碧に染まって

□交錯
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ここはパドキア共和国のデントラ地区らしい。

ヨークシンシティからするとかなり離れている。

「夜も遅いですので本日はここをお使いください」
そう言われ、放り出される形で地区内のホテルに詰め込まれたボクは部屋の中で取り敢えず状況把握をしていた。

執事に聞いても"旦那様の命令ですので"しか答えなかった。

今まで散々拘束してきた割にはあっさりとボクを解放する。それも一人で。

…元々あいつらはノアが目的だった。なら、彼女が確実に手にはいった以上ボクは用済みということなんだろう。…殺されていない辺りは彼女が何か条件をつけたのか。それとも、殺さない方がノアを捕らえてられると考えてるのか。

とにかく、彼女がまだゾルディック家に居るのは確かだった。

…室内は綺麗に整っていた。加えて所々洒落たデザインが施されていた。
伝説の殺し屋ともなるとボクみたいなのにも金の羽振りが良いらしい。

こんなに良い部屋は初めてだ。けれど、決して嬉しい気持ちは湧いてこない。


ノアが居ない。


ベッドに目を向けても振り返っても居るはずはなかった。

寂しい、ような感覚は不思議と無かったけれど、何か視界に足りないとは思った。

寂しくないのは、つい先程無力感を味わったばかりだからだろう。
ノアはボクにとって良い毒でもあり悪い毒でもある。

彼女はボクが傷つくのを良しとせず、幸せな生活をさせてくれた。ボクもその幸せを喜んで享受していた。けれど、ふとしたときに残虐的な考えが浮かぶ。多分、どうしようもないボクの本能。

……だから、ノアとこうして離れたのは良い機会だと思う。

ある意味ボクはノアに縛られていたし、自ら縛っていた。彼女は無自覚だろうから余計にたちが悪い。こんな風でなければ離れることは無理に等しかった。


……けれど、いざ一人になってみると何をしようかと迷う。でも胸は高まっていた。変な高揚感がある。…自由であることに恐怖を感じないのは確実に彼女のお陰だろう。

「……………」

金色が何処にもない。何処にもいない。

分かってるし、納得もしているし、この状況は望んでいたことであったことも分かったのに。

それでも視界に彼女が居ないことが不自然でならない。

どうして彼女はいない、と考えて、すぐに答えは見つかる。その後また彼女を探す。

いつの間にか当たり前になっていたものが急に消えたんだ。戸惑うのも無理はない。

その内、慣れる。




「…………」

…慣れる、のか?

こんなにも彼女を探してしまうのに?



……2度目だ、と思った。

あのときも彼女が隣に居なくなって初めてどれ程彼女が好きかを思い知った。

『ヒソカ』
と、実はゾルディック家を抜け出したノアがボクに会いに来たりしないかと考えが過る。

けれどやっぱり部屋にはボク一人でノアは居ない。

…ふと、あの少年を思い出した。ノアはゾルディック家に居るのだから、あの少年の元に居るということ。ボクの元ではなく。

…それはなんだか、酷くイラついた。



「…………あぁ」



なら、取り返しにいけば良いいのか。

単純で、けれども確実な考えが思い浮かぶ。

今のボクには無理だが、それが可能になる方法を知ってるじゃないか。

"念"

それを使えるようになれば良い。

「……クク」

嫉妬心は嫌いじゃない。

ノアはボクからたくさんの"はじめて"を奪ったのだから、責任はとって貰わないと、ね。

「そうだろうノア」

彼女を確かめる様にその手を握った。

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