碧に染まって

□偶然か必然か
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『ヒソカ』
「…なに」
『暇だ』
「……起きて一番に言うことがそれ?」
『ああ、ごめん。おはようだったね』
「いや、そうじゃなくて」

ゆっくりと上体を起こす。大分この鉄板上の毛布で寝るのも慣れてきた。
…よくよく考えれば教会でも床で寝ていたんだよな。まぁ、あのときと今じゃ感覚が全く違う訳だが。

三日目の起床。

視界の隅には食事。パンとスープ…スープは皿が格子を抜けられないから困るんだよな…。

立ち上がり取りに行く。昨日、多少体を動かしたからか、ふらつくことはない。

取ってきてヒソカの前に座る。

『またあの男性が?』
「うん。寝てるキミにキスしていたよ」
『……はっは、同じ手には引っ掛からないさ』

一瞬びくついた体を誤魔化すように声を張る。

「ああ…ゴメン。寝てるキミの胸を揉んでいたよ」
『!?』
「嘘。ただ気持ち悪い目でみたいただけ」
『…ひ、そかくん…』

私を見て満足そうなヒソカ。満足そうな良い顔をしてくれているのは大変嬉しいが、私自身は嬉しくない。

心臓に悪い嘘をついた後に、嘘であってほしい本当のことを言うのは止めてほしい。単純に、心臓に悪い。

『はい、私の心を傷つけた罰』
「罰って…罰がなくてもボクに食べさせるのはかわらないだろ」
『おー、良く分かってじゃないか』

格子の隙間からパンを差し出す。流石にヒソカも要領を得たのか、呆れながらも受け取ってくれる。

スープは……後で考えよう。

それより、だ。

『で、ヒソカ。私は暇な訳なのだけど』
「……ボクに言われても困るよ。キミはそこから出られないし、ボクが何か与えることも出来ない」
『だよねー』

やっぱりそうか。いや、当たり前と言えば当たり前なんだが。

私は一応捕まってる立場であるから、遊び道具なんか用意されているわけもない。この船にトランプやらがあるとも思えないし。

この牢屋の中には食器、スプーン、お盆、布。牢屋の外には見える範囲だと箱。

さて、この状況で遊べるもの…

『……』

ふと思いつきお盆の上のスプーンに手を伸ばす。

「食べる気になったのかい?」
『いや?』

私はスプーンを持ち、床に擦り付ける。キィ、と音が鳴り床の鉄板には傷がついた。

ピン、ときた。

……うん。これにしよう。

私はスプーンで床に棒を書いていく。
1本書いた下に2本横に並べて書き、その下に3本並べて書き……つまりはピラミッド状に縦棒を書いていく。全部で21本、6段。

『…よし、出来た』
「……一応聞くけど、何してるんだい?」
『これから君と私で遊ぶんだよ』
「…は?」
『じゃあまずルール説明するね。このゲームは基本交互に』
「!っ待って。勝手に進めないで」
『ん?なにかな』

声を張り上げたヒソカを見る。

「だから、勝手に進めないでよ。ボク、遊ぶなんて言ってないよ」
『そうだろうね。そもそも私は君に尋ねてないもの』
「………拒否権はないっていいたいの?」
『?………あー、いやそういうつもりじゃなかった』

ついつい遊びたい気持ちが先走ってしまった。確かに、押し付けはいけないな。

『拒否権はあるよ。ごめん、聞くのを忘れてた。君が、私と遊ぶのが嫌だと言うなら諦める』

一度スプーンを床に置きヒソカを見る。私自身も一旦冷静になる。…彼にも"監視員"という立場があるからな。

「……分かったよ。少しだけ」

ヒソカは少し考えた後、そう言う。

『そうこなくっちゃ』

私は満足げに頷きスプーンを手に取る。

『じゃあルールを説明するね。簡単に言うと、ここにある棒を交互に消していくゲームなんだ』

…はて、ゲームの正式名称はなんだったかな。棒消しゲームとか…そんな捻りもない名前だったような気はするが…。小学校辺りで遊んだものだから、忘れてしまったな。

『ただ、消せる棒は同じ段にある棒だけ。逆に言えば同じ段なら何本消してもいい』
「…段って言うのは?」
『横で見るから…今、一番上の段は棒が1本。一番下の段は6本。この横のラインを一段として考える』

指を指しながら説明していく。

「…つまり、一番上なら最高で1本までだけど、一番下なら最高で6本まで消せるってこと?」
『そういうこと。勿論、一番下で1本だけ消したって構わない』
「…それで、勝敗はどうやって決まるんだい?」
『そうやって互いに棒を消していって、最後に残った1本を消した方が負け』
「…消した方が負けなのかい?」
『そう。だからいかに相手に最後の1本を消させるか、というところだね』

次に相手が何本消すか…だから自分は何本消すか…そういう読み合いをして、隙にうまくつけこむ。

…慣れてしまうと多少の攻略法があるためつまらなくなってしまうが、ちょっと頭を使って楽しむには丁度良い。

『最初のうちは私も手を抜いてやる。チュートリアルだね。慣れてきたら本番』
「分かった」
『…そうだな。ただやるだけじゃつまらないし…罰ゲームでもつけるか』

私がそう提案すると、意外にもヒソカはにやりと笑った。私的には引かれるのを予想していたのだが。

「へぇ…いいね、それ」
『!あー、ただ罰ゲームというか、勝った方が負けた方に一つ質問できる。負けた方はその質問に必ず答えなくちゃいけないんだ』

ニヒルに笑ったのに危機感を覚えたのでとっさに罰ゲームの内容を設定する。…ヒソカに自由に決めさせたらなにさせられるか分からないからな。痛いのも苦しいのも好きじゃない。

それに、私はヒソカに聞きたいことがある。ヒソカも私に聞きたいことがあるだろうから悪い内容ではないはず。

『どうかな?』
「…まぁ、いいよ。必ず答えなくちゃいけないんだよね?」
『うん、必ず。そこは徹底していくよ。でないと、ゲームが面白くならないからね』

…良かった。一瞬つまらない顔になったが直ぐに笑みに戻った。

さて…私に何を質問する気なんだろうか。

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