碧に染まって

□真っ白で真っ黒
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使用人を鎖で締め付ける彼女の目は冷酷で、有無を言わせないものだった。

「そこまでじゃ」

そう言えば女は驚いたように此方を見る。まるでワシに気づいていなかったような反応。イルミと同じくらいの少年も同様に此方を見る。少年は明らかに驚き、警戒を露にした。その目は先程の彼女と似通っている。

イルミとシルバからの話じゃ、彼女は"相当な使い手"と聞いていたが…明らかに"一般人"のような驚き方にこちらが驚いてしまう。

『…凄いですね、ここの人はみんな気配が無いんですか』
「なに、ただの絶じゃよ」
『ゼツ?』
「…なんだ、知らんのか」

こうも完璧に鎖を具現化しているというのに"絶"を知らないときた。それも、嘘をついているようには見えない。

"相当な使い手"
シルバが言うなら間違いはない。自分の息子の力量は己が一番良く知っている。だが、その言葉に違和感を感じているのも事実。

「とりあえず、そいつを離してやってはくれんか」
『…では、私たちをここから出してくれますか』
「それは無理な願いだな」
『でしょうね…はぁ、別に殺す気は元からありませんよ』

女は疲れたように息を吐いてから腕を下ろす。同時に使用人の体に巻き付いていた鎖が消える。

「っはぁ!っ、申し訳、ありません、ゼノ様」
「おぬしが悪いわけじゃない。相手が悪かっただけじゃ。通常業務に戻っとれ」
「はっ!」

乱れた服装を素早く整えると一礼し、使用人は去っていった。

『……はぁ』
「随分と疲れておるの。まだ毒が抜けてないのか」
『再発したみたいです。折角逃げるチャンスだと思ったのに…あの銀髪の男性の他にも居たとは…』

ヒソカ、どうしよっか。

女は言いながらヒソカと呼んだ少年の頭を撫でる。その手つきは慣れたもので、少年も心地よさそうに見える。
…彼女の子供、というわけではないだろう。どちらも端正な顔立ちだが、似てはいない。一体どういった関係なのか。

「その子はおぬしの子か?」
『違いますよ。ヒソカは…』

そこで女は考え込む。どう言おうか思案しているようだ。催促はせず答えが出るまで待つ。時間はたくさんある。

『私の大切な…大事な…大好きな…護りたい、心地がいい…?…あれ、ヒソカ。私とヒソカの関係ってなんだろう』
「………」
『ヒソカ?』

わざとやっているのかと問いたくなるようなストレートな言葉。少年は彼女が言葉を吐く度に歯がゆそうないじらしそうに赤面し、それを見ている自分も変な気分になる。自分の妻にさえ、そんなことを言ったことはないぞ。

「…ノアのそういうところが」
『え、?…ごめん、もう一回』
「ボクもノアのことが大切で大好きでかけがえのない人だ、って言ったんだよ」
『んな!?』

恥じらいを誤魔化す為だろう。少年は声を張り上げて、先程女が言った言葉を復唱するように言う。するとどうだ。今度は女の顔が赤くなった。

『ひ、ヒソカくん。そう言う言葉はね無闇に言って良いものじゃないんだよ。嬉しいけど、心臓に悪いから』
「ノアがそれ言う?」
「………はあ」

自分の口からため息が出た。この、まるで付き合いたての初々しいカップルを見ているような気分はなんだろう。それも、ワシのような老いぼれには刺激が強い。

結局のところ、血の繋がりはないが大切な人、ということしか分からない。

「ぬしらの関係はもう分かった」
『え?今丁度意見をまとめていたんですが』
「もういい」

これ以上"惚気"のようなものを見せつけられるのはごめんだ。

…まったく。

警戒している自分がバカらしく思えてしまう。…とは言っても緩めることはしないが。

この女がゾルディック家にとって脅威になるのか、否か。それを見定めるためにわざわざ連れてきたのだから。

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