碧に染まって

□交錯
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取り敢えず立ち話もなんだという事になり私はある部屋に連れていかれた。

「…………そこまで不貞腐れなくてもいいだろう」
『いいえ、この際とことん不貞腐れます。私の立場とかもういいです。大人とかどうでもいいです。だからヒソカを返してください』

しかし部屋には"一人"で連れてこられていた。

折角ヒソカを探しに行ったのにこれはどういうことだ。これこそ拷問だと訴えてやりたい。

「なら今からでも連れ戻すか?」
『連れ戻す?』

その言い方に少しだけ違和感を覚える。

「ああ。お前の希望通りヒソカという子供は解放した」
『な』

……な、え!?

は、え。ちょっ。ま。

…………いや、まてまて落ち着け落ち着け。もう一度シルバさんの言葉を繰り返そう。そうだ繰り返そう。それがいい。子供は解放した。子供は解放…え、解放?

『え、と…何故。勿論嬉しいんですけど』
「あの子供がお前の事を知ってるかと思ったらそうでも無いみたいだからな。それに、お前がゾルディック家に居る以上人質はいらない」
『なる、ほど』

シルバさんの言いたいことは分かる。ゾルディック家に足を踏み入れてしまった以上、逃げるのは不可能であり、その為人質をわざわざ取る必要もない、ということだろう。

そうか。ヒソカはもう心配しなくても大丈夫なのか。…それは勿論嬉しいけれどせめて一言最後に話したかった。というか一言言ってほしい。

『…………嘘では無いですよね。そう言っておいて本当は…殺した、なんて無いですよね』
「安心しろ。殺すよりも生かしておいた方がお前を縛りやすいからな」
『…ならいいですけど』

…なんだかすっきりしない。結局それじゃあまだヒソカは人質である。

完全にシルバさんの言葉を信用出来ないから仕方無いのだが。…こんなにあっさりと別れるとは思っていなかった。無事ならそれに越したことはないけど、これはあまりにも。

『……』

喪失感。体の熱が全て覚めていく感覚に襲われる。周りの景色からも色が無くなっていく。そのなかでキラキラと輝く銀色がひどく目についた。

…彼らの時といい。どうして私はこうも別れが突然なのか。それも全て私の意図していない形で。

ただ、今回は瞬間移動とかではないからヒソカの位置がまだ分かるけれど。それでも"会えない"という状況は同じ。

『…それで、話とは何ですか。その前に私を生かしておく理由も知りたいですね』

自分の声が酷く冷めているのが分かった。でも仕方ないだろう。この何か物足りない感覚を隠すことは出来ない。

「これからお前にはオレ達の仕事を手伝って貰う」
『……………………………』

は。

またもや驚きだった。こんなに間髪入れずに爆弾発言を次々しないで欲しい。反応が出来ないし、頭も整理出来ない。

『私が言うのもなんですが、得体のしれない私が貴方方の仕事に手をつけるのはどうかと思いますけど』

最もな意見だと思う。ゼノさんの話じゃ元々私は殺す目的だった。その後生まれた別の目的というのがこれなのか?

『加えて、私がちゃんと仕事をこなす保証なんてありませんよ。信頼関係もありませんし』
「そこは問題ない」
『何故………て、ああ。ヒソカか』

解放?全くもって違う。言葉だけだった。…それでも、まぁこの家に居ないというだけで安心は出来るけど。

『というか…私は一般人ですよ。殺しの技術なんて持ち合わせていない』
「一般人、お前がそれを言うのか」
『…………それは確かに。すみません訂正します』

立派な殺人犯だった。ついでに言えば人かどうかも危ういのだった。

「確かにオレ達の仕事は殺しだ。でもだからといって殺しだけをしてる訳じゃない」

それは素直にそうなんだ、と思う。殺し屋なのだから殺しをするのだと思うのが普通だ。

「確実に仕留めるためにはそれ相応の準備が必要だ。お前には主にそっちをやってもらう」

そんな重要なことを私にやらせていいのだろうか。確かにヒソカが実質人質として取られている私は言われた通りにこなす気でいるけれど。…彼らにとってそんな保証はないだろう。

「その代わり念については一から教えてやる」
『…それは、どうも…。私の力を把握かつ制御しやすいから、という理由ですか』
「ほう。よく分かってるな」
『流石に予想はつきます』

やはりシルバさんは大人だ。抜け目がない。

……どちらにせよ、私にはなにも出来ることはないらしい。従うしかないのか。

『……因みに、仕事をする上で色んな場所に行きますよね』
「そうだろうな。何か不味いか」
『いえ』

ということはその分情報は沢山入ってくるというわけか。…なら私の本来の目的には近づいている。それは少なからず喜ぶべきか。暫くは自由に行動出来ないだろうけど。

『…結局私に拒否権はありません。好きに使ってください』
「…ほう」
『その代わり、ヒソカには手は出さないでくださいよ』
「ああ。約束しよう」

殺し屋との約束なんて(ましてや大人)信用できないが、今彼が頷いた事実があるだけで十分だ。

「イルミ」
「何、父さん」

ビク と肩を跳ねさせた私に罪はない。い、いつの間に…。ゆっくり隣を見ればイルミが何食わぬ顔で立っていた。

「……その様子じゃ早めに念は教えた方が良さそうだな」
『…すみません』

謝りつつ、何で謝ってるんだろうと思う。決して私が悪いわけでは無い。これが日本人の性なのか。

「部屋の案内は任せる」
「うん」
「他にも何かあればそこら辺の執事か、イルミか直接オレのとこに来い」
『分かりました』

イルミが扉を開けて出ていく。

『そういえば』

私も出ようとしてふと振り替える。

『私はノアと言います』

私の言葉にシルバさんは眉を寄せる。

「それがどうした」
『いえ、名乗ってなかったなと。これから…長らくお世話になるわけですから』

誠に不可抗力だが、こうなってしまった以上はどうしようもない。なら、さっさとそれなりに信用を得て、自由行動が許されるようになればヒソカにだって会える。…彼らにだって会える。
私はにっこり笑う。新手の詐欺商法なんかもそうだが、相手から信用を得るならまず笑顔だと思うのだ。

『名前をお聞きしても?』
「…シルバだ」
『宜しくお願いします。シルバさん』

私は一礼し、扉を開けて部屋を去った。

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