碧に染まって

□お尋ね者
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質屋に行く道中解ったことだが、ここはヨークシンシティという所らしい。

景観は主に東京に似ている。ビルが立ち並びスーツ姿の人が多い。とはいっても、中には普通のお店もあるし市場のような場所もある。

そんな場所はきらびやかな装飾が彩っていた。普通の格好の人も多いし"セール"なんてものもやっていた。

『…なんだかお祭りみたいだ…』
「実際、祭りのようなものだよ」

私の呟きを拾ったヒソカが言う。私は首をかしげる。

『どういうこと?』
「ヨークシンシティでは年に一度、9月に世界規模のオークションが開かれるんだ。期間は10日間。今日はまだ三日目」
『へぇ…なるほど。そういうのがあるんだ』

それでこんなにも出店が出ていたりするのか。

「色んな高級品や珍しいものが集まるから一般人だけじゃなく、世界中のお偉いさんも集まる」
『お偉いさん……ああ、もしかして昨日私が"出品された"のもこのオークションの一環なのか』

ふと気づいて言うと、少しだけヒソカの顔に影がかかった。

「…そうだね。ただ、昨日のは闇オークションと呼ばれるもので公にはされていないものなんだ」
『そっか…ならよかった』
「え?」

私はヒソカの頬に付いていたトマトソースを指でとる。そして口に含む。うん、まぁまぁの味だ。

『それなら"昨日のこと"も公にはしずらいでしょう。表立って犯人探しをするわけにもいかない。つまり、私たちはそんなにこそこそする必要がなくなった。例え、捕まったとしてもオークションの内容を人質にできるからね。…あ、でもあそこに居たのはお偉いさんなのか……』

色んなトップを殺してしまったとなれば、それだけで様々なところに影響が出る。…公にしたくなくともせざる終えなくなる可能性は大。
そもそも、闇オークションの実態はその莫大な権力で揉み消されてしまうだろう。だとしたら……うわ、捕まったら問答無用で終わりだな。

『あー、いや。今の言葉は却下だな。この街がお祭り騒ぎのうちにここを離れた方が良いかもしれない。と思うのが普通だから、裏をかいて暫くはここに滞在しようか。木を隠すなら森にと言うし』

人が多い方が隠れやすい。

一通り言ってからもう一度ヒソカを見やる。ヒソカは私をじっと見ていた。

『何か疑問点でもあったかな』
「いや。…なんでもないよ」
『そう…それよりそのパスタは美味しいかい?』

聞き返したいところだが、ヒソカは別段いつも通りの表情なのでその気持ちはしまう。

なら、何か話題を変えようとパスタを振ってみる。ヒソカが食べているのは一般的なミートパスタ。

「ボクが今まで食べてきたものよりかはね」
『皮肉な言い方だなぁ』
「……美味しいよ。ノアが居るからね」
『!…そっか』

ヒソカが食べ終わるまで私は周りを観察する。勿論警戒も含めだが、単純に興味で見る。

ファミレスの店内から窓越しで見る外は何かの映画のようにも思えた。

私からしたら初めてのまともな外。

教会から出たときは廃材の山だったから、もしやこれがこの世界の外なのか…とも思ったがやっぱり普通はこっちらしい。

だとすると…あの教会はここから遠い場所なのだろう。廃材の山は見渡す限り途方もなく続いていた。だから簡単に行ける場所じゃないのはなんとなく分かる。…彼らに会えるのは随分と先になりそうだ。

『…食べ終わった?』

ミートパスタは無くなりお皿だけになっていた。

「うん。…今さらかもしれないけど、本当にノアは食べなくて良いのかい?」
『いいんだよ。お腹が減ってないからね。…お金をけちってる訳じゃないのは解るでしょう』

お金なら質屋で交換して大量に持っている。

ジェニーという硬貨は私の知る日本円と驚くほど酷似していた。硬貨類なんかはそのままだ。流石にお札はデザインが違うが。

ヒソカに銀行へ預けた方が良いとも言われた。この世界にも銀行はあることを知った。ますます親しみがわく。

外がどんなところか不安に思っていた部分も有ったのだが、ほぼほぼ消えた。

『さて』

私は伝票を取り、立ち上がる。…340ジェニーか。歩き出す私にヒソカも続いた。

レジへ行き、質屋で適当に買った財布から100とかかれた硬貨三枚と、10とかかれた硬貨四枚を差し出す。…レシートをもらうまでスムーズだったのでやっぱり私の感覚とあっているみたいだ。

『じゃあまず住む所を捜さないとね。人が多いところからあまり離れていない場所が良いな…何か心当たりはあるかい?』
「……とりあえず、場所に行ってみないと分からないかな」
『それもそうか。じゃあ行ってから考えよう』

ヒソカの頭を軽く一撫し、歩く。ヒソカが後ろに続いた。

『ヒソカ』
「!」

私はヒソカの背中を少し押す。そして私の隣に並ばせた。

『こっち、だ』

ヒソカが私の後ろを歩くのは多分癖みたいなものなのだろう。…今までの経験上からなのかもしれない。

正直、後ろに着かれるとヒソカのことが見えないためよろしくない。

『ヒソカ、次からは私の隣を歩くよーに。後ろだとヒソカが見えないから心配になる。一応私たちは今お尋ね者なんだから…て、聞いてるの?』
「!ぁ…うん」
『ならよろしい』

もう一度ヒソカを撫でると私は前を向いて歩いた。

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