碧に染まって

□執心
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ヒソカの食事を見届け、空いた食器は扉の前に戻しておく。

…さて、やるか。

「……何してるんだい?」
『腹筋』
「…どうして?」
『体を鍛えるためにさ』
「………そう」

それ以上ヒソカは何も聞いてこない。呆れた顔をしていたから、きっと呆れたんだろう。実に心外である。

教会にいた頃は毎日子供たちと戦闘ごっこをしていたからな。そのお陰で今生きているようなものだし。

…そういえばあの鎖はもう出せなくなったんだろうか。

ずっと試してなかったな…。あの鎖が使えていれば、少年とフェイをもっと効率よく救出することが出来たかもしれないのに。

私も一応念能力者というやつみたいだから、あの鎖が能力ならいつでも出せるはずだ。理論的ならばだが。

…そうだ。ヒソカに聞いてみよう。

『ヒソカ』
「なに」
『"念"って知ってる?』
「ねん?」
『そう、えーっとね…』

出来るかな…、と思いながらも手を伸ばしてみる。

そして念じる。そうだな…巻き付くなら格子がいいか。

_キン

「!!」
『…出来た』

金属同士の擦れ合う音。鉄格子に鎖が巻き付いていた。

…まるで私の手のようだ。力を入れればきつく巻き付き、緩めれば緩まる。

『こういうものを"念"って言うらしいんだけど………て、その顔じゃ知らないか』

ヒソカは彼らしからぬ驚き顔だった。

手下のやつが言っていたように、やはり念能力者とは極稀な存在なんだろう。

『…えっと、ヒソカ?おーい』
「…なに、これ、どこから…いや、隠し持ってた…?でも武器は予め調べた筈」
『ヒソカ』

強めに呼べばぱっと顔が上がる。

『これは"念"って言うらしい。因みに本物の鎖じゃない。正体は靄みたいな…白い霧みたいな感じだよ』
「…らしい?」
『私も詳しいことは知らないんだ。だからヒソカに聞いた』
「へぇ…まるで魔法だね」
『そうだね。魔法と変わらないよ。何もない所から鎖が現れるんだから』

…にしても、本当に出来るとは。あのときは念じても出来なかったのに…。
教会を出たからか?…外に出て、まず試しておくべきだった。

『というかヒソカ。こういうのは疑ったりしないんだ。これこそ疑うべきことだと思うんだけど』
「実際にボクが見ているから。疑うもなにも、キミの言っていることの辻妻があってる」
『あー…なるほど』

私は一旦鎖を消す。そしてまた出す。消す。……うん。ちゃんと制御できてる。左右両方とも出来る。

?そういえば

『ヒソカはこれが怖くないの?』
「怖い?仕組みの理解はできないけど怖いとは思わないよ」
『……』

…可笑しいなぁ。ヒソカが嘘を付いているようには見えないし。

…あの子たちはどんなときに恐怖を感じていたっけ…。

……

……………あ、

一つ 思い付いた。

『……』

私はヒソカに向けて手を開き、鎖を念じる。

『……………………なるほど、これか』
「……っ…」
『ごめん、ヒソカ』

ヒソカは一瞬で反対側の壁まで移動した。彼はこちらを睨み、ナイフを構えていた。…全て本能的な恐怖故だろう。

直ぐに念じるのを止め、手を下ろす。
ヒソカは荒々しく呼吸を再開した。

「っ、ボクに何をした…!!」
『…念を君にめがけて発動しようとした。…少し試しただけなんだ。子供たちが、そういえばこうやられたら怖がっていたのを思い出したから。……本当にごめん、説明してからやるべきだった』

私は頭を下げる。

…子供たちの恐怖は知っていた。なのにやってしまった。私には分からないからこそ気を付けなければいけないのに。

『ごめん…』

ヒソカの目は完全に私を敵としていたものだった。…嫌われただろうか。折角、やっと仲良くなってきてたのに…。

「………分かったから…そんな顔しないでよ」
『……私、どんな顔してる?』
「…苦しそうな顔」
『そっか…』

私は、彼らのお陰で子供に必要以上に敏感になっているのかもしれない。離れてみてそう感じる。

…それとも、彼らのいた空間を求めてるのかもしれない。ヒソカと話していると、確かに楽しいから。…それに落ち着く。

クロロ少年も大概だと思っていたが私も人のこと言えないな。…いつまでも元カレを忘れられない女か私は。


『………』
「………」


何とも言えない空気が流れる。そうさせたのは紛れもなく私なのだが、居心地が悪い。

「………さっき言ってた子供たちって?」

幸いにヒソカから話しかけてくれた。

『海に沈む前。私は数人の子供たちと生活してたんだ。あ、勿論自分の子供ではないよ』
「孤児?」
『…そうだね、彼らから親の話は聞いたことがないから。丁度ヒソカと同じくらいの年齢だよ』

ヒソカにも親は……いないんだろうな。

「ボクと同じ……お姉さんはボクをその子供と重ねてるのかい?」

そう聞かれて目をぱちくりする。真剣に聞くヒソカ。…なんだか笑いがこみあげてきた。

『っはは、重なることはあっても重ねようとは思わないよ。君は彼らとは違う。ヒソカだ。そりゃあヒソカと似ているタイプの子は居るけれど全く一緒ではない』

重ねることが無理だ。

「……こうやって頭を撫でるのも違うのかい?」
『これは癖だからまた別物。ヒソカにだってないかな。この人はあの人と似てるなー、とか思うこと』

文字通り頭を撫でながら聞くとヒソカは少し目を反らした。

「……ボクはキミみたいな人は初めてだよ」
『………そっか、それは嬉しいな』

嬉しみも込めて頭を撫でる。…撫でられるのは嫌いじゃ無いらしい。迷惑そうな顔は"ふり"だった。

『……さて』

名残惜しいが私はヒソカの頭から手を離し寝っ転がる。

「?」
『腹筋の続き』
「ああ」
『ヒソカも一緒に?』
「ボクはいいよ」
『そう』

この鉄格子さえなければな。ヒソカと組手とか出来るのに。ヒソカもそれなりに戦えそうだしな…。

教育欲が湧いてくる。こんな場じゃなければ色々と教えたいものだ。

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