碧に染まって

□黒曜
1ページ/4ページ


ここにもタウンワークよろしく求人雑誌はあるようで、デパートにあった無料のものをペラペラと眺める。

食品関係から製薬会社…一般的な工場もあるし内職や、少し危なそうなのもある。

日給三万ジェニー・T氏豪邸の警備・立って見張るだけでOK・安全安心・注※何かあったときの責任は全て自己負担でお願いします。

『………怪しすぎるだろ』

何かあったときの"何か"ってなんだよ。というか、安全安心の次にそれ書くか普通。ここまで怪しいと逆に気になってしまう位には怪しい。絶対何かあるだろ…。数日後にニュースにT氏豪邸が出てきそうで怖い。もちろん悪い意味で。

「何かいいのはあった?」

ヒソカがひょこっと横から顔を出す。頬の腫れは大分退いていた。子供パワー恐るべし。

『一部を除けば大体はいいかな……でも、大体が"履歴書持参"なんだよ』

適当に書いて面接をやり過ごすのは容易い。…ただ、後々を考えるとそうはいかない。定期的にやるなら尚更だ。

「履歴書なんて適当に書けばいいと思うけど」
『それはごもっともなんだけどさ、後々を考えるとね…それとも私が慎重になりすぎなだけか、?』

意外と履歴書なんて詳しく見ないかもしれない。私の友人は通ってた高校がバイト禁止だったが隠れてやっていた。でもバレたことはなかったと言う。

「…多分ノアならどこでも通ると思うよ」

控えめに、けれど確信をもった声で話すヒソカ。私はそれを聞いて笑う。

『はは、ヒソカも段々と私が分かってきたようだね。確かに、どこでも受かる自信はあるよ。特別な要項以外の所はね』

あくまで勝手な推測だが、コンビニやファミレスなんかの仕事は、普通に人と話せて、普通に働ければ問題ないのだろうと思う。
そこには"家庭科の評価5です"とか"100m走10秒切れます"とか関係ない。そりゃあ、あったら少しは面接が通りやすくなるのかもしれないが、なくたって受かる。

だとするなら私も例外じゃないので、基本的な所は受かるだろうと思う。

「………ノア」
『うん?』
「わがままって…ボクも言っていいんだよね」

急な発言に一瞬驚くが直ぐに脳内から関連した情報を引き出す。

『それは、もしかして昨日の話かな?うん、言っていいんだよ。…というか、わがままはそもそも許可を取って言うものじゃあない。許可を取ったらわがままじゃ無くなるでしょう』

とはいいつつも、ヒソカがわがままを言うなんて珍しい。一体なんだろうと雑誌から視線をヒソカに移す。ヒソカは私をじっと見ていた。そして目をそらした。

「…ボクが帰って来てノアが家に居ないのは嫌なんだ」
『………』

…なん、と可愛らしいわがままだろう。まさか、というか予想してない言葉だった。

『…ふふ』
「…ノア、ボクは真剣なんだけど」
『っはは!だってヒソカがとても可愛らしいことを言うからさ』

本心は昨日と同じく私に働いて欲しくないのだろう。それを、違う言い方にして誤魔化しているのが余計に可愛らしい。

言った本人も"真剣"と言う割には頬が赤い。照れているのか。

普段、私を好きだとか綺麗だとか散々口説き文句のような恥ずかしくなること(私は恥ずかしい)を平気で言うのに、一体どうしたものか。

加えて…ヒソカは今反抗期だと思ってたんだけどな…。昨日だって、怪我の理由を頑なに言わなかった。

それなのに、

『っふふ…はは!』
「…ノア」
『っくく…ごめんって!』

流石にヒソカの顔が険しくなってきたので笑うのを止める。それからヒソカの頭に手をのせ、ゆっくりと撫でる。指に絡む赤い髪が相変わらず心地よかった。

「それで、ノアはボクの"わがまま"を聞いてくれるのかい?」
『もちろん』

そう答えるとヒソカは少し目を開いてからほっとしたように息を吐いた。

……ヒソカが何かを隠しているのは昨日の時点で分かっている。それも、どうやら私に関係していることらしい。

基本的にヒソカの意向に沿ってきたが、私が関係しているとなるなら別。私個人の興味が勝ってしまう。

…次ヒソカが出掛けるときには後でも着けてみようか。

『でも、だとするなら働く場所は限られるなぁ。ヒソカが帰ってくる頃には家に居なくちゃいけないんだから……そもそもヒソカは帰ってくる時間が決まってない。だとするなら、いつでも抜け出せる"都合のいい"仕事…なんてあるかなーないよなーうーん、困ったなぁ』

勿論私の顔は笑顔である。そんな私にヒソカはため息を吐いていた。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ