がここに居るかが』
_ギィ
鉄の軋む音。思わず口を塞ぐ。
少年も口を結んだ。
_コツン コツン
と音がする。これは靴音か?…誰かが来ているのか。
段々と近付くその足音。
…そして止まった。
「お、やっと起きたか」
…明らかに私の前で止まったな。そして明らかに私に話しかけていた。
見上げると良い大人の男性だった。
綺麗な黒いスーツに身を包み、脇にはボディーガードを携えている。歳は私よりも一回り以上うえ。
『………』
「そう警戒するな。俺は貴女と仲良くなりたいのさ」
『と言われましても、既に友好的な接し方ではないですよね』
「逃げられたら困るからな」
逃げられたら困る……か。なんだか嫌な予感しかしない。
意識を飛ばす前、あんなことがあったために余計だ。今の私には"大人(男)=悪人"という認識の方程式が成り立っている。
『それで………一応助けていただいたんですかね』
「ああ、溺れもがいていた貴女を助けたのは紛れもなく俺だ」
男が言った時、視界の端に移る少年の顔に影がかかった。
『それは、ありがとうございます』
「礼はいい、俺としても助かったからな」
『助かった?』
「ああ」
そこで男はにやりとする。嫌な予感の正体が分かった。
「丁度商品が足りなかったからな」
『…………………………………はぁ』
…なんというか…やっぱりというか。
「…まるで理解していたような顔だな」
『ええ…まぁ…悪いことは続くもんだなぁと』
一難去ってまた一難とはこの事か。
むしろ、今までが幸福過ぎたのかもしれないな。…そうだとしたら、これから暫く私に幸せは訪れないことになる。……どんまい、私。
「…ま、理解しているなら話が早い。貴女はこれから商品として出品される。逃げ出そうなんて考えないように。言っておくがここは船の上。また海に戻りたくなければ大人しくすることだ」
『船の上?どうりで起きてから違和感がすると…』
「…それと今日の分の食事だ」
男性が後ろのボディーガードに指示を出す。すると牢屋の鍵を開け、持っていたものを置き、直ぐに閉めた。そして鍵をかけられた。
置いたのはお盆。お盆の上には皿に盛られたパンと、深皿に入ったスープが見える。普通に美味しそうだ。
『食事はしっかり頂けるんですね』
「貴女は特別だからな」
特別……。特別ね。
品質を保つためにも最低限の食事はさせる…ということか。といっても私に食事は不要だが。
「じゃ、しっかり見張っとけよ」
男性は少年に向かって言う。
「………」
「おい」
瞬間、ゴン、と鳴る。
男性が少年を殴ったのだった。
大方理由は少年が返事をしなかったからなのだろうが……あんまり良い気はしないな。
「…ヒソカ、あんまり舐めた真似してると躾するぞ」
「……すればいいだろ」
「っこのくそガキが…!」
『まぁまぁまぁ落ち着いて』
男性が少年の胸ぐらを掴み、また殴りそうだったので声を張って止めてみる。拳は止まったが男性の顔が勢いよく私に向いた。怖。
「一つ教えとく……貴女を少し傷つけたところでそこまで値は下がらない…この意味分かるよな?」
典型的な脅しというか……世の中の悪党はこういうのがテンプレなのか?
男性は少年を乱雑に離し、来た方向へ引き返していく。
そして勢いよく扉が閉まった。