碧に染まって

□理想郷
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フェンスの向こう。更に道路の向こうには現代的な建物が立ち並んでいた。

ここが、端。

思ったよりも早く見つけてしまった。そして、ここに至るまでに捜し物はなかった。

『……』

また、ハズレだ。

一息つき後ろを振り返る。広がる廃材の山。建物なのかよく分からないもの。…でも、やはり違う。

私が知っているのはもっと、もっと一面に広がっていた。それこそ端なんて無いんじゃないかと思うくらい。地平線が見えるくらい。

「お姉さん!これ買って!」
『………』

お腹辺りに、ぽす、と衝撃を感じ見てみれば小さな女の子。差し出すのは…マッチ?……マッチ売りの少女…。

『……ごめんね。私もお金無いんだ』

多少のお金は持たされてはいるが、少女の願いを聞き入れるわけにはいかなかった。…ここには少女のような子供がたくさんいる。少女からだけ買って、他の子供からは買わないなんてことになってはいけない。

『ごめんね』

言いながら少女の頭に手をのせる。…がさついた髪。ぱ、と手を離した。少女と目が合う。少女の顔は驚いていた。

「……う、ううん……!お、お姉さんきれいだね!」
『え?』
「スッゴクきれい!わたしお姉さんみたいなきれいなものみたことないよ!」
『……そう。ありがとう』

少女の頭をもう一度撫でる。…少女は笑顔だ。その笑みにつられて私も微笑ましくなる。

「ノア」

聞こえた声。気づいていたので振り替えることなく答える。

『イルミ』
「何してるの」
『えっと……撫でてる?』
「見ればわかるよ……なに?知り合い?」
『?ううん』
「…ああ」

イルミの気配が近くなる。同時に少女の顔が青ざめていった。

『……?』
「…………」
「っ!!」

イルミが隣に並ぶと、とうとう少女は逃げてしまった。……はて、私はなにもしていない。ならイルミか?

『………イルミ?』
「なに?」
『…………怖がらせちゃだめだよ』
「怖がらせる?」

なんのことか分からないように首を傾げてみせるイルミ。

『その目…殺気が入ってる』

私はイルミの目下に親指を添える。…少女はこの殺気に恐怖して逃げたんだろう。………悪いことをしてしまった。

「そんなつもりなかったんだけど」
『無意識とでも言うの?』
「うん」
『………なら、仕方ないけど』

イルミの表情から真偽を読み取るのは難しい。イルミの頬から手を離す。それから頭に手を乗せる。

『……身長、伸びた?』
「そう?」
『うん』

時が経つのは早いもので、イルミは今12歳。12歳といえば小学校六年生。
これから思春期を迎えるであろう年代。心も体も成長する大事な時期。……イルミは元々大人びているから心の成長は分かりづらいけれど、体は目に見えて分かる。

……これからもっと伸びるからなぁ。私の背も直ぐに追い抜くだろう。

だからこそ。頭に手が届くうちにたくさん撫でておかないと。

『ハズレだったよ』
「そう」
『……ほんと、どこなんだか』
「………」

時が経った、ということは同時にゾルディック家…主にシルバさんからの信頼を得る時間がたっぷりあった。

その結果。今では多少のわがままや、同伴つきだが外出が許されるようになっていた。

……信頼を得るために色々やった。

能力の説明は勿論、ここにいたる経緯も、死んだ私に関すること以外は包み隠さず話した。

仕事も最善を尽くした。内容はシルバさんが始めに言っていたように、私がメインではなくシルバさんやイルミのサポートだったり、それこそ情報収集だったり…。それでも、中には殺しもあった。

…幸いにも、子供は無く、標的は全て"悪い大人"だった。

そうやってこつこつと信用を築いていった。……ただ、本心から信頼されることは恐らく無いだろう。疑われる部分は決して無くならない。…それでも、表面上だけでも、それはとても大切なものだ。


そうして、形式上のものであっても確かに外出許可を得た私は早速彼らの捜索にあたった。

あの光景があるとしたら街のスラム。それも、一面に広がる廃材の山…となれば絞れる。それでもたくさんあることに違いはないのだが。

一つ、一つ。確かめる。それしか今の私には方法がない。手がかりが私の見た光景である以上仕方がない。

何年かかろうが私は見つける。

「じゃ、帰るよ」
『うん』

先に歩くイルミを追った。


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